「頼んだぞ。」
そう言って、伝書鳩を大空へ放した。 その足に手紙をくくりつけて。 港町にいるであろう、親友に。
鳩が見えなくなったのを確認すると、青年は溜め息をついた。
これで、四月目であった。 彼からの連絡が来なくなってから。 「彼女が魔法都市で石になってしまったらしい。」という手紙以来、彼の元へは手紙一つ届いていなかった。
月に一回、連絡を取り合うという約束なのに。 彼は一度たりとも約束を破るなどということはしたことがなかったのに。
そして“彼女”からは・・・手紙一つ、あの日から届いたことはなかった。 幾度はこちらから出した。 しかし期待もむなしく、何一つ戻っては来ない。
ポケットからもう一枚の紙切れをとりだした。 “彼女”へあてたもの。
「・・・ディアナ・・・。」
この世で最も愛しい人へ。
「・・・またアンタか。」 「へへーっ!よっ、おにーさん!またお会いしましたねーv」 「ああ・・・。」
彼、瑠璃は大きな溜め息を吐いた。
「あ、ちょっと!今日はなんとなく来たんじゃないよ! ここに用事があって来たんだ!」
今回は本当。 自分と十も年の離れた親友に会いに。 ここは断崖の町、ガト。 修道女が多く見られ、大きな寺院もある。 彼女はそこで僧兵をしていた。 とある縁であたしは彼女と知り合い、共に戦った。 辛いことも悲しいことも、一緒に乗り越えてきた。 今は独り、主のいない夢見の間を守っている。
「フン、そうか。じゃあな。」 「あ、ちょっと!そうすねて行かなくたっていいじゃんか!」 「誰がすねるか誰が!!ただオレは煌めきを感じたから・・・!」
瑠璃はマズイ!といった顔をした。 だがもう遅い。 あたしはにんまりと笑った。
「てコトは、仲間がいるかもー、ってことなんだね?」 「・・・・・」 「よーし、あたしも行く!さ、がんばって見つけるよ!!」 「・・・やっぱりな・・・。」
なんて、別に会った瞬間からあたしの心は決まってたけどね。 ごめん、今日は許して!!
「で、真珠ちゃんは?」 「・・・・・」 「・・・わかった。」
もう、何も言うまい・・・。 真珠ちゃん・・・。
「誰かなんとかしれーーーーー!!!!」
テラスの方へ、草人が暴れながら去っていくところに偶然でくわした。 一体何があったのだろう、というあたしの呟きを瑠璃は相変わらず冷たくあしらう。 いらんことに首をつっこむな、だって。 すみませんねー。あたし、ただ見てるだけってのが苦手なの。
「何があったんですか?」
さっさと行こうとした瑠璃のマントを手でつかみつつ、そこにいた修道女に話しかける。
「あの方、お腹が痛いと言ってさっきまでそこにうずくまっていたんです。 道具屋の方で休ませて頂こうと思ったのですけれど、彼、あまりにも痛かったのか途中で暴れ出してしまって・・・ 大丈夫かしら・・・?」
あんだけ元気に走って行ったんだから大丈夫だろ、と関心なさげに瑠璃は言う。 つかまれているマントを必死に引っ張りながら。 あたしは、ただ「草人って“彼”なのかなぁ」と、あまり関係のないことをただぼんやりと考えていた。 瑠璃のマントをつかんだまま。
「もういいだろ、リタ! さっさとオレのマントから手を離せ!!」 「あ、ごめん。忘れてた。」
さも何事もなかったかのように、ケロリと手を離す。 瑠璃はあたしの腕をまじまじと見て、その怪力さはどっからきているんだ、とまた大きく溜め息を吐いた。 果たして喜ぶべきなのか、怒るべきなのか。
とりあえず、あたしは怒ることを選択した。
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