抜糸をした夜、先生がやって来て精密な検査の結果も良性だったと告げた。私は悪性の呪縛から開放され 心が晴れた。隣のベットのAさんも 笑顔で喜んでくれた。Aさんは癌である。それなのに 素直に祝福してくれる。でも私には何もしてあげられない。ただAさんを慕う事くらいしか。
退院前に、終わった手術の説明があった。腫瘍を摘出する時に腸の壁が だいぶ傷ついたので 食事をかなり遅らせたそうだ。壁が薄い為に腸に穴があいてしまう危険があるからだ。ガスがなかなか 出なかった時、先生の顔が一瞬にして曇ったのも その心配のせいだったのだろう。
それにしても思ったよりも早い退院なので先生に「退院して大丈夫なんですか?」と聞くと「もう緊急を要するような事態の心配はなくなったので 大丈夫です。逆に家に帰った方が 病院より体を動かすようになるので、返って良いんです」と言った。
今、一番心配なのは 腸の癒着なのだそうだ。傷が完全に治るまでの 一番癒着を起こしやすい、一、二ヶ月の間に、体を動かす事が癒着の予防になるのだと言う。
退院する日がやって来た。Aさんが「退院しちゃうと寂しくなるねぇ」と言ってくれた。それは私も同じ。嬉しいと言うより 寂しかった。退院したら いつもの生活に慣れる為のリハビリが待っている。
実家の母が病院に迎えにきてくれた。看護師さんや Aさんに、丁寧にお礼を言って さよならをした。Aさんは、優しい人だからきっと 皆に支えられて病気と闘ってくれるに違いない。
病院の自動ドアが開いた。13日ぶりに外に出る。冷たいけど気持ち良い風が、吹いてきた。それは13日前とは違う私に、新しい息吹を吹き込むかのように。私は生かされたのだと思う。お腹の傷は少しだけ私の自由を奪ったけれど、計り知れない、自由も同時に与えてくれた。その事に感謝する気持ちを忘れまいと思うのであった。
これで 今回の入院の日記は終わります。次回からいつもの日記に戻ります。 読んで下さってありがとう。
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