女房様とお呼びっ!
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2003年07月13日(日) 無言調教 〜密室にて 1〜

部屋に入り、殆ど無駄口をたたくことなく、準備にかかる。
調教といえども普段なら、一息つく頃合に多少の会話を交わすのだが、この時はそうしなかった。
僅かでも愛想をすれば、やる気の腰が折れてしまうような気がした。
奮ってここまで来たのなら、どうあってもやり果せねば…。
そんな決意にも似た力みもあったと思う。

もちろん奴だとて、暢気な心持でいたはずもない。
私同様、先のこじれを引きずっていようし、
加えて先の一週間、私が独り語りに綴った記事のせいで、気も沈んでいたと思う。

そう承知しつつも、しかし、
私は自分のことに精一杯でどうにもしてやれなかった。



この日の行為を、「調教」でなく「お仕置き」と位置付けてやれば、
奴としては多少気が楽だったのかもしれない、と今にして思う。
いや、当時も、その考えは頭をよぎったものの、結局思い切れなかったのだ。

客観的に見れば、調教だろうがお仕置きだろうが、行為自体はさほど変わらない。
が、私の中では明確な区分があり、きちんと区分することに、互いに跨る意味を見ている。
仕置く理由が明白で、且つ、そこに起因する自身の感情がひと段落していれば、「お仕置き」は可能にして有効だ。
行為が終われば、憂いの全てが決着する。

しかし、今回のこじれの原因となった奴の言動について、私はこの時未だ消化しきれずにいた。
理性で受容しようとすると、感情が阻む。
けれど、その感情たるや、甚だ自分勝手なものだと自戒する。
自戒しつつも、既存の価値観に縛られて理解が進まない。

そんな堂々巡りの中で自分を持て余し、正直なところ、
これから行おうとしていることが、調教なんだかお仕置きなんだか、自分でも判然としなかった。



この日入った部屋は、ベッドを除けば動けるのは2畳程という狭い造りで、およそSM行為には向かない。
けれど、今回ばかりは、その狭さが功を奏するだろうと期待した。

いつものように脱衣を命じ、首輪を授ける。
小さなテーブルをベッド脇につけ、その脚と首輪を鎖で繋げると、
奴に許される行動範囲は、ほぼその空間と同じになった。

鎖に繋がれた奴は、精一杯に四肢を伸ばして、床にシートを拡げていく。
一番遠い対角に難儀しながら、奴は、喉に食い込む首輪の意味を改めて知るだろうか。
不自由を余儀なくされる動きこそが、すなわち奴隷の意義なのだ。
床に這う奴の姿を眺めながら、そんなことをつらつら思う。
その傍ら、用意してきた道具をベッドの上に並べる。

並べ終わった頃合に、奴も作業を終えて、シートの上で正座の体勢となっており、
予定通り、その口をガムテープで丹念に塞ぐ。

その途端、奴の視線は、心の動揺と緊張を映して泳ぎ始める。
が、その目線の先には見慣れぬ大きな桶があり、奴の不安を更に煽ることになったろう。
実際、使い道を承知している私にさえ、その桶の存在は異様に見えたものだ。



奴の不安を捨て置いて、今度は私が準備をするために立つ。
部屋同様に狭く、しきりもない洗面所に向かえば、そこは奴の位置から丸見えだ。
が、支度をし終えるまで、奴がこちらを見ることはなかった。


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