女房様とお呼びっ!
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涙目で笑うカマスの顔は、確かに変テコなんだけど悪くない。ちょい照れるケド。 これまでに、幾度この表情を見ただろう?再々ではないものの、何度か遭遇した。 彼がソンナ顔をするのは、無論、私の前だけではない筈だけど、それでいいのさ。 中年男の純情なんて、滅多にお目に掛かれない。その事が、私には幸いなのヨ。
先の告白で弾みがついたのか、涙腺緩んだ拍子に、更に心のタガが外れたのか、 暫くすると、またカマスが「これは誰にも内緒にして下さいね…」と喋り始めた。 私は、少し吃驚する。そんなエクスキューズは、初めて聞いたゾ?ナンダナンダ? 聞けば、なるほど、そりゃトップシークレットだな・・・てな訳で、伏せ字ご容赦。
・・・・・。
「ボクね、本当は**が一番好きなんですよ。前は、そればっかりして頂いてたし」 前というのは、彼が独身時代の話だ。かなり長期間、隷従を勤めたと聞いている。 「多分今でもね、**されたら、訳ワカランようになると思う。ハマルっていうか」 「でも、ハマっても、ボクの場合ダメじゃないですか。ハマル訳にいかないんです」
「普段、あちこちで可愛がって頂くけど、皆さん、ボクが**苦手だと思ってる…」 「勿論、ヤったら色々支障もあるのは事実です。それを、ボクは言い訳にしてて…」 「それで、皆さんそのように気を遣って頂きます。凄い有り難いし、助かります…」 「でも、ホントは喉から手が出るほど、ヤって頂きたいんですよ。ホントはね…」
実際、カマスが**NGというのは周知されてて、無理強いする者はない。ソレデ? 「あちこち行くと、**出来る人が、女王様にヤられてるの見る機会があります…」 この「あちこち」てのは、SMパブとかパーティーの意。彼は、再々出没してるのね。 「ボクは、周りで囃したり、笑ったりしてますけど、本当は見てるの辛いんです…」
「自分が実は好きな事を、他人がヤられてて、ボクは見てるだけってのも辛いし…」 「**がお好きな方のお役に立てないことも、辛い。ホントは出来るから余計に…」 「時々、ワーッと体を投げ出してしまいたい衝動が来て。何とか抑えてますけど…」 「何のお役にも立てないボクが、ここに居てもいいのかな?と思ったりもするし…」
・・・・・。
そういえば、以前、あるパーティーで同席した数日後にも、こんな顔を見たっけ。 街場のバーで一緒に飲んでる時に、彼の顔が歪んだの。しかも急に。慌てたよ。 そして言う。「ありがとうございました…」何に礼を述べてるのか判らず、戸惑う。 「ナニナニ、どしたの?」仕方なく、笑って問うた。あぁあぁ、泪零れそうだぜ?
「あん時、ご聖水を下さって…」ヤダ、泣く程のことかい?だって、好きでしょ? 「あの場では、ボク何も出来なくて、隅っこにいるしかなくて…」あ、そだったね。 「そんなボクなのに、優しくしてもらって…」あはは、それで感激したの?安いネ。 「・・・」皆で楽しむパーティーだろ。同情したんじゃないぜ。泣くな。鬱陶しい。
私は、大笑いしながらそう言い捨てて、ゴクゴク酒を飲んだ。彼は菓子を囓った。 そうさ、あの時、ぽちんと座るキミに心が動いた。悪いが、可哀想にと思ったヨ。 皆がプレイに興じる騒音の中で、ナニヤッテンダと苛ついたしね。ま、そゆ事さ。 だから、そんな顔するな。「ポッキーに酔ったかい?」漸くそれだけ言った。笑え。
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「あー、ナンカ言ってる事、ワカランようになってきました…」彼の告白が終わる。 「禁煙してる人が、辛抱堪らず一本だけ吸ったら、元の木阿弥ダヨって話だった?」 そう茶化すと、俯いた彼が顔をあげて、笑顔を見せた。「あ、そう言えばヨカッタ」 「禁煙のコツは、またいつでも吸えるって気楽にやることらしいぜ?」言葉を継ぐ。
「それか、口寂しくないようにガム噛んだりネ・・・煙草以外にやる事あるじゃん?」 「例えば、こんなんも悪くないでしょ?」そう言って、私はカマスの顔に腰掛けた。
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