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| 2001年09月14日(金) | Ｒに捧ぐ �� |
姫の産着は、さらしの木綿。その柔肌にちくちく刺さる。
それで、幼き姫は眠れない。いくら、乳母があやしても。
ああいたわしや、不憫な姫様。招かれざる妖精、祈りを捧ぐ。
いついつまでもお健やかに。いついつまでもご存命で。
家臣はほっと胸をなで下ろす。やれやれこれで、ひと安心。
なぜならば、姫のお命危うき折には、あわや己の首が飛ぶ。それに
寝ない、食べない姫様に、ほとほと手を焼いていたものだから。
十五の春を迎えても、姫は未だ眠ることを知らず。
ただひたすらに目を開いて、あらゆる事を見聞きしてしまう。
世の中にはきっと、ずっと知らなくてもいい事があるはずなのに。
永遠の命を約束された姫はしかし、身の程知らずの知りたがり。
・・・あの高い塔のてっぺんには、何があるのかしら？
またも余計な誘惑に身を焦がす。未知の危険に魅せられて高みに登る。
＊＊
グリムが語るとおりなら、ここで姫はめでたく永い眠りにつくことになる。
老婆の奸計、凶暴な糸まき、乙女の純情刺し貫いて、哀れ姫は沈黙する。
・・・・のだが。
＊＊
天に近いその室で、姫に啓示がもたらされた。まだ、眠ってはならない。
見渡す景色に絶望する。自分は何てちっぽけで、何と不足していることか。
焦燥感に身悶えながら、今はただ、安寧に眠りにつくことに憧れるしかない。
ああ、その願いが叶うまでに、どれほどの世事に身をやつせばいいだろう？
悩める姫を癒すのは、つかのまの白昼夢・・・覚醒しながら見る夢の数々。
呪いが契った残酷なさだめは、容赦なく。ああいたわしや、不憫な姫様。
遠き国より出し王子よ、唯一無二の剣を、いざ振るえ。
城を囲む茨を断ち、邪な妖精を切り捨てて、高い塔に上れ。
呪われた姫の白き喉輪に、その刃の切っ先を突き立てよ。
そしてどうか耳を傾けておくれ。
苦しげに鳴る喉笛の下、生まれて来し方、初めてたてる寝息の安らかな響きに。
そして出来るなら、閉じ忘れた姫の瞼をそっと押さえてやって欲しい。
