サッカー観戦日記

2017年03月20日(月) 奈良県1部リーグ 一条−奈良北 郡山−法隆寺国際 香芝−橿原

奈良県1部リーグはプリンスに昇格した奈良育英を除く奈良県最強の高校生年代10チームが参加するリーグ戦で、近年の奈良県の充実に大きく貢献している。つまりかつては奈良育英と一条の2強が圧倒的に強かった時代から一変し、第2集団も全国で通用するレベルにまで引き上げた。年間18試合の総当たりで揉まれたチームが2強を突き崩し、多様性に溢れた奈良県の高校生年代を作りつつある。一条は頭角を現したときはバックラインを押し上げ、フラットな4−4−2によるプレスからのショートカウンターが攻め切るスタイルで、当時の奈良県に求められていた高度に戦術重視のサッカーだったと思うが、多様性に溢れた奈良県の中学生年代からすると、2強がともに堅守から素早く攻め切るスタイルだったので、高確率で全国に行けるにもかかわらず、進路としては魅力の少ない県になってしまい、他府県に人材が流出するようになってしまった。しかし近年一条は大きく方向性を変え、4−3−3で繋ぐサッカーを志向し始める。まだ繋ぐサッカーの理想には程遠いだろうが、成功したチームには難しい、自らを変革する姿勢を打ち出すことには尊敬の念を禁じ得ない。成功体験は保守的になり変革を阻害するものだから。


奈良県1部リーグ
10時 郡山総合庁舎グラウンド クレー 晴
一条高校−奈良北高校

一条           奈良北
−四番−−十四−−二三− −−−八番−−九番−−−
−−−十番−−十一−−− −−−−−−−−−−−−
−−−−−十五−−−−− 十八−十番−−六番−七番
九番−五番−−三番−十二 四番−五番−−二番−三番
−−−−−一番−−−−− −−−−−十二−−−−−

試合開始直後から一条が攻め込む。3分、23番の左シュートで先制。1−0.一条は165番が抜群のキープ力で危険な位置で失わず散らせる。危機察知能力も素晴らしい。5番は当たりに強く、声もよく出る。それも具体的指示と味方に気迫を伝える声と両方出せており、キャプテンマークは確認できなかったが、見事なリーダーぶりである。10番は技巧を誇り、トリッキーなプレーも見せ、不用意にボールを失うこともあるが、なかなか魅力的な選手である。かつての堅守速攻の一条なら、こういうミスする選手は使われなかっただろうが、ミスを恐れないスタイルに変えるあたり、前田先生は並の指導者ではない。奈良北もバランスを保ちつつ大きな問題はないサッカーを貫くが、中心選手の10番が楽にボールを持たせてもらえず、攻撃面ではカウンターをなかなか繰り出せず、耐えて流れが来るのを待っている印象。その判断は間違っていない。29分、一条4番→13番。左サイドバックに入り、9番が左ウイングへ。奈良北も9番→11番。33分、一条、右クロスを23番ヘッド、正面。決定機。43分、一条、右クロスに正面に飛び込んだ10番がヘッド、左隅に決まり2−0。前半は2―0で終了。

ハーフタイムで一条11番→6番。インサイドハーフ。23番→7番。右ウイング。開始早々奈良北は前からのプレスに行き、戸惑ったか一条GKミスキックで奪われるが事なきを得た。しかし48分(後半3分)、またも一条GKパスミスを奪い、奈良北誰か?が決めて2−1。一気に流れが来た奈良北が押し込み、54分、左クロスに一条がハンドしてしまい、PK。奈良北10番が緩いキックで右隅を狙うが完全に読まれ、一条GK1番キャッチ。完全にプレッシャーに負けてしまった感じ。このプレーで再び一条GKが自信を取り戻す。13分、59分と一条がクロスから形を作り、61分奈良北9番→17番。4−2−3−1のプランBに変更する。

奈良北
−−−−−八番−−−−− 
−十一−−十番−−十七− 
−−−六番−−七番−−− 
四番−五番−−二番−三番 
−−−−−十二−−−−− 

63分、奈良北、右FKに正面8番ボレー、超決定機も一条GK好反応、足で防ぐ。これで完全に流れが一条になった。そして73分、一条、右から崩し7番が決める。3−1。奈良北が落胆するのが手に取るように分かった。78分には一条の右クロスを10番流し込み4−1。この後GKを含め一条は次々と選手交代、逃げ切る。4−1で試合終了。

奈良北はPK失敗があまりに痛かった。あの時間帯は一気に逆転も狙えたが、PKを自信をもって蹴られなかったのが痛い。点差ほど力の差はないし、これはもう自信の差としか言いようがない。一条は不安定だったが、シーズンが進むと改善されるだろう。ただコーチングは全員しっかりしていたが、苦しい時に味方を鼓舞する声は5番からしか聞こえず、もう少し「声の責任」を分かち合いたい。奈良北とは絶対に勝てるような力関係にないのだから、悪い流れのときにどう耐えるのかは大切だ。



第2試合の郡山はかなり極端のサッカーをする。つまり自陣から徹底的にショートパスを繋ぎドリブルを交えた細かいサッカーで崩しにかかる。こういうサッカーは得てして批判されるものだが、奈良県にはこういう極北に振れた技巧的で楽しいサッカーは必要だと思う。法隆寺国際はプリンスリーグの経験がある。こちらもコンスタントに強い。

奈良県1部リーグ
12時 郡山総合庁舎グラウンド クレー 晴
郡山高校−法隆寺国際高校

郡山           法隆寺国際
−−−三三−−四−−−− −−−−−−十一−−−−
−−−−−−−−−−−− −−−−十番−−−−−−
三一−九十−−五五−七七 十六−七番−−六番−八番
二八−三七−−三九−三四 四番−五番−−三番−二番
−−−−−五一−−−−− −−−−−二一−−−−−

法隆寺国際はレフティ10番にボールを集め、10番も下がって受けて起点になる。フリーキックも担当、強いボールも蹴れる。10番を活かしきるスタイルだ。対する郡山は90番が左足で組み立て、31番は積極性が目立つ。13分、郡山、右CKで90番の左足にファーに走り込んだ31番がヘッドで叩き込み1−0。郡山はベンチから「勇気持っていこう」との声が。確かに後方で繋ぐには勇気がいるし、郡山のテーマと言えばテーマだ。20分、法隆寺国際、7番が右から仕掛け、ペナ手前で倒され、FK。右45度22m、法隆寺国際10番が左足で左上に強烈なシュート、郡山GK好反応で弾くもこぼれを法隆寺国際6番か8番が押し込む。1−1。24分、郡山31番、左CKゲットして55番右足で蹴る。逸機。30分、郡山スルーパス、GKの位置を見て、左寄り31番ループを決め2−1。素早い好判断。42分、法隆寺国際、スルーパスに16番が左から突破しシュートもサイドネット。決定機。郡山もレフティー33番がドリブルシュートはキャッチされる。前半2―1で終了。

前半シュート数7(6)対4(3)、CK数4対0、GK数0対3、オフサイド数0対1、クロス数0対1、ファウル数4対5、FK数1対1、ただし法隆寺国際10番のキックは脅威なので壁を作らない、カウントしない位置からでも危険だ。枠内シュート率の高い精度の高い前半。

後半開始。法隆寺国際ベンチ「足出すな、我慢、我慢」と指示。郡山の細かいタッチのドリブルに対し下手にファウルすると危険な位置でのFKになってしまう。58分、法隆寺国際10番のFK、CKも逸機。郡山34番→87番。そのまま右サイドバック。法隆寺国際も11番→17番。11番はフォアチェック頑張っていた。後半は法隆寺国際が積極的に突っかけ、郡山が次々にファウルを犯し、10番の左足が飛んでくる苦しい状況になる。しかし粘り強く跳ね返し続け、勇気をもって繋ぎ、なかなかいいハート。シュートにも身体を投げ出し、枠内に飛ばさせない。結局郡山はファウル12にも上る相手FKを耐えきり、2−1で勝利した。

後半シュート数3(1)対5(1)、CK数1対2、GK数5対6、クロス数3対0、ファウル数12対2、FK数1対4。

結果はどっちに転んでも不思議ではなかった。郡山は魅惑のパスサッカーを見せてくれたし、法隆寺国際は10番の才能を活かしきるスタイルで健闘した。双方伸びしろは十分ある。郡山は毎年ながら繋ぐサッカーがどこまで完成するか、連携を高められるか。法隆寺国際は10番が引いたときに受け手がどういう動きを見せるか。セットプレーの工夫はこれからだろう。今後とも楽しみ。




第3試合の香芝は奈良県の「第2集団」では筆頭格である。すでに全国でも十分通用するレベルに達している。昨年までの優秀なコーチが抜けたという点が気がかりではあるが、JFAの指針そのもののような、無理なくつなぐサッカーは奈良県では最も標準的でバランスが取れている。対する橿原は近年頭角を現し、力だけならすでに十分全国を狙える高校である。あとは強豪たる自覚とか欲望・執念といったものが身につけば、ギリギリの勝負をものにすることができるだろう。



奈良県1部リーグ
香芝高校−橿原高校
3月20日 14時 郡山総合庁舎グラウンド クレー 晴


香芝           橿原
−−−四番−−十七−−− −−−二三−−十五−−−
−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−
十一−二二−−七番−十番 二二−七番−−十番−八番
三番−十三−−五番−九番 十四−二番−−三番−六番
−−−−−十二−−−−− −−−−−一番−−−−−

立ち上がりから香芝は確実にパスを繋いでいく。全員が連動してパスコースを作っていき、無理なくフリーの味方を使い、無理なら戻して作り直し、詰まっても無理に突っかけたりせず、クロスや無理なシュートもない。まさに自然体のサッカーである。これに対し橿原は局面で激しく潰しに行き、なかなか戦えている。3番は屈強で激しく当たり、10番はいい判断から素早いパスがある。香芝では長身17番を軸に、10番はいい飛び込みと味方のためのスペースを空けて5番はノーリスクでクレバーな守備。とにかく香芝は攻守にサボらず、守備面でのリスク管理もしっかりしていて、橿原にカウンターを許さない。橿原としては耐えて流れが来るのを待つのみ。とにかく香芝に楽をさせるな、という方針がしっかりしており、双方妥協点上での実戦的な戦い方である。13分、香芝、4番左寄りを突破、左クロスに17番ボレー、左に外れる。決定機。22分、橿原、右CK。これに対し香芝はいつもながらゾーンで守り橿原8番苦しい体勢でヘッド、上に外れる。28分香芝、スルーパスに10番抜け、橿原GKを外すが左シュートは死に体で右に外れる。決定機。34分、香芝11番、正面35mFK、5番が落とし10番シュートに行くが橿原もよくついてブロック。36分、香芝、早い攻め、10番の右クロスに真ん中でフリーで詰めるが、橿原DF、ニアでオウンゴール?香芝1−0。メンタルゲームをよく粘っていた橿原にとっては痛い失点。38分、香芝、17番→15番が左ハーフ、11番FW。3番の左クロスを11番落とし10番ボレーもセーブ。決定機。結局前半は1−0で香芝リード。しかし決して楽でない内容だ。

前半シュート数7(2)対2(1)、CK数1対0、GK数3対8、オフサイド数3対0、クロス数7対1、ファウル数4対5。前半の内容を簡潔に説明すると、決して都会とは言えない香芝だが、都会的でスタイリッシュなサッカー。常にバランスを保ち攻守に無理なく、労を惜しまない洗練されたスタイルだ。典型的な強者のサッカー。対する橿原は各選手が責任を自覚し、決してサボらず局面で負けず、じっと流れが来るまで耐えている精神力を感じさせるサッカー。しっかり食らいついていけば、橿原が苦しい時は香芝も苦しい。実戦的なサッカーだ。

後半開始。橿原は14番に変えてボランチが入ったようだが確認できず。22番が左サイドバックに、10番が左ハーフに。後半も回す香芝に対し橿原もデュエルで自由を与えず、徐々に香芝のフォローが遅くなると潰すシーンも目立つ。56分、香芝11番→8番。61分、香芝、右決定的クロスを橿原、何とか跳ね返す。19分、23分と香芝、7番の精度の高いキックは橿原何とか跳ね返す。ちなみに香芝のCKの守り方はゾーン。こんなところまでスタイリッシュだ。更に香芝正面30mFK、7番の右足は逸機。橿原8番→11番。FW。23番→9番。

橿原
−−−十一−−−−−−−
−−−−−−−九番−−−
十番−七番−−四番−十三
二二−二番−−三番−六番
−−−−−一番−−−−− 

80分、橿原、放り込みを香芝GK弾く。右CKに、これを10番ヘッド。ブロックあって左CKへ。決定機。82分、橿原22番→5番。ボランチに入り、7番がCB、3番が左サイドバックに回る。9番は左ハーフ、10番はシャドーを目まぐるしく変わる。

橿原
−−−−十一−−−−−− 
−−−−−−−十番−−− 
九番−四番−−五番−十三 
三番−二番−−七番−六番 
−−−−−一番−−−−− 

香芝は守備に比重を移すが、常にカウンターは狙っている。74分、香芝10番から」11番へスルーパス、右クロスにニアで届かず。いい形。85分、橿原カウンターから13番へ、シュートは上に外れる。決定機。終了間際にも11番が突っ込むがノーファウルで止められる。結局1−0で香芝が逃げ切った。

双方持ち味を出したいい勝負だったと思う。橿原は精神的にタフで、押されている中でも冷静に勝機をうかがった。これは本気で全国を狙う自覚が芽生えたかな?と思った。この日の内容なら順調に成長すれば問題ない。局面で戦えていたが、前半から潰せる強度が身につけば楽しみ。香芝は楽に勝てるに越したことはないが、こういう1−0か2−0くらいで勝つスタイルを目指しているのではないだろうか?後半押されるシーンがあることも織り込み済みでできるだけ相手を振り回し、自らも労を惜しまない、最も基本に忠実なサッカーだ。奈良では他に例を見ない路線で、なかなか魅力的。「かっこよく勝つ」という美学が感じられる。


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