サッカー観戦日記

2010年10月11日(月) 雑文・アジアユース敗北に思うこと

U−19日本代表がアジアユース(AFC U−19選手権)準々決勝で韓国に敗れ、ワールドユース(U−20W杯)出場権を逃した。この件に関して的外れな誹謗中傷がネット上で渦巻いているようだ。昨年のU−17W杯でもあったし、ふだんユース年代を観ずに、代表だけ観るファンに不満が多いようだが、色々と違和感がある。

布監督のサッカー自体に不満を感じている人は多い。高さに欠けるバックライン、パス能力の低い中盤。荒れた芝に適応できない選手たち。アジアユースでは、選手の動きも固く、力を発揮できていない印象を受けた。選手に大会で力を発揮させることこそ、この年代のスペシャリストに求められることではある。

8月のSBSカップでこのチームを観た時、私は「80%のチーム」だと思った。ポテンシャルを120%発揮し、運も味方につけたチームは感動できる。福岡ユニバーやアトランタ五輪代表がそうだ。しかしこういうチームはえてしてレイトンハウスF1並みにピーキーでダメな時はとことんダメだ。安定して80%の力を発揮できるチームを作った方が、等身大の日本が分かる。もちろん80%よりも90パーセントの方がいいが。要するに勝つべくして勝って欲しい、ということだ。今回の代表は与えられた環境の中で機能している。これでダメなら、諦めもつくし、監督の問題ではなく、もっと日本サッカー全体の問題だということだ。もっと機能するチームを作れる監督は日本にはそうはいない。

80%ではアジアを勝ち抜けるはずがないと思った方は、これは表現の問題なので、別に98%でもいいのだが、かえって伝わらないだろうから、こう表現した。

代表監督の人選についての不満があるようだ。未熟なアマチュア監督の育成の場にユース年代の代表監督の座が使われている、という指摘だ。以前なら私はこの意見に全面的に同意していた。U20W杯を目指すユース代表(U−18〜U−20代表)には監督経験のない指導者がついていた。2種での監督経験があるのは02年ワールドユースでピーキーなチームを作った西村昭宏監督が初めてで、西村氏にせよ、ガンバ大阪ユースで2年のキャリアがあっただけだ。その次は東京ガスでキャリアはそれなりにあるが、2種は率いたことがない大熊清氏。この人の守備的サッカーはいろいろと批判された。その次は吉田靖氏で浦和ユースを率いてクラ選優勝のキャリアを持ち、U−20W杯でも魅力的なサッカーを披露した。その次の牧内辰也氏は再びこれといったキャリアを持たない指導者で、しかも自由に選手を集めることが出来ず、チーム作りに失敗、アジアの壁を破れなかった。その次が市立船橋高で何度も全国制覇したキャリアを持つ布啓一郎氏。以前のいい加減な人事はユース代表に関してはだいぶなくなった。

実績を積んでいる布氏が「未熟なアマチュア監督」という評価はかなり無理がある。布氏は2種でトップクラスの実績があり、市船監督としても海外遠征経験を積んでいて、しかもそこでも結果を出していて、世界との距離感を掴んでいるであろうからだ。プロ(J)で3年のキャリアの監督が2種で20年のキャリアの監督にユース年代のチームを率いて勝てますか?私はもし可能ならペケルマン・クラスの外国人監督招聘に賛成するが、ペケルマンにせよ、元来ユース年代専門の指導者だったのだ。プロで20年のキャリアの監督など今の日本には存在しない。

話を外国人監督招聘に戻そう。JFAに金があるなら、それでいいが、今年の天皇杯はJの地元同士の1回戦の2日後に地元Jに挑戦するという、経費を極力削った開催方法だった。2回戦は挑戦者側がハンデを背負い、ジャイアントキリングの可能性はほとんどなかった。天皇杯の価値を大きく下げる開催方法にJFA内部で抵抗がなかったはずはない。つまりそれほどJFAは経済的に困窮している。この現状でペケルマンをユース年代の監督として呼べるはずがない。スペインでもどこでもいいから優秀な指導者を推薦してもらって、という線もあるかもしれないが、パチャメなど、結果を出せなかった人もいる。スペインで実績十分な人にはペケルマンとまでは行かなくとも、金がかかる。JFAが能力を把握できる人物でなければ、招聘するのは割に合わないギャンブルだ。

JFAは個人能力では世界に劣るから、周りがどんどん顔を出してパスコースを作って繋ぎ、中盤を支配して勝つサッカーを目指してきた。ユース代表も時間を掛けてキャンプを多く張り、チームを熟成させることで、世界で結果を出してきた。しかしA代表やJリーグの分析から個人能力の問題から目を逸らせなくなり、昨年のU−17W杯では、個人の能力を前面に出した攻撃サッカーで3戦全敗に終わった。CBの高さ不足が敗因の一つだった。今回のユース代表でも攻撃陣の個人能力は高かったが、CB陣にビルドアップ能力を求め、高さが弱点となった。ユース代表もかつての中盤でのパスサッカーは行き詰まり、新たな方向性を模索している。今までの武器を一時封印して新たな武器を身につけようとすると、どうしても一時的に結果は出なくなる。それは仕方がないことだ。以前が良かったとかいうことではないのだ。

ここ2大会、代表よりもJリーグ優先だった方針を見直すなどの提案もあるようだ。それもいいだろう。アジアユースの敗北は日本サッカー全体の敗北だ。世界に進出する選手が増えて、W杯などの大舞台で緊張して力が発揮できないようなことは少なくなった。U−20W杯の経験はもはや不可欠なものではない。しかしアジアユースで力を発揮できない選手たちを観るにつけ、やはりU−20W杯は経験しておいた方がよい、と思う。JFAが今回の件を反省して環境整備を進めることを期待したい。


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T.K. [MAIL]