サッカー観戦日記

2003年12月20日(土) 女子インカレ初日・武庫女大−松山大 大体大−福岡大 神大−山形大

朝起きたら外はもう雪国だった。暖冬だった今年も本格的な、それ以上に寒い冬を迎えてしまったようだ。今年も女子インカレ観戦のため神戸に向かう。三宮からバスでしあわせの村へ。470円は高いが、途中有料のトンネルを使うのでこんなものかもしれない。

しあわせの村は六甲の北側にある福祉施設で老人福祉やスポーツ関係の設備が充実している。優雅にも馬術場もある。あまりにも充実しているので赤字額が気になるところだ。

女子インカレは例年関東勢と大体大の優勝争いとなっている。地方勢はレベル的に苦しく、各地域の高校よりも実力的に落ちる。朝日新聞には吉備国際大が初優勝を狙う、と書いているが可能性があるとも思えない。また、関東・関西の強豪にせよ、高校トップクラスや中学生も多いLの下部組織とほぼ互角であり、率直なところ競技レベルとしては物足りない。そんな中今回初出場の神奈川大は湘南学院OGを集めて高いレベルを追求するサッカーで旋風を起こすのではないか、という期待を込めてしあわせの村会場を選んだわけである。



第1試合は武庫女大(関西2位)−松山大。武庫女大はマンマーク主体のシンプルな守備からタテへの速い攻めや、多彩なセットプレーが特徴。地元啓明OGは意外と少なく、サッカー未経験者も多い。関西では大体大に次ぐナンバー2の立場を不動のものとしている。というより、競技スポーツとして取り組んでいるチームは他に大教大くらいか。このグループには他に早大・静産大というライバルもおり、大量点を取って勝ちたい。

一方毎年出場している松山大は地元の強豪・済美OGが多い。済美はあまり組織を重視しないものの個人をしっかり育てて、意外と結果が出ない割にはいい選手が出てくるチームだった。しかし女子校だった済美は共学になり、名将・土屋先生は男子部の監督になってしまったので女子部の今後の弱体化が懸念されるところ。昨年松山大はキックオフ時点から10人で戦うゲームもあり、慢性的な部員不足も気になるところ。

全日本大学女子選手権 グループB 武庫川女子大−松山大
12月20日(土)しあわせの森 10時 ピッチ悪 雪 微風


武庫女大              松山大
−−−岡本−−徳本−−− −−佐伯直−−竹田−−−
上野−竹田−−清原−有馬 −−−−−−−−−−−−
−平野−−奥村−−遠藤− 三崎−畑辺−松本−佐伯知
−−−−−長谷部−−−− 橋本−今城−−徳田−白石
−−−−−中村−−−−− −−−−−加藤−−−−−

ゲームは40分ハーフ。

関西2位の武庫女大はややメンバーを落としているようだ。朝日新聞の予想スタメンに名前があるのは3人だけ。個人的に注目していた井野(2年・啓明)も温存。長谷部が完全に余る4バック。完全に相手を押し込んだゲームとなったため竹田・清原も前線に次々と飛び出す。こぼれ球をストッパーが拾うケースが多く、竹田・清原はシャドーのような動きとなる。有馬がFK担当。

松山大は4−4−2で8人のブロックでゴール前を固める。10番畑辺(2年・済美)がFK担当。今城(3年)徳田(2年)の宇和島南CBコンビの的確なコーチングでバランスをとる。

とりあえず積雪するほどの雪ではなく、緑のピッチ上でゲームが開始された。技術・フィジカル・経験全てで上回る武庫女大が押し込み、こぼれ球もほとんど拾う展開。しかし元来細かく崩すサッカーは不得手なこともあり、自陣を固める松山大を崩せず、決定機も少ない。またクロスの精度も低い。しかしFKでは有馬がいいボールを入れて惜しいシーンも。松山大は自陣を数で固め、しかもCBの指示が的確で、また徳田の好カバーも光り武庫女大の単調な攻めを再三跳ね返す。そして畑辺に渡ればいいパスが前線に通りカウンターを浴びせるシーンも見せる。30分には畑辺のCKをショートでつなぎ畑辺強烈なシュートがバーを叩く。松山大は狙い通りのサッカーで前半を0−0で終える。

武庫女大はハーフタイムで徳山→井野、遠藤→小野と温存していた選手を投入。竹田をFWに上げて井野がトップ下に入る。井野はアウトにかけたロングパスや左足での展開など多彩なキックで松山大を左右に振り回し、セットプレーでも有馬以上にスピードがあり急激に変化するキックを披露。RB小野も綺麗なクロスを入れる。しかし中を固める松山大は入ってくるボールをことごとく跳ね返す。20分には右FKで井野から有馬がヘッドも惜しくも外れる。このままドローもみえてきた31分、有馬のクロスに交代出場の蔦井が合わせてついに武庫女大が先制。ロスタイムにはCKをショートでつないでクロスをヘッド、GK加藤好セーブも蔦井が押し込み2点目。武庫女大が2−0でまずリーグ1勝をあげた。

武庫女大としてはもう少し点が欲しかったはず。早大・静産大との得失点差を考えると厳しい結果に終わった。松山大は畑辺のキックが光った。


大体大は毎年関西で優勝している強豪である。その特徴はなんといっても良く鍛えられたフィジカルにあり、徹底的にサイドを崩してクロスの雨を降らせる。また武庫女大よりも技術の高い選手を揃えてパス回しも確実で、パスミスを恐れるあまり単調なタテパスに頼ることもない。しかしゴール近くでは中から崩せないという弱点も武庫女大と共通しており、いい選手が多い割には日ノ本学園高や中学生もいるラガッツァ高槻と互角のレベルに留まっている。

男子チームは地方の雄として知られる福岡大も女子は九州の高校トップクラスに歯が立たない状況にあり、サッカー未経験者も少なくない。誠修や豊国学園OGもいるが少数で、地元高校チームを圧倒する力もなさそうだ。毎年出場しているインカレでもこれといった実績はない。

全日本大学女子選手権 グループB 大体大−福岡大
12月20日(土)しあわせの森 12時 ピッチ悪 雪 微風


大体大          福岡大
−−−神原−−日置−−− −−−重川−−上野−−−
−−−−−江橋−−−−− −−−−−姫野−−−−−
−小原−−浜中−−大西− −藪下−−砥上−−久保−
西畑−内田−−山本−金城 田中−鶴浜−−日笠−永井
−−−−−竹内−−−−− −−−−−富山−−−−−

大体大の中盤はフラット気味だが攻撃時には江橋がどんどん前線に飛び出し、またこのゲームでは圧倒的に大体大が攻めたため江橋(北京ユニバー代表)を高めに表記した。山本がLリーガーを押しのけ大阪選抜入りした選手。FKは主に大西が蹴る。クロスのいい選手で突破力も高い。小柄な神原がリアルストライカー。

福岡大のスタメンは上野ではなく石井だが開始すぐに負傷交代してしまった。スタメンは石井が左CB、鶴浜が登録上はMF、実際はFWに入った。

キックオフ前の円陣で福岡大はあやしいおどりをおどった!しかしなにもおこらなかった。

開始から大体大が押し込む。ゴール前の空中戦で福岡大・石井が負傷。しばらく10人でプレーせざるを得ない福岡大に対し、9分右CKから山本のヘッドが決まり大体大が先制。福岡大は前述の交代を行い鶴浜がSW日笠をストッパーに立て直す。福岡大はLH藪下が積極的に中へのドリブルや、右クロスに飛び込みいい形を作る。しかし左サイドのカバーが手薄で、しかも大体大RH大西は抜群のスピードでスペースを与えれば圧倒的な存在感があり、カウンターで活きる。しかし福岡大LB田中はクレバーな守備で対応し、いいキックで藪下を活かす。大体大は左の小原もキレある切り返しでサイドを突破。大体大やや押し気味の31分大体大左CKで江橋のボールがファーに流れ大西ボレーもバーを叩く。32分、大体大・小原がGKの位置を見て40m左足ループを鮮やかに決めて2−0とする。この時間帯には大体大のSHを福岡大が止めきれず、サイド攻撃の前に福岡大は守勢一方に回る。39分、大西のクロスにフリーにしてしまった日置がヘッドで決めて3点目。ロスタイムには小原のクロスをフリーで飛び込んだ江橋がヘッドで4点目。

後半は大体大が選手を入れ替えながら攻勢を続けて圧倒する。
結局さらに3点を追加して7−0と完勝した。
得点
12分 右から大きなサイドチェンジ、いいタイミングで上がったLB西畑のクロスを日置が決める。
31分 岡林が一人で持ち込んでシュート
39分 左でパスを受けた岡林が一人で持ち込んでシュート

交代
大体大
26分 小原→岡林、竹内→細田
33分 大西→池内 日置→渕上
38分 浜中→奥田
福岡大
22分 永井→井上

大体大は選手を試しつつ大量点を上げて満足できるゲームだったと思う。無得点に終わった関西得点王の神原も悪くはなかった。福岡大はいい時間帯もあったのだが、攻撃的な狙いが災いして大量失点を喫してしまった。鶴浜・藪下(ともに3年)や田中(1年)は面白い選手。九州女子リーグでもまれているはずだが、イマイチ高いレベルのゲームに不慣れな印象はぬぐえない。




第3試合にはこの日の目当ての神奈川大が登場する。今まで大学トップレベルのチームはフィジカルこそよく鍛えられているが、高校生よりもレベルの高いサッカーを追及している印象を受けなかった。大学生ともなれば、「育成」よりもその年代での勝利を重視するのは部外者からみても当然である。しかしながら勝利のための育成も不十分で、大学トップレベルでさえも育成のみならず結果という点でも下のカテゴリーに苦戦を強いられているのが現状である。

創部以来3年間強化を図ってきた神奈川大(以下神大)は湘南OGを揃えたチームだ。湘南は個人的にあらゆる場で絶賛しているのだが、高校レベルを超えるサッカーを志向しており、個人の技術・戦術・フィジカル・ハートのどれを取っても高いレベルにある、バランスのとれた個人能力優先型のチームだ。あまりに攻撃的なスタイルが災いしてか、結果を出せないこともあるが、選手育成面では大きな結果を出してきている。OGが集まる以上、イマイチ閉塞感のある大学のスケールを超えたサッカーをしてくれるに違いない、という期待があった。関東リーグでは大量得点・大量失点のスタイルのためか4位に終わっているが、2年生以下のチームだけに今後の飛躍も予想される。

一方の山形大も常連。東北では本格的なチームが山形大のみであるため、毎年出場している。サッカー経験者も少ない。ただ、浅井監督が毎年しっかりと組織だったチームを作り、組織的な守備は大会トップクラスである。毎年個々のミスから失点するものの組織が崩れることは少ない。また最近は地元の選手育成にも手を貸しているという。個人のレベルをいかに上げるかが課題のチームだが、大学の殻を破って努力しているようで嬉しい。


全日本大学女子選手権 グループB 神奈川大−山形大
12月20日(土)しあわせの森 14時 ピッチ悪 雪 微風


神奈川大              山形大
−−−林田−−小林−−− −−−−−坂本−−−−−
−−−−−矢野−−−−− −−−片山−−五十嵐−−
福田−稲葉−−百武−鈴木 太田−斉藤千−寺石−阿部
−−住江−横山−杉田−− −斉藤和−原田−佐藤−−
−−−−−渋江−−−−− −−−−−渡辺−−−−−

神大はゾーンで守る3バックで前が開いていれば3人ともどんどん攻め上がる。杉田(清水FC女子)は綺麗なキック、住江はバランスのいいポジショニング。福田は中に入るドリブルもあり。FK担当。鈴木(元U−19代表)は快速。百武(元U−19代表)は左利きでフィジカルも強い。稲葉(元宝塚)は柔らかいパスあり。矢野(W杯日本代表)は前線への積極的な飛び出しを見せる。全体にポジションチェンジを多用するチーム。

今年の山形大は原田をスイーパーに置き自陣を固めるスタイル。守備時にはあまりマークを受け渡さず、最後までつく。神大のポジションチェンジにも互いに声を掛け合い、バランスを崩さない。攻撃は1トップ坂本の突破力に託す。

予想通り序盤から神大が押し込み、山形大が粘り強い守備で対抗する展開となる。神大はクロスを簡単に放り込んだりせず、きっちり崩しに掛かる。中央での細かい崩しや後方からの走りこみに対し、山形大は片山や五十嵐も下がってマークし、原田のカバーリング能力の高さもあり、神大はゴール前でフリーになる選手はいない。神大は意地になって中央突破にこだわりミドルも撃たずに崩しにかかる。がピッチコンディションの悪さも影響して後一歩で得点できない。山形大は時折坂本につながり単独突破も見せるが、ハーフ付近からペナに迫るのが精一杯であった。38分神大・小林→堀田。

大体大あたりならとにかくクロスを放り込んで相手のミスを待つ、という選択をするはずだが、神大はとらない。元々持っている飛び道具をあえて使わないようだ。こういう状況ではドリブルを交えて相手を一枚ずつはがしていくしかない。

後半4分、マーカーを外して矢野が前線に飛び込んでシュートを放つがバーを叩く。7分、ペナ少し外左60度シュートは上に外れる。9分、福田が左を突破しゴールライン付近から矢野へパス、ペナ内からのシュートも上に外れる。10分、福田を追い越して完全にサイドを破った左ストッパー・住江のフリークロスを堀田がファーからマーカーを外して入り込んでヘッドを決め神大先制。アバウトな放り込みではなく、意図のある見事なゴール。12分、鈴木がスピード豊かに右を突破してクロス、林田の前でGK渡辺キャッチにいくが、ミス。こぼれはクリア。15分、鈴木が右突破からクロスが正確に堀田の頭に合いヘッドもバーを叩く、跳ね返りを矢野シュートもGK渡辺正面。16分、鈴木の右突破からクロス、ファーでのヘッドはDFブロック。神大は百武・矢野たちの素早いパスで右サイドに焦点を合わせて山形大の太田・斉藤和香・斉藤千絵のブロックを崩し鈴木のスピードを活かした攻めを狙い、中のマークのズレから決定機を作る。鈴木は常にスペースを狙い、パス回しによって開いたところを突く。技術・判断力を要求されるレベルの高いサイド攻撃。18分、福田の左クロスを林田ヘッド、GK正面。19分、鈴木が中に切れ込んで強烈な左足ミドルもGK正面。21分、中に入った鈴木が落とし稲葉が左クロス、しかし山形大DFマークを外さず佐藤がカット。22分、稲葉の弾丸ミドル、GK正面。23分、福田の左クロスを堀田ヘッドもDFに当たる、こぼれを左右からクロス、いずれも山形大が跳ね返したところを稲葉ミドルもGK正面。26分ショートコーナーからミドルもGK渡辺正面。山形大はペナ内に何人もDFがいる状況なので神大のミドルが増えるが、全員キック力が素晴しく、また良く押さえた低い弾道である。山形大はサイドは破綻してしまったものの中のマークは未だに秩序を保ち、数に頼らず集中力を保ち忠実な守備を実行している。29分、鈴木の右クロスに林田ヘッドもGK渡辺横っ飛びのキャッチ。29分林田→薮崎(清水FC女子)。30分、中のパス回しから堀田、ゴール正面でチャージに力強く耐えて反転、鋭い切り返しでマーカーをかわしてシュートが決まり2点目。31分、百武の強烈なロングもGK正面。32分、山形大カウンターから坂本が左を破り切り返して右足クロスも中でDFカット。神大カウンターから矢野の強烈なシュート、GKセーブ。33分、稲葉のスルーパスに左ナナメに走って受けた薮崎が左足シュート、右に外れる。34分、山形大・坂本がハーフ付近でポスト、反転しウラへのパスに斉藤千絵が後方から飛び出すがオフサイド。35分、鈴木シュートもDFブロック。36分、稲葉のスルーパスを左で受けた堀田がフリーで決めて3点目。37分、百武の強烈ミドルはバーを叩くが詰めた堀田が決めて4−0。残り時間も攻め続けた神大が4−0と快勝した。

それにしても凄まじいサッカーだった。神大は期待通り、あるいはそれ以上に別次元のサッカーを見せてくれた。サイド攻撃はスタミナやスピードにモノを言わせたごり押しではなくきっちり崩していた。鈴木のスピードは光っていたが、たとえ鈍足だったとしてもやはり崩せただろう。インサイドでのパス回しも大学レベルを超えており、狭いスペースを何度も突破していた。チームとしてのミドルの破壊力はL以上だと思う。チーム全体に瞬発系に強く、ダッシュ・ミドル・チャージが良かった。スタミナ重視の大学女子にあっては独特のスタイルだ。みたところDFも強そうだし、日体大戦の8失点を含め7試合16失点の守備は何だったのだろう?

山形大は個々の能力は高いとは言えず、おそらくこの日16失点した信州大と大差ないだろう、個人戦術を除けば。しかし忠実なマークを遂行。それを可能にするだけの守備能力はあった。また毎年感心させられるチームとしての完成度は光った。後半火の車となった左サイドのストッパー斉藤和香はマーク・カバー両方に長けた好選手。1トップ坂本はまだ1年生であり今後が楽しみ。ただ大学の枠内や山形の現状ではその実力は限界点近くに達してしまった感もあり、今後のステップアップは山形県のユース年代のレベルアップが
全てだと思う。

神大は残念ながらGK・DFの能力はよく分からなかったが、今後のためのメモを置いておこう。

渋江美紗子 出番がなかった。
杉田香 いいキックあり。スルスルと機を見た持ち上がりで攻撃に厚みを加えた。
横山起永 きっちりボールを拾い確実なプレー。
住江真祐子 坂本のクロスの際は完璧なポジショニング。クレバー系?
鈴木麻友 快速・正確なクロス・左右での弾丸シュート・スペースを突くセンス。上を狙える選手
百武江梨 パワフル・展開力。シュートの破壊力はチーム1。上を狙えると思う。
稲葉彩衣里 柔らかいスルーパス・高い技術。サッカーを知ってる選手。
福田沙矢香 キレある突破。左右でのクロス。
矢野喬子 シャドーとしてタイミングを計った飛び出し。クレバー。スピード。
林田美由紀 タフなFW。最後まで良く動く。
小林菜摘 速い。スペースのない中では厳しかったか
堀田恵理子 交代出場で驚異の4ゴール。生まれながらのストライカーか。




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