サッカー観戦日記

2003年09月18日(木) 雑文・01年度高校女子選手権出場チームの印象

前日に引き続き高校女子選手権関連の文を置いておきます。

===============================


01年度高校女子選手権出場チームの印象


●北海道文教大明清(北海道代表)
10年連続10回目 通算2勝

大会初期は同好会色の強いチームだったが、徐々に力をつけて現在では全国大会の名に恥じないレベルに達している。過去3年間の結果は1−2神村、2−7聖和、0−4湘南。97年度3冠東福岡が全国大会で何度も5点差ゲームを演じたことを踏まえると、聖和・湘南相手の5点差は悪くないスコアといっていいだろう。技術的にはある程度のレベルにあり、パスを繋いだサッカーを志向しているようだ。U−15北海道選抜は必ず全国大会に出場できるが、その元メンバーは9人を数え、中学生年代での全国大会経験者数は大会トップクラス。今後もう少しふえるのではないか。ややマークがルーズで当たりも甘いが北海道内に同年代のライバルがいない影響と思われる。道内の現状からすると今後大幅なレベルアップは厳しいかもしれない。


●常盤木学園(宮城・東北第一代表)
4年連続4回目 通算1勝

残念ながらこれまで観たことはない。過去3年間の結果は0−3神村、0−2藤枝西、
1−5湘南。スコア的には既に全国レベルに達している、と予想していた。今大会は県大会決勝・東北大会決勝でともに聖和を破り、全国大会でも湘南にPK負け、と全国トップクラスの実力をうかがわせる結果を残す。元U−15宮城選抜も聖和を上回る実に14人で、積極的な選手集めをしているのだろう。監督の阿部先生は地域C級ライセンス所持。ブライアン・マッコーリ・コーチが単なる英語教師ではなく、ある程度サッカーの知識のある方とすれば学校側の強化も随分力の入ったものだ。同じ県内に聖和という強敵が存在するだけに今後も切磋琢磨して力をつけていくだろう。(*1)


●聖和学園(宮城・東北第二代表)
10年連続10回目 優勝3回

この大会を引っ張る存在。高い技術を土台としたパスサッカーが持ち味。個々の選手がじつにのびのびプレーしており創造性豊かなプレーをみせる。個人戦術は大会随一と言っても過言ではない。技術系のサッカーを好む人間にとっては最も魅力的なチーム。北海道同様試合相手に事欠く環境のもとでこれ程のレベルに達したこと自体驚異的ではあるが、さらに毎年着実に力をつけている。やや当たりに弱い部分はあるが県内のライバル、常盤木が急速に力をつけており、その存在により弱点もある程度解消されるのではないか。監督の国井先生はライセンス等を所持していないが、内容の濃いサッカーを展開しており、今後はU−19代表などの監督もしてほしいと個人的には思う。


●本庄第一(埼玉・関東第一代表)
2年連続7回目 優勝1回

組織化されたサイド攻撃とマンマークを徹底させた守備が特徴。チーム戦術が全員に浸透しており、練習時間のかなりの部分を割いている事が良く分かる。また局面での実戦的な強さは大会随一といえるだろう。レベルの高い関東・埼玉でもまれているだけあってギリギリの勝負での強さは見事。フィジカルもよく鍛えられている。ただ、技術的にも個人戦術面でも大会トップクラスから引き離されつつある。強豪で実績十分の割りには経験者が意外と少なく技術面での不利は否めないが、個人戦術の基本がイマイチなのはまずい。ポストに当ててサイドという攻撃もパターン化されているが、各選手がパターン以外の動きが不得手なことが多い。チームとして壁にぶつかっている印象がある。


●埼玉平成(埼玉・関東第二代表)
3年ぶり8回目 優勝2回

技術的には大会トップレベル。前を向けば個人の局面打開能力は高い。ただ周囲の把握・判断・ボールを受ける姿勢などが甘く、簡単に相手に囲まれ、パスも甘く個人が分断される傾向にある。ややサッカーが小さい。プレスのしっかりしたチーム相手だとつらいだろう。フィジカルはしっかりしている。個人の守備能力は高い。本庄同様に個人戦術面の遅れから大会トップクラスとの差が開きつつある。この部分が向上すればパスサッカーが実現できるようになるだろう。


●湘南学院(神奈川・関東第三代表)
3年連続4回目 最高準優勝

名門・横須賀シーガルスOGを揃え、技術・戦術・フィジカル・ハートすべてにおいて大会トップクラスの実力を誇る強豪であり、今後大会を引っ張る存在である。監督はB級ライセンスを持つ野村先生。勝利至上主義というタイプのチームではなく、関東大会などで躓くこともあるが、個々の選手の闘争心も十分で、バランスの良い攻撃サッカーをみせる。特にFW近賀ゆかりは私が観た中では大会史上ナンバーワンの実力者で、そのスピードとゴール前での冷静さでゴールを量産する。チームとしてはおそらく現状での限界点に近いレベルに達している。今後の成長はいかに強い相手と多くのゲームをこなすか、その一点に尽きるのではないか。


●吉原(静岡・東海第一代表)
2年連続2回目 未勝利

今まで観たことはない。昨年は0−5神村。02年度の0−5聖和というのは悪くないスコアだとは思うが。チームには十分なサッカー経験者と、逆にまったくの未経験者が半分ずついる。厳しい静岡大会や東海大会を安定したスコアで勝ち上がり、東海決勝では藤枝西を破っているのだからそれなりの実力を備えているのは確実だが。高橋監督は準指導員。


●藤枝西(静岡・東海第二代表)
4年連続4回目 最高ベスト4

基本がしっかりしていてこれといった弱点のないチーム。激戦区・静岡でもまれているためかマーク、当たりもしっかりしており闘争心もスタミナも十分で守備が崩れることはなく、多少実力差のある相手でもしっかりしたスコアにまとめることが出来るはず。技術面では大会トップクラスで、厳しいプレスをかわしてパスを繋ぐことも出来る。実力的にはセカンドグループといったところか。ただ見るたびに急速に伸びており、優勝するだけの力も既に備えている。田村監督はC級ライセンス所持。大会毎に「ここが足りないな」と私が感じたことの多くが翌年には改善されている点をみると、練習に具体的なテーマを掲げ、それは選手に納得させるのが上手な方なのでは、と思う。


●高岡商(富山・北信越代表)
2年連続2回目 未勝利

同じ富山の呉羽に代わり頭角を現してきたチーム。といっても同好会レベルといわざるを得ず、ほとんどサッカー経験のない選手達の技術は低く、かといってよく走る、というわけでもない。現時点ではこの大会で通用する部分はなく、まだまだ強化しなければならない課題は山ほどある。


●日ノ本学園(兵庫・関西第一代表)
2年ぶり3回目 通算1勝

最近急速に力をつけてきているチーム。元U−15兵庫選抜は少ないもののサッカー経験者を揃えており、それなりに技術もある。寮に入っている選手も多く、体育会系のノリがある。厳しく鍛えられたチームで走力は大会トップクラス。しかし無駄な走りも多く、個々の選手はあまりサッカーをわかっていない、という印象も強い。日本の女子サッカー界をある意味象徴しているチーム。チームとしてはスカウティングでかなり解消できるだろう。プレスはあまりかからず、走った選手へパスが出てこない、といったことが多い。また個人戦術面は今後の課題か。数年で大会上位クラスの力をつける可能性を持つチーム。


●京都橘(京都・関西第二代表)
6年連続7回目 最高ベスト4

常連ではあるが実力的には同好会レベル。経験者が少なく、技術は物足りない。よく鍛えられているわけでもなく、トップクラス相手なら二桁失点の恐れもある。関西にはしっかりしたチームが少なく、現在では予選を突破する可能性が高いが、今後ともこの大会の出場を狙うのであれば、もう少し競技志向で活動する必要がある。


●啓明女学院(兵庫・関西第三代表)
10年連続10回目 優勝2回

ほとんど毎年ベスト4まで勝ち進む強豪。元U−15兵庫選抜を揃え、Lリーグの下部組織出身者も多い。中で繋いでからサイドにふり、クロスという攻撃が以前なら面白いように決まっていたが、最近のレベルアップの中であまり繋げないようになってきた。ボールを受ける姿勢がよくなく、しっかりしたプレスをかけるチームにはやや弱い。大会トップクラス相手にはやや苦しくなってきた印象を受ける。タイプとしては埼玉平成と似ている。今後の課題も同じで、いかに持ち前の技術を相手プレスの中で活かせるようになるか、に尽きると思う。ただ同じ兵庫の日ノ本が力をつけているだけに、プレスを意識した動き方も身につけるのではないかと期待している。


●広島皆実(広島・中国代表)
3年ぶり5回目 最高ベスト4

経験者は少ないがよく鍛えられ、まとまっている好チーム。組織がしっかりしていて連携もスムーズであり、チーム戦術に練習時間の多くを割いていることがよくわかる。強豪相手でもそれなりに自分達のサッカーをして、落ち着いたスコアにまとめることが出来る。
個々の選手もサッカーの基本どおりの動きをみせ、C級ライセンスを持つ奥村先生の指導が行き届いていることが良く分かる。現状ではほぼ限界点までのレベルに達しているのではないか。今後の課題はチーム内で解消できるものはあまりないかもしれない。むしろ地元の中学生のレベルアップによってのみこのチームが一段上の段階に進めるはずだ。


●済美(愛媛・四国代表)
2年ぶり4回目 通算1勝

皆実同様に経験者は少ないが、しっかり鍛えられているチーム。チーム戦術は皆実ほど煮詰められていない。その分やや失点は多い。個々の選手の動きも皆実と同等のレベル。監督はC級ライセンスを持つ土屋先生。(*2)攻撃意欲の強いチームで、多彩な攻めを見せる。チーム戦術に時間を割いて練習すれば、もっと結果を残せるとは思うが、このあたりはポリシーであえて個人重視なのかもしれない。地元全体のレベルアップがこのチームの躍進の鍵になるだろう。


●神村学園(鹿児島・九州第一代表)
8年連続8回目 最高準優勝

経営方針によって女子スポーツを積極的に強化している学校であり、サッカー部も強化指定されているという。神村学園中サッカー部も強い。選手全員が経験者で、ほぼ毎年全日本女子ユース(U−15)に出場する元U−15鹿児島選抜も多い。男子の鹿実にも似たサッカーが特徴で、闘争心を前面に出して選手全員がよく走り、よく当たる。元々手ごろなライバルを持たなかったチームであるにもかかわらずマンマークもタイト。「選手の将来性」や「創造的なサッカーをする喜び」を強く意識するチームの多いこの大会にあって、厳しく結果を追及する神村は異質の存在であり、全体に好影響を与えている、といえるだろう。
実力的にはセカンドグループだが、最近ライバル鳳凰が力をつけ、神村に決定的に不足していた実戦的な強さを今後身につければステップアップするだろう。

●鳳凰(鹿児島・九州第二代表)
3年連続3回目 通算2勝

最近急速に力をつけているチーム。鹿児島大会決勝ではライバル神村を破っている。積極的にスカウティングを行い、1年生だけを比べると元U−15鹿児島選抜は神村1人に対し鳳凰は4人。このチームもよく走る、鹿実スタイル。柏野コーチは元鹿実のストッパー。
勝負に厳しくこだわるチームであり、神村と切磋琢磨することで大会トップクラスの力をつけることを期待する。

上の文章は01年度大会直後に書いたものに後日手を加えた

*1 02年度はサッカーマガジン杯グループリーグにおいて、この大会で優勝した清水第八(Lリーグ)と唯一引き分けた。さらに決勝トーナメントでもジェフ市原(Lリーグ)と引き分ける(PK負け)健闘をみせる。そして02年度高校女子選手権ではついに全国制覇を達成した。

*2 02年度より済美は共学化し、男子サッカー部監督となった土屋先生はその年度の新人戦優勝とすぐ結果を出し、03年度全国高校総体出場を果たした。


 < 過去  INDEX  未来 >


T.K. [MAIL]