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2003年01月28日(火) Big Joke (3 of 3)

彼は、自分の姉が大好きだった。
頭が良くて話題も豊富で、自分をもっている人。
彼は、実家で久しぶりに彼女と会えてうれしかったらしく、
一月いっぱい実家の話題になるのは毎年のことなのだけど、
東京に戻ってからはずっと彼女の話ばかりしていた。
私は年末年始の間にいろいろ悩んだりしていたのだけど、
彼の楽しそうな顔を見ていると水をさすようなことはしたくなかった。

写真でしか見たことがないけれど、
彼女は、色白で華奢な感じがする目のキラキラした美人。
これで頭がよくてどんな話をしても楽しいというのだから、
男なら誰もがあこがれるんじゃないだろうか。
写真を見て「お姉さんと似てるね」というと彼はとてもうれしそうだった。
でも私は、話を聞けば聞くほど彼女が自己中心的な気まぐれな人に思えて、
あまり仲良くなれそうにないなと思った。
彼は口では「姉さんの強引さには困ったよ」というけど、
どう見てもうれしそうにしか見えない。

いつものように適当に聞き流していられれば
よかったのだけど、今年は違っていた。
彼は、姉が今まで好きだった趣味や音楽にあきて
新しい分野に挑戦していることを知り、
今まで自分の好きだったものを捨てて
新しいものを好きになろうとしていた。
彼が捨てようとしているものの中には、
私が苦労して好きになったものの大半が含まれていた。
そして、実家で姉と話し合った結果
健康を考えてお酒を飲んだりするのはやめることにしたという。

遠出はめんどうだし休日は疲れているからしたくない。
映画館やコンサート会場は混んでいるから嫌い。
飲み屋は高いから酒は家で飲んだほうがいい。
そして今度は、家でも嗜好品は避けるという。
それじゃあ、あなたと一緒にいるとき、
私はどうしていればいいのだろう。
部屋で一緒にお茶でも飲んでようか?

彼はお姉さんからもらった本を何度も読んで喜んでいた。
それは、私には到底好きになれそうにない分野のものだった。
彼が私にもそれをすすめようとしたとき、
初めて私は彼に嫌悪感を感じた。
急いで表情をもとにもどそうとしたけれど、
私があらわにした嫌悪感は彼に十分わかったようだった。

改めて話を聞いてみると、彼が私に話した楽しい話や
彼の「本物」好きは全て彼女の受け売りであることがわかった。
彼が否定した私の意見でさえ、
実家で姉から一言言われたとたん肯定に変わったことにも気づいた。
私が好きだったのは、お姉さんにあこがれていただけの、
自分の意志なんてほとんどない人だったのか。
冷たいものが背中を通り過ぎていくような感じがした。

今まで彼の好きなものを好きになろうとしてきたのに、
彼はそれを簡単に捨て、私と一緒に何かを楽しむ気すらあまりないらしい。
私は彼にあわせていたつもりだったけど、
本当はお姉さんにあわせていたのだ。
会ったこともない彼のお姉さんに振り回されていたなんて。
何か、とんでもない悪い冗談に違いない。
そう思いたかったけど、気持ちが急速にしぼんでいくのは止められなかった。

翌週も、その翌週も彼は、
彼女から与えられた新しい世界を楽しみつづけていた。
私はその世界を好きになることはできず、
一緒にいても口元でしか笑いを作れなくなっていた。
いつもなら苦痛な休日の仕事も、かえってうれしく感じた。
そんな気持ちを知ってか知らずか、
彼はうちの家族に会いたいとほのめかしてくる。
もうそんな気はあまりなかった。
お姉さんにすすめられれば、私と別れてくれる?
そんな言葉がのど元まで出かかっては消えた。

でも、最初から好きなものは好き、
嫌いなものは嫌いといっていれば
こんなことにはならなかった。
これは自分のまねいたことなのだから、
悲劇のヒロインぶることはできない。
私は「気のあう彼女」を演じつづけた責任を
とらないといけないのだ。


賭けのつもりで、電話をかけて
今日自分の行きたいところを言ってみた。

帰ってきた答えは、

「眠いし、疲れてるし、遠いから一人でいってきて」

だった。

勇気をふりしぼって
「私のことをどう思ってるの」と聞いてみようとしたら、
突然、携帯の電池が切れた。

どうしてこう、いつもタイミングが悪いのだろう。
携帯を見つめていたら、乗るはずだったバスまでも
私の横を通り過ぎ、乱暴な砂埃が私の髪をかきあげた。

家に戻ろうか。
一人で出かけようか。
彼の家へいこうか。

どこへ向かっても、この気持ちを
今すぐに満たすことはできない。

しばらく考えて、自分の決めた方向へ歩きはじめた。



<appleteaより>

長々とした文章を読んでくださってありがとうございました。(^^;
本当は一日分のつもりだったんですが、
構成をかえて短くするつもりが
さらに長くなってしまいました。(苦笑)

私がどこへ向かって歩きだしたかは。。。
とりあえず内緒です。(^^)
そのうち、そのことを書くかもしれませんが
気が向いたら読んでくださいね。

読んでくださった方にいいことがありますよーに。
明日からは一日分にまとめます。(^^;


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