雑感
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2006年10月08日(日) アウグスッス(2)

長い年月をへて、アウグスッスは、ほとほと嫌になって自殺しようとしたときに、名付け親が現れた。
「どうかね、アウグスッス、何かの願いをもうひとつかなさせてあげるとしたら?君はたぶん金や宝石をほしがらないだろう。権力や女の愛ももうたくさんだろう。君の堕落した生活を再びより美しく、よりよくし、再び楽しくするような力があると思ったらそれを願いたまえ。」(高橋健二訳)

アウグスッスは深く考えた後にこの魔法を解いて、今度は「人を愛することができるような」魔法をかけてほしいと願った。
新しい魔法がかかったとたん、人々は彼を憎み、彼の過去の悪行を取り沙汰して殴り刑務所に放り込んだ。牢獄にいる間、アウグスッスは人にあいたくてしかたがなかった。どんなに彼の悪口を言う人でさえ内面には、ひそやかな愛情ややさしさの光が彼には見えた。

刑務所から出た後は、乞食となって形相も醜く、誰も彼に注意を払うものもなく、子供に石を投げられて追い払われるが、それでもアウグスッスには子供たち、自分にひどいことをする大人たちのことが好きでたまらない。
遊んだり、学校に行く子供たちのことをかわいく思い、ベンチで一休みしている老人のしなびた手をみて、いとおしく思う。
何らかの形で人々の役に立ちたいと世界をさすらった。

この世にはどんなに不幸が多いか、しかし人々はどんなに満足していられるかに彼は毎日驚きを覚えた。(高橋健二訳)
長い放浪生活の後、歳をとって、生まれ故郷に戻ったとき、魔法使いの名付け親が現れて、彼の膝の上に頭を乗せて天使の踊りを見ながら、安らかに天国に旅立っていくという物語。
ヘッセの作品の中で、これが一番気に入っている。


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