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2008年04月30日(水) 風薫る。


此れは今、触れられない距離に居る、貴方への恋文。

貴方とのこの関係を、私はなんと表せばよいのでしょうか。
どんな体験も共有したくて、私の口は言葉を紡ぐ。
他愛のない日常の風景から、深い思考の果てまでも、私は貴方に知っていて欲しい。
だから止め処もなく、私は言葉を紡がなければなりません。
貴方の目が、耳が、存在が、全てが。
私から片時も離れていかぬように。
だから私は、何時だって心の言葉を紡ぎ続ける。
貴方の為だけの、貴方への言葉を。

そんな自分を知った時、私は自分がとてつもなく幼くなってしまった錯覚に陥るのです。

小さい頃、私は両親に、その日あったことなどを報告するような子供ではありませんでした。
どうしてでしょう?
それはきっと、両親が私の世界にとって必要なかったのだと思います。
別に両親が嫌いだと言うのではありません。
両親の事は、もちろん大事に思っています。
二人が居なければ、私はこの世に存在すらしていないのですから。
ただ、両親の期待の在り処が、『子供らしい子供』ではなく、『聞き分けのいい子』だったというだけ。
誰よりもそれを敏感に察知できる私は、『お父さん、あのね』や、『お母さん、あのね』と言った言葉を発することはなかった。
静かに、ただ静かに。
本の中だけに、自分の安息の地を見出してページを手繰るような子供でした。

成人した今になって。
日常の取るに足らないアレコレを、貴方に報告するようになるなんて。
些細な話でも楽しげに受け入れてもらえることが、こんなに幸せなことだったなんて。
私は、貴方の元でもう一度育っているような気すらするのです。
貴方は、私の父であり、母。

こういった私の、まごう事なき四方山話を、貴方は笑って聞きました。
そして、こう言ったのです。

『もう僕は恋人ではない?(笑)』

この質問に、答えられない私が居ました。
そもそも、私には【恋】の経験値がないに等しく、【恋人】と言われてもピンと来なかったから。
これが『僕は君にとって何?』だったら、こんなに自信を持って答えられることはなかったのに。
だから、私は問いました。

『恋人ってどんなイメージの人に使うの?』

貴方はまた、笑って答えます。

『いちゃいちゃしたくなる人に使う言葉かな(笑)』

貴方の定義で言うのならば、確かに貴方は私にとって【恋人】に他ならない、と私は答えました。
そして更に続けます。

『貴方にとって、【愛】とは?』

これは、自分自身にしてみたい質問でもありました。
私にとって、【愛】とは。
自分の答えが出る前に、貴方の言葉が私に降り注ぎます。

『僕と君、二人で育てていくものかな(笑)』

柔らかな音の振動は、私の皮膚からゆっくり優しく中へと浸透してゆくようでした。
包まれている、と強く感じます。

『じゃあ、もし、ふたりに子供が出来たら、それは【愛】だね。』

私の言葉は、どんなトーンで貴方へと届いたでしょうか。
天邪鬼な私です。
少しでも、嬉しさが滲んでいたらいいのですが。
嬉しさを上回る恥ずかしさで顔が見れない私の頭上から、また貴方の優しい振動が降り注ぎます。

『そうだよ、【愛】だね(笑) でも、それまでにもたくさん二人で育てなくちゃね(笑)』

琴線に触れる、というのは、こういうことを言うのでしょうか。
たくさんの優しい音のヴァイブレーションに触れた私は、確かにけれど静かに悟りました。

【恋】の答えは自分が持っているけど、【愛】の答えは相手の中に在るんだ。

そして貴方は、いつだって確かにその答えを自分の内に持っていたんだ。
だから、【恋】の経験も危うい【愛】初心者の私を、大きく丸く、包み込めたんだ。

私は、安心してもいいんですよね。
貴方を信じて、いいんですよね。

けれど私には、背中合わせの闇が在る。
いつ何時、またその闇に飲み込まれるか知れません。
その時は、尋ねてもいいですか?
貴方が持っている、その確かな答えを。

そうそう、昨日、珍しく貴方が弱音を吐きましたね。
長く会わなくて、私不足だと。
いつだってそんなことを言うのは私の役目で、貴方はそれをなだめる側。
だから、凄く凄く驚きながら凄く凄く喜んで、私は貴方をなだめたのでした。
そしてそっと、考えたのです。
何故、貴方がそんな弱音を口にしたのかと。
そして、閃きました。

今、貴方が居るところには、私の面影が全くないから。

だから、倍以上の恋しさが募った、と思ったのですが、それは正解でしょうか。
普段貴方が過ごしている街はつまり私が過ごしている街で、貴方が一人で何処へ行こうとも、そこかしこに私との思い出が溢れているから。
一人で見ているその風景の中に、私の面影を見出すのは容易いはず。
けれど、今貴方が居るところに、私は行ったことがない。
だから、何処を見渡しても私の面影は何処にもない。
面影のなさは、心許なさに繋がり、転じて私と貴方の目の前に横たわる、物理的距離への実感となる。
だから、恋しく思ってくれた、と。
そう思ってもいいでしょうか。
それともこれは、己惚れでしょうか。


そろそろ筆を置きますね。
文体が統一出来ず、大変読み辛くなってしまったこと、お許し下さい。
読んだ貴方はきっと、『気にすることないよ(笑)』と笑ってくれると信じています。

早く、出来るだけ早く。
気をつけて帰って来て下さい。


此れは只、触れられない距離に居る貴方への恋文。


 昨日  記録  明日


狗神史狼 [直訴]

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