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2007年12月19日(水) みんな誰もがわからない。

【CASE.1 学ランを着た僕の場合】

いつもの帰り道。
彼女と僕は、放課後デートを楽しむ。
通学路にある川縁の草むらに並んで腰掛けて二人でボーっとするのが、案外僕は好きだったりする。

だけど、今日ばっかりは。

緊張の余り饒舌になってしまう。
だって今日、僕は人生にして初の『異性とのキス』とやらを経験しようと決めたから。
何にも関係ない話をペラペラと口に出しながら、頭の中はキスのことでいっぱいになる。
口は臭くないかな(大丈夫、直前にミントガムを噛んだから)、歯が当たったらかっこ悪いな(勢い付いてしなけりゃきっと当たらないさ)、嫌がられたらどうしよう(その場合はやっぱりしない方がいいんだろうか)、っていうか、キスまでのイイムードって一体どうやって作るんだ!?
ぐるぐると欲求が渦巻く僕の頭の中とは裏腹に、僕の横に座った案外寡黙な彼女は、気分が乗ってるのか乗らないのか、僕の話にただただあいづちを打っている。
彼女の視線はボーっと川の流れを追うばかりで、僕と目が合うことはない。

・・・・やりづらいな。

急に息苦しくなった気がして、僕は学ランの襟元を人差し指でぐりぐりする。
喉仏にカラーが当たってちょっと痛いのは前々から。
いつになったら僕になじむんだ、この制服は。
少しだけイライラしたので、さっきまでペラペラ口から滑り出てくる言葉が止んだ。
ふと、視線を感じる。
喉元から視線を上げたら、ばっちり彼女と目が合った。
可憐な表情で、小首をかしげて僕を見ているセーラー服の彼女。
目だけで、『急に黙り込んで、どうしたの?』と語ってる。
いまだっ!と思う間もなく、気付いたら彼女の後頭部をつかんで引き寄せていた。

がちっ、という音が、したような、しないような。

気付いたら彼女と僕は、さっきまでの距離に戻っていて、相変わらず彼女は川を眺めてた。
気まずくなった僕は、さっきまでのようにまたペラペラと喋りだす。

『明日の体育さぁ、マラソンなんだって!こんな時期にしんどいよなぁ??』

にこっと彼女の顔を覗き込むように問いかけた。
彼女はチラともこちらを見ずに、ぼんやりした表情で答えた。

『女子はバレーボールだって。』

・・・・さっきのことは、なかったことになってるのだろうか?
嬉しかったのか、嫌だったのかもコメントなし。
その後の態度すら変わりなし。
こうして僕の『初体験』は幕を閉じた。


僕には、彼女がわからない。


【CASE.2 ダウンジャケットを着たあたしの場合】

合コンというよりは、友達の紹介。
彼と会うのは初めて紹介された時を含めて今日で三回目。
友達の彼氏の友達、つまりはみんな顔見知り。
そんなの冴えないとは思うんだけど、あたしにはとかく出会いがない。
最初は男友達でもいいから関係をつないでいかなくちゃ、と思ってる。
紹介された男の子は、あたしの好みではないけれど結構イケメンでモテる人らしい(あたしの好みではないので、あたしにはわからないけれど)。
あたし的には友達でいいかなって思ってたけど、彼はあたしにご執心だ。
結構離れた場所に住んでいるのに、週末になると足しげくあたしの元に通ってくる。
連絡なしにバイト先に現れた時はさすがにちょっとヒいたけど。
こちとらダサい制服で仕事中だっての!
できるだけ可愛い格好で会いたい乙女心を、彼はまだまだわかっていない。
まぁ、それもこれも『あたしに会いたい!』って情熱の表れだと考えたら、許せない訳でもないけど。
三回目の『オトモダチデート』はお昼間から動物園。
公園でピクニックランチをして、ウィンドーショッピング。
今は、寒い風吹き抜ける川縁で、彼に寄り添って座っているところ。
黙りがちになる彼に、あたしもつられて黙りがち。
っていうか、寒いからせめてトークくらいは弾ませたいんですけれども。

『ねぇ、寒くない?』と、彼。

『うん、寒いねぇ』と、あたし。

『後ろから、ぎゅうしたらあったかいかな?』と、彼。

『ぁあ、あったかそうだねぇ。してよ、してよ〜(笑)』と、あたし。

おもむろに立ち上がって、あたしの後ろから包み込む形で抱きしめてくる彼。

お互いに着てるダウンジャケットのサテン地が、せつなそうにきゅっきゅっとこすれた音を出す。

あ〜、あったかいなぁ、と幸せ気分になるあたし。

『ねぇ、後ろ向いてみて!』と、彼。

ん?何か珍しいものでも?と首をひねるあたし。


その時、クチビルにあたたかいものが触れる。


え!?キスされた!?
びっくりして目も閉じられなかったあたしに、満面の笑みの彼の顔が視界いっぱいに広がった。

・・・・まだ、あたしたちオトモダチですよね?

そりゃあ、イイムードじゃなかったと言えば嘘になるけど。
彼のこと、嫌いじゃないと言えば嘘になるけど。
っていうか、どちらかと言えば好きだけど。

でもあたし、今の初キスだったんですけど!

別に初キスに夢なんて持ってないけど、こんなに普通に過ぎるものなの!?
さっき飲んでたペプシレモンの味がしたっつーの!
思わずあたしは問い詰めた。

『・・・彼女にしてくれるってこと?』

彼はぐずぐずと答えた。

『・・・・うん・・・・まぁ・・・・嫌いだったら、こんな遠くまでわざわざ来ないことでわかってよ・・・・気持ち。』

なんだそりゃ!?
むしろムードに流されて衝動でキスしたんじゃあるめぇな!?


あたしには、彼がわからない。


【CASE.3 公園から帰る先輩と後輩の場合】

二人で帰る夜の道。
街灯に乏しい公園の出口まで、二人はゆっくりと歩いていく。
先輩は原動機付自転車を転がして歩き、その横に並んで後輩も。
公園の出口に置かれた後輩の自転車までが、二人暗黙の了解での帰り道。

『暗いので、足元に気をつけて下さい』と、後輩が先輩を気遣う。
しかし、先輩は既にフルフェイスタイプのヘルメットを身に着けていたので、その声が届かず『え!?』と大きめの声で聞き返した。
『足元、気をつけて下さい!』、後輩は先ほどの声よりも大き目の声でもう一度言った。
『ぁあ、うん、ありがとう』とお礼を言う先輩。

沈黙が二人を包んだ。
二人一緒の帰り道まであと少し。
必然的に歩みが遅くなる二人。
まだ、離れたくないのかも知れない。

急にふっと後輩が笑った。
『どうしたの?』と聞く先輩に、後輩が立ち止まる。
つられて立ち止まった先輩が、後輩の顔を見た時に、後輩は目をそらさず答えた。

『ヒかないで下さい。今、あなたとキスがしたいなぁ、って思ったんです。』

ぐっ、と答えに詰まる先輩。
気まずさを払拭するように、後輩がおちゃらけた声で続けた。

『ぁあ、でもヘルメットかぶっちゃってますもんねぇ(笑) 何言ってんだろう、自分!(笑)』

歩き出す後輩。
後に続かない先輩に気付いて、くるりと後ろを振り返ったら、先輩がおもむろにヘルメットを脱いでいるのが目に入った。
え!?と思う間もなく、先輩が笑顔で問いかけた。

『する?』

迷ってる暇はない。
先輩の気が変わらないうちに。
後輩は奪うようにキスをした。

その接触と呼んでも差し支えないような短いキスに、先輩の心臓ははちきれんばかりの鼓動を鳴らす。
大丈夫だったかな、キスくらいなんてことないのよって先輩のふりできたかな。
その時後輩の嬉しそうな顔が目に入った。

『よかったぁ〜(笑)』

後輩は思う。
いつ冗談だって言われるかと気が気じゃなかったけど、先輩は逃げずにいてくれた。
これは自分にもチャンスがあるのかも知れない。
さて、これからどうしよう??
その時先輩が嬉しそうな顔で自分の後に続いた。

『じゃあもう一回くらいしとく??』

今度はゆっくりと触れ合うくちびる。
お互いの思いは交錯する。

だってまだ自分たちはただの先輩、後輩。


ぁあ、どうしよう。


アナタの気持ちが、わからない!!



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