凪の日々
■引きこもり専業主婦の子育て愚痴日記■
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久しぶりに母から電話。 アイの小学校の運動会がもうじきある。 知らせたら運動会の翌週が従姉妹の結婚式だといってたから、その日にち確認かな。
母方の従姉妹に私は会った事もない。 顔も名前もろくに知らない。 それでも母と叔母はそれは仲の良い姉妹なので、母を通じてそれなりになんとなく従姉妹の話は聞いていた。 都会に就職したが、帰って来て田舎のカラオケボックスだかスナックだかお食事どころだかで働いているとか、妻子もちの男と噂になってるとか付き合っているとか。
狭い田舎町なので噂はいくらでも広まる。 心配した母と叔父が親戚うちで縁談を世話したが、先方は乗り気だったのに断わってしまっておかげであちらに顔向けできなくなったとか。 あまり楽しそうな話は全然聞こえていなかったのだが、その従姉妹がやっとこの人なら、という人と出会えたらしい。 田舎の大きな農家の人で、それはそれは大きな家屋敷で、「もうすっかり良い所の奥様みたいな顔して」と幸せであろう従姉妹の事を母はそう表現していた。 それでも、お祝いなんだから、祝福してあげなきゃ、と結納に出席し(田舎は結納も親戚一同介して大宴会になるのだ)それは立派な結納品と綺麗な未来の花嫁であったらしい。
「それでね、結納の時、○ちゃんが着付けたそうなんだけどね」 田舎で美容院をきりもりしている私の同級生の名を告げる。 「着付けしている時に、なんかおっぱいがヘンだなぁと思ったらしいの。でもめでたい時なんだからそんな事言えるわけないじゃない?」 なんだろう。妊娠って事かな。 まぁ、だとしたら二重にめでたいんだからいいんじゃないのかな… 次の言葉を待つ。
「病院へ行ったら、乳癌だったんだって。」
は?
「抗がん剤の治療とかしなきゃいけないから、二年間は結婚はできないんだって。結婚しても、治療中は子供は作れないわけだから、どっちみち駄目だしねぇ」
従姉妹は35歳らしい。 2年後は37。それから子供を、と考え始めるとしたら…
結局この話は無かった事になったらしい。 結納金を全額返すだけで、その他の様々な費用は先方が負担したままにしておくそうだ。 「立派な結納品だったんだけど、全部持って返ってねぇ…」 疲れたように母がつぶやく。
飾られたきらびやかな結納品の数々。 それらが消えた後のぽっかり空いた空間。 おそらく座敷の仏間の、床の間あたりに飾ってあったのだろう。 その前に座り込み呆然とする顔も知らない従姉妹の姿を想像する。 泣き崩れる叔母の姿も。
田舎ではおそらく美容師の○ちゃんを媒体にそれはそれはドラマチックな噂話として町中に広がっているだろう。 叔母は職場にどんな顔をして通っているのか。 そもそも通えているんだろうか。
この噂話が「二年間待つって男が約束してくれたそうよ」 「一緒に通院したりしてるらしいよ」 「治療が終わったから結婚するらしい」 「式の日取りが決まったらしいよ」と続く事を祈るばかり。
暁
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