凪の日々



■引きこもり専業主婦の子育て愚痴日記■

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2004年03月01日(月) 法要

法事で田舎に帰省した。
父親の二十三回忌だ。
彼と暮らした年月より死んでからの方がとうに長い。

父の姉妹達が集まる。
叔母たちはどんどん歳老いてきていて、どんどん死んだ祖母に似てくる。

叔母達は私に会うと「あんたは苦労したから」と涙ぐむ。
闘病生活が長かった父の健康な頃の姿は私の記憶にはない。
動かない身体を引きずり部屋を這いまわり悪口雑言をわめきまわすキチガイの姿しか。
学校から帰るとそのキチガイの世話をしていた。
「あんたはお父さんによくしてくれた」と叔母は潤んだ目で私を見つめて言う。
「当時の事はあまり覚えていないんです」と笑顔で返す。
そう。毎日毎日、このキチガイを殺す方法を考え続けていた事だけしか。
少年法が適用する年齢なんか小学生の頃から知っていた。
14才迄に殺さなければ、と思っていた。

その年齢になる前に死んでくれたのは幸いだったのか。
カミサマが殺してくれたの?
それともアクマ?
どちらでもいい。アリガトウ。
誰にでもなく感謝した葬儀の日。
棺の顔なんか見もしなかった。
涙もこぼれるはずはなかった。

「誰が忘れても、私だけは死ぬ迄覚えておくからね。あんたがどれだけお父さんの為に一生懸命やってくれたか。私が生き証人だからね。」
叔母の目から涙が零れ落ちる。

「子供として親に当然の事をしただけですよ。」
私は笑顔で叔母の肩にそっと手を置く。
「叔母さん達がいつも色々助けてくださったから、なんとかやってこれたんだと思います。本当に有難うございます。」

私にとってただのキチガイだった彼も、叔母達からは大事な兄妹だったのだろうし。
「兄は娘に献身的に介護されたのがせめてもの幸せだった」という彼女達のささやかな救いを奪わないように、親孝行だった娘を演じてあげよう。
そうして、赤ん坊を抱いている私の姿は、叔母達の救いにもなるのだ。





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