井口健二のOn the Production
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2024年11月17日(日) 満ち足りた家族、ステラ/ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女(以下に随時追加します)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『満ち足りた家族』“보통의 가족”
2008年8月紹介『ハピネス』などのホ・ジノ監督が、2014年
8月紹介『監視者たち』などのソル・ギョングと2019年8月
紹介『王宮の夜鬼』などのチャン・ドンゴンを主演に迎え、
韓国の社会問題を背景に描いた家族の物語。
登場するのは兄は弁護士、弟は勤務医という兄弟。兄は金の
ためなら殺人犯の依頼も引き受け、強引な弁論で無罪を勝ち
取るという上流階級御用達の高級市民。対する弟は海外での
ヴォランティア経験もある人格者だ。
そんな兄には先妻との間に儲けた高校生の長女と年下の後妻
との間に生まれたばかりの幼児がいた。一方の弟にはヴォラ
ンティア時代に出会った年上の妻と中学生の息子がおり、受
験を控えた息子には兄の長女が勉強を教えに来ていた。
そんな兄弟は生活レヴェルや信条に違いはあったが、夫婦同
士で会食するのが習わしになっている。そこでは弟の家で暮
らす実母の処遇なども話されていたが、そんな会食の日に事
件が起きる。それは家族を根底から揺るがすものだった。

共演は2014年『優しい嘘』などのキム・ヒエと、2017年11月
紹介『ダークタワー』などのクローディア・キム。因に後者
は今までは主にハリウッド映画で活動してきており、本作が
韓国映画デビューだそうだ。
物語はオランダの作家ヘルマン・コッホがコッホが2009年に
発表した小説に基づくもので、同じ原作からはすでに本国の
オランダの他、イタリア語版や英語版も製作され、本作韓国
語版が4ヶ国目の映画化となっている。
その作品は韓国の社会状況に合わせた巧みな脚色がなされて
いるものだが、脚本家の欄に原作者の名前が併記されている
のは、原作への忠実度も高いものなのだろう。正に原作を尊
重した脚色のようだ。
因にホ・ジノ監督は2012年に『危険な関係』の韓国版も手掛
けており、西欧の作品を韓国化して映画化することには長け
ているものだ。しかもその時も高い評価を得ていたと記憶し
ている。
とは言うものの本作に関しては、結末において観客は正に置
いてけぼりにされてしまうもので、原作がそうなのだろうと
は思うものの、この感覚は観客にはかなりの衝撃となる。そ
んな感覚を味あわせてくれるのも巧みな作品だ。

公開は2025年1月17日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社日活/KDDIの招待で試写を観て
投稿するものです。

『ステラ/ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女』
                “Stella. Ein leben.”
自らがユダヤ人でありながら、ゲシュタポに同胞の所在情報
を通報することでホロコーストを生き延びた女性の姿を描い
たドイツ、オーストリア、スイス、イギリス合作映画。
物語の始りは1940年のドイツ・ベルリン。主人公のステラは
ユダヤ人の仲間と共にジャズを歌い、将来はブロードウェイ
のステージに立つことも夢見ていた。しかしそんな彼女らの
周囲にナチスの影が忍び寄ってくる。
そして1943年、ステラは軍需工場で働かされていたが、彼女
の周囲からもアウシュビッツに移送される家族が出始める。
そして彼女の一家も隠れて住むようになって行くが、彼女自
身は髪を金髪にして街に出ることができた。
しかし偽の身分証を作る組織と関わり始めたことから、彼女
の運命が動き出す。

出演は2020年『水を抱く女』でベルリン国際映画祭主演女優
賞など受賞のパウラ・ベーアと、2016年にヨーロッパ映画祭
シューティングスター賞受賞のヤニス・ニヴーナー。
他に2016年4月紹介『帰ってきたヒトラー』などのカッチャ
・リーマン、2023年5月紹介『ナチスに仕掛けたチェスゲー
ム』などのルーカス・ミコ。
さらに2011年5月紹介『ハンナ』などに出演のジョエル・バ
ズマン、舞台出身で本作が映画デビューのベキム・ラティフ
ィ。そして『帰ってきたヒトラー』に出演のゲルティ・ツィ
ントらが脇を固めている。
監督と共同脚本は、2022年にパリ同時多発テロ事件を扱った
『ぼくは君たちを憎まないことにした』でドイツ映画賞脚本
賞授賞のキリアン・リートホーフ。脚本は同作でも組んだチ
ームとの共同のものだ。
映画の物語には史実に基づくとされる同名の書籍なども在る
ようだが、監督らはさらに終戦後にステラが旧ソ連で訴追さ
れた裁判の記録などもリサーチして脚本を練り上げている。
そこには社会に翻弄された若い女性の姿が描かれる。
とは言うものの、内容的には特に後半は彼女の手口を並べ立
てるだけで、彼女自身の葛藤などはほとんど描かれない。そ
の辺は1983年にメリル・ストリープがオスカー主演女優賞を
獲得した『ソフィーの選択』などとは異なる。
でもまあそれくらいに彼女の悪行は認められないのだろう。
それは映画の結末の描き方などにもその思いが集約されてい
るようにも感じられた。つまりステラを悪女として描こうと
いう魂胆が見える作品だ。
ただそのお陰で、映画の中でも彼女以外の密告者は描かれる
し、ユダヤ人社会が密告社会のように描かれてしまっている
のは意図的なのかな? ナチスの中にユダヤ人が多く紛れ込
んでいたというのは周知だが。

公開は2025年2月7日より、東京地区は新宿武蔵野館他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社クロックワークスの招待で試写
を観て投稿するものです。

(以下に随時追加します)


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