「硝子の月」
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災い、災い、わざわい。 ニンゲンとはおかしなものだ。そんなに災いが怖いのだろうか。 「……本当、笑える話じゃないか」 目をほそめながら彼はふと、少女の赤い目に思いを馳せる。 あの凛とした美しさが気に入っている。たぶん、一番に。 運命を見る赤い双眸。それすらも人は災いと恐れるのだ。 まったく、ニンゲンというのはおかしくてたまらない。 「さあニンゲンたち」 誰も気付かないだけだ。この世は災いにうずめられている。 息もできないほど過密に、骨まで染みるほど濃密に。 名前をつけて呼ぶ必要もないほど、それらは近いのだ。 それは誰も知らないだけで。 「この災いの子たちから、精々逃げ回ってごらん……?」 どうして逃れられよう。 ヒトの両足をつかんで放さない、この世界という災いの種から。
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