※・・・スミマセン、数日前にあんな話書いときながら、本日の某スポーツの結果に思わずツッコミ入れずにいられなくなりまして。 ほとんど推敲なしに書きました。一部不愉快な箇所があるかもしれませんが、あくまでギャグですんで、ご了承ください。ちなみに主役は波多野です。そしていつも以上に、蒲生さんの讃岐弁がメチャクチャです(T_T) 誰も本気にはしないと思いますが、一応事前に断っておきます。 この物語はあくまでもフィクションであり、実際の個人・団体・施設等には何の関係もございませんから!! ************* そもそも波多野の様子がおかしくなったのは、その日のレース後顔なじみの記者と雑談をしてからだ、と皆が記憶している。 「マジっスか!? ホントに日本が準決勝進出、決定したんですか!?」 「そう聞いてるよ。アメリカがまさかの敗退でね。韓国との三度目の正直だって、世間は大騒ぎになってるみたいだけど・・・」 「そ、そうなのか・・・見たいなあ・・・」 「見たいって・・・ああ、そう言えば波多野君て、もと高校球児だっけ?」 「ええ。あいにく甲子園には行けませんでしたけどね。何か胸が躍るなあvv」 そしてその日波多野は、平和島のレコード記録にコンマ1秒と迫るブッチギリの強さで勝利したものの、折角の勝利者インタビューでもどこか、気がそぞろで。 その理由を周囲が知ったのは、夜、選手宿舎でスポーツニュースを見てから。 ───ご多分に漏れず。 昔野球少年だった波多野は、王貞治の熱狂的大ファンであった。 「じゃ、何か? お前がやたら今日のレースに早くケリつけたがってたのって、一刻も早く宿舎に戻ってニュースでW●Cの結果を、確認したかったからなのかよ?」 「は、はあ、まあ、そういうことなんです、ハイ・・・」 浜岡がそう波多野に詰問したのは、夕食も終わり、ひとっ風呂浴びようと足を運んだ風呂場だったのには、果たして作意はなかったのか。 現に、周囲の選手は耳をそばだてて、2人のやり取りを伺っている。それが今日のレースで、波多野に負けた選手なら尚のことだ。 『オレはああいういい加減なヤツに負けたのか・・・』と言う呟きが、あちらこちらから漏れて来る。 「・・・あのなあ。まだ準優に進めるかどうかの瀬戸際だってのに、そんなことにうつつを抜かしてて大丈夫なのかよ?」 「だ、大丈夫ですよ。気合入りまくってますから」 どこか引きつった笑顔と共にそう答えた波多野だったが、異を唱える人間は必ず存在するもので。 「それはどうかな? もし日本が韓国に『3度目の正直』とやらで勝ちでもしたら、別の方向に気合が入るんじゃないのかい? 波多野」 「な、なにおう?」 いつものごとく、波多野に対してそんな小生意気な言葉を発したのは、洞口Jr.である。 その言い草自体は彼らしいであろう。が、わざわざ口に出さなくてもいい事柄でもある。 何故なら黙っていればあるいは、波多野は最終日に早く帰りたいばかりにわざと負けを重ねる、ということがありうるわけで。 ある意味それは、真剣勝負の上でならともかくも、わざと負けたりしたら許さない、と言う洞口Jr.の潔い気概をも、示しているのだ。本人には今ひとつ、自覚がないらしいが。 そして波多野にとって運の悪いことに、彼の負け逃げを断固許してくれそうもない男がもう1人、今の会話を聞きつけていたのだ。 「ほー、何やおもろいコト話しとるなあ? 波多野」 「が、蒲生さん・・・☆」 いつの間にやら背後に迫っていた蒲生が、ほとんど羽交い絞め同然に波多野に抱きついた。・・・満面の笑みをたたえて。 「そーいや、ワシの近所の連中にも数年前やったか、オリンピックの野球中継見たさに約束サボって後でエライ目に遭うた、ちゅうんがおったなあ」 「そ、そうなんですか?」 「野球好きにはああいう世界大会ちゅうて、たまらんもんらしいのお。決勝戦なら尚のこと。あいにくワシにはピンと来んわ。今でもあんましウチでテレビ見んし。 ・・・まーさーかー、とは思うけど波多野、お前、『だぶるー●ーしー』とかのTV中継見たさに、最終日のレースそこそこの時間で引き上げる、ちゅう算段でおるんやないよ、なああ?」 「ま、まさか、ですよ、それこそ。・・・はははははは」 「そ、か。そやったら安心したわ。ワシなあ、榎木やお前らとスリリングなレースするん、今節もめっちゃ楽しみに来たっちゅうに、逃げられたらどないしよー、思っとたんやー」 「そ、そんなこと、するわけないでしょ。か、考えたことも、ないっス。こ、こ、これっぽっちもっ」 「そやろーそやろー。今から決勝レースが楽しみやなー」 ───蛇ににらまれた蛙? ───イヤ、どっちかと言えば、少々気の弱い狐と、ぶ厚い毛皮を二、三枚かぶった狸の化かし合いじゃないか? 不運にもその場に居合わせた人間は、2人を見て皆そうツッコンだが、そろって心の中だけでとどめている。 下手にここで受け答えしようものなら。 そのままプロレス技にでも持ち込みそうな凄まじい迫力と共に、波多野に抱きついている蒲生の『感情』の矛先が、こちらに飛んでこないとも限らないではないか。 だから皆、一瞬だけでも不埒な考えに及んだ同僚に遠巻きで、心の底から同情するのであった。 蒲生の横で、ダラダラと脂汗を流す波多野は、だから気づかなかった。 自分の杞憂が馬鹿らしくなった洞口Jr.が同期の『危機』をあっさり見捨て、さっさと自室に引き上げていったことを。 そして───。 「ナイスタイミングっス、榎木さん。ホント、助かりました、蒲生さんに話つけて下さって」 「礼を言いたいのはこっちだよ。浜岡くんこそ、よく私に相談してくれたね。もし蒲生さんがこのことを知らないままだったら、きっともっと機嫌を損ねていたと思うから」 「みたいっスね、あの様子じゃ。・・・まあ、オレも少し考えすぎかな、とは思ったんスけど、念のためって言うか、釘刺しときたかった、っていうか」 物陰で同支部の先輩と『艇王』が、ひそひそと密談していた、などということも。 *************** かくして、波多野憲二は無事、21日の決勝戦にコマを進め、蒲生や榎木たちと熱戦をくりひろげたのであった。 尚、予断ではあるが。 気を利かせた幼馴染の澄が、わざわざW●Cの決勝戦を録画してくれたから良かったものの。 日本がキューバに劇的な勝利を遂げた、その決定的瞬間をタイムリーで見損ねたと知った波多野が、滂沱の涙にくれたのは───言うまでもないことであろう。 《おしまい》 −−−−−−−−−−−−−−−−−− ※まずは一言。 波多野ファン、ゴメン(平伏) イヤ、日本がW●Cの決勝戦にコマを進めたことも、優勝したのも、本来なら喜ばしいことなんですけどね。 そのせいで案外、折角の総理大臣杯決勝が盛り上がりに欠けたりしなかったろうなー? とか思ったら、何か書かずにはいられなくなりまして。 よく考えたら、波多野は昔野球してたんだったよな? とか思い出したら、どうしてもこんな方角にしか筆が進まなくなった次第です。ホントにゴメン。 あくまでもギャグだってことで、大目に見てやってください!!
昨日はSSをUPすることでめいっぱいだったのと、さすがに11KBのテキストの後に文章を足すと容量不足になるだろう、との判断で、後書きしませんでした。 ですんで、こっちに書こうと思います。 そもそも発端は、SS前書きにも書いたけど、久しぶりの「アニメ・モン●ーターン」新作イラストを、今年の総理大臣杯ポスターとして見た、ことです。いい加減「モン●ーターン」新作に餓えてたちゃんちゃん☆ は、それだけで「ほえ〜〜v」と喜び勇んでしまい。 どうせだから、総理大臣杯ネタで何か書けないかな? と思ったんであります。 その時、何故かいきなり頭の中に思い浮かんだのが、 蒲生さんが青空の下、愛車を整備している図 だったんですよねー。 実家が『蒲生モーターズ』だし、きっと手馴れたしぐさで整備するんだろうなー、鼻歌でも歌って、などと思考は更に進んでいたのですが、ちょうどその時、ずっと前々から構想してた長編SSのネタが、リンクしてしまったんです。 波多野が、とある理由で榎木さんと2人きりで話す機会があって、 「蒲生さんが特定の恋人作らないのは、きっとあの愛車にハマってるせいだー」 とか何とか言ったら、榎木さんが真に受ける、ってシーンに。 ・・・断っておきますが、これってれっきとした健全ネタですからね?(^^;;;)単なる言葉遊びの一環なんですよ。SS全般のあらすじには、あんまり絡まないよーな。 ただ、その時は何故か機会がなくて、波多野も榎木さんもその発想を蒲生さん本人にぶつけてなかったよな、と思い出し。 んじゃ、折角だから榎木さんに言ってもらいましょv とホント、かるーい気持ちでした。 が、そのまま構想を練っていたら、ふと首を傾げてしまいまして。 何か、違う。 愛車=古女房、って言うのは確かに当たってるけど、それがすべてを指し示してるか、って聞かれたら、ビミョーにズレてないか・・・? じゃあ、蒲生さんにとってのアノ愛車って、何なの? と考えてたら、何故か他人に愛車を酷評される蒲生さん、なんて思い浮かんでしまいまして。 きっと蒲生さんのことだから、飄々としながらも心の底では静かに憤るんじゃないか。自分が好きなんだから乗ってるんだ、他人にどうこう言われる筋合いはない、って言いながら、フル整備に励むんじゃないか、と。 ペンキの剥げた後も、へこんだボディーも、決してなかったことにせず、目をそらしたりせず、何もかもひっくるめて愛してるんじゃないか、と。 ・・・そうしたら、今まで思っても見なかった発想が、頭にとりつきまして。 本文に書いたのが、ちゃんちゃん☆ なりの結論なわけです。きちんと読む人に正しく伝われば良いのですが。 **************** ところで、あいにくちゃんちゃん☆ は△菱J●epには乗ったことがないのですが(※記憶があいまいなのだが、かなり幼い頃に乗ったような気がする)、これって乗り込む時にかなりコツがいるらしいですね? 慣れていなかったり、優れた洞察力がないと、へっぴり腰で乗り降りする羽目になるらしい、と聞いてます。 作中で「蒲生さんの後輩」がヒラリ、と乗り込むシーンをわざわざ挿入したのは、何度か乗ったことがあるのと、後、彼に冷静な判断力がある、ってことを表現したかったんです。分かりづらかったろうけど。 もちろん、この「後輩」って言うのは、『モン●ーターン』内の「艇王」のことです。わざと明記しませんでしたけどね。 それから、実は当初の構想だと、蒲生さんが『彼女』の整備中、山口から榎木さんが会いに来てくれる予定でした。後に控えてる競艇雑誌の取材って香川で、実は榎木さんとの対談形式だったんで。(←趣味丸出し!!) でも話が締まらないと、泣く泣く削除しました。(T_T) 色々妄想してたのになーー。整備中一息つこうとした時、榎木さんが気を利かせてコーヒー淹れてくれるとか。んでもって自分用のコーヒーカップと一緒に持ってきて、蒲生さんと立ち話しながら楽しく飲んでる、とか。 競艇所じゃ絶対、ありえないシチュエーションですもん。 それと、ラスト近くで榎木さんが、 「地理的に近いから、新人時代はそれなりの間隔で一般戦がかち合ってた」 って言ってますが、実はこれには何の根拠もありません。(をい☆) ただ原作にて、主人公の波多野憲二が新人の頃斡旋されていたのが東京近郊ばかりのように思えたので、単純に「所属支部の近くから斡旋されるのか?」と推測し、文章内に盛り込んだ次第です。そういうものなのか、と変に勘違いしないでくださいね。 どうせなら、この話の元になった長編SSの方もいつか、発表したいんですけどね。なまじ蒲生さんカコバナ捏造だし、構想を文章にするのってホント難しい・・・。 -------------------------------- 追伸: マイPCの壁紙を、今回の総理大臣杯のポスターにして見てたら、面白いことを発見。 手前側で艇が競り合っている構成になっているんだけど、どうやらそのメンバーは 青(4号艇):洞口Jr. 緑(6号艇):波多野 黒(2号艇):蒲生さん 赤(3号艇):犬飼さん らしい。 ちなみにみんなでポーズを決めているイラストでは、青島が黄(5号艇)になっている。 ・・・じゃ、残った白(1番艇)って誰? ちゃんちゃん☆ 的にはやっぱ、榎木さんあたりがいいんだけどなー。彼って、白の勝負服が一番似合うし。(2番目に似合うのは、ヘルメットの色に合った黒だけど) しかしこれって、ドリーム戦なんでしょうか? それとも決勝レース? ・・・ポスター1枚で、ここまで妄想繰り広げられる自分って、一体・・・☆
※いよいよ総理大臣杯、始まりましたねー。(あいにく新聞とか、ネットを通じてしか観戦できないけど☆) 今回の話は、某・公式サイトさんに掲載されていた「2006年度総理大臣杯ポスター」(※壁紙アリvv)に思い切りよろめいてしまい、どうせだからこの時期の話を書いてやろう! と書き始めた次第です。・・・でも他の時期でも違和感なかったりして☆ もちろん、蒲生さんの話ですv では。 ************ 世間は卒業式だの、卒業旅行だのでかしましい3月半ば。 蒲生は久しぶりに、『彼女』のご機嫌取りをすることにした。 最近は一緒にいても、時折物騒な『声』を上げたり、その麗しいおみ足での走りっぷりをご披露してくれなかったりと、調子が悪そうなのだ。どうやら仕事やら、他の女やらにかまけていたせいか、ちょっと拗ねてしまったらしい。 幸運にも、今日は午前中だけなら時間がある。午後からは競艇雑誌の取材があるものの、それまでは完全なるフリータイムだ。コミュニケーションをとるにはもってこいであろう。 「そんじゃ、ちょっとおじさんにお口開けて見せてね〜?」 ふざけた口調で、その実真剣な表情で言いながら、使い慣れた工具で愛車の点検を始めた蒲生であった。 さすがに3月ともなると、ここのところ春めいた天候が続いてはいたが、今日はことさら良い天気である。空はどこまでも青く、雲ひとつない。冷たい風も吹くことなく、外で自動車整備をするには絶好の日、と言っても過言ではないだろう。 幸いにも、愛車のエンジンには大したトラブルは見当たらず、蒲生は胸をなでおろす。既に車自体は生産中止になってしまっているので、部品交換、と言っても純製品ではもはや不可能に近いからだ。 まあ、自分はこれでも専門家だ。そうなった時は似たような部品で、うまく修理する自信はあるのだけれど。 当面の不安はなくなったこともあり、蒲生はついでにと、『彼女』のクリーニングに取り掛かる。 「フンフ〜ン、フ〜ン♪」 手入れするのにも、つい鼻歌なぞこぼれるのは、陽気の良さのせいか。 この手の車ではさすがに洗車はできないし、たとえ幌をつけたとしてもジッパーの部分が錆びるような気がするので、流水をかけっぱなしには出来ない。だからもっぱら、濡らしたタオルで磨くやり方となる。時々さび止めを塗ってやるなどせねばならず、手間がかかることこの上ない。 もっとも蒲生は、こういう手間のかかりようをこそ、愛しているようなものだが。 ・・・ふと。 ───えらくボロっちい車っすねー、こいつ。蒲生さんならちょっとした中古車でも、整備しだいで新品同様に出来るんでしょう? だったら、買い換えたらどうですか? こいつ、手間かかるだけだろうに・・・。 かなり以前、そう言われた事を思い出し、手が止まる。 『彼女』との付き合いはそこそこ長い。さすがに『蒲生モーターズ』の古株従業員には及ばないが、それでも競艇選手になる前に購入した代物だ。 『4WD』と言う呼び方がまだ一般的ではなかった頃、自分の行動範囲に見合う機動的な車が欲しくて、買った車。山だろうが海岸だろうが、それこそ自分の手足のように操ることが出来るのが嬉しくて、色々理由をつけては乗り回していた記憶がある。 だが、自分にとって『彼女』にいまだに乗り続けるのは、惰性に似た愛着、以外の意味があるのかもしれない───最近蒲生は、そう思うようになったのだ。 **************** ───蒲生さんにとってこの車は、古女房みたいなものでしょう? いつだったか、あれは丸亀でG1が開催された頃。こちらはつい最近のことだ。 地元だと言うこともあって、この愛車に乗って丸亀競艇所へ乗り込んだわけだが、その最終日だったと思う。やはりあの日も天気が良かったので、最寄の駅まで送るから、とレース後の後輩を1人乗せてやったことがあったはずだ。 『彼女』のあまりの年季の入りように、蒲生になじみの薄い記者などは、イヤな感じの笑みを浮かべてこちらを見ていたらしいが。 件の後輩はと言えば、 「ああ、懐かしいなあ。相変わらず大事に乗ってるんですね、蒲生さんらしい」 と、久しぶりに会う旧友に対するような眼差しで『彼女』を見て。 それから「お邪魔します」と、まるで自室にでも招かれたような挨拶と共に、ヒラリと乗り込んで来た。まるで躊躇なしに。 そう言えばこいつは何度か『彼女』に同乗したことがあったんだったな、と十数年前のことを思い起こしていた蒲生に、この後輩が唐突に言ったのが『古女房』発言だったのだ。 「はあ? 古女房やと?」 「以前、波多野と話してたんですよ。蒲生さんが結婚しないのは案外、この車に入れ込んでるせいじゃないか、ってね」 「お前ら・・・2人して勝手に妙なこと話しとるなや」 「言いえて妙だと思いますけどね? どっちみちこれってデート用に向かないでしょうし、実際、付き合ってる女性は乗せたことがないんじゃないですか? 違います?」 「・・・・・・」 図星をつかれて二の句が告げられない蒲生に、助手席の後輩はクスクス笑う。 「さすがの蒲生さんも、2人の女性を同席させるほど図太くは、ないみたいですね」 「あのな・・・」 「いいじゃないですか。人であれ車であれ、そこまで惚れ込めるのならある意味、素敵だと思いますよ」 この後輩は時々、やけに文学的なセリフを言う。別に癇に障ったりはしないから構わないのだが、それだけに心に残ったのも事実。 「・・・そや、な。恋女房、言うんならちょっと違うきに、古女房、か。確かに辛い時も苦しい時もずっと一緒、みたいなイメージあるかも知れんの。 しっかし、何か演歌みたいやなー。今時古いわー」 「・・・・・」 蒲生がわざと明るく言って見せたのには、さしもの後輩も苦笑を返すだけだった。 ***************** 辛い時も苦しい時もずっと一緒───。 蒲生があの時、思わず口にしたその言葉は、決してただの比喩ではない。蒲生が十数年前、実際に味わったものだ。 並み居るベテラン勢を押しのけ、20代の若さでSG初優出を果たしたその直後、痛恨のフライング。 色々ともてはやされていただけに、叩かれ方もまた半端ではなくて。たとえ蒲生が、名声とか人の評判とかはあまり気にしないとは言え、かなりショックを受けたのを覚えている。 それでも負けず嫌いだったから、早く立ち直りたくて。 でも周囲の冷たい目は、どうしようもなく、プレッシャーも酷くて。 ・・・何より、勝てないレースはしたくなかった。出るからには勝ちたかった・・・。 そんな頃だったのである。知り合ったばかりの自動車のディラーに、無責任なことを言われたのは。 ───買い換えたらどうですか? こいつ、手間かかるだけだろうに・・・。 何故か分からないがカチン、と来た。 幸い、一緒にいた従業員が空気を読んだのか、それとなく話をそらしてくれたからそれで済んだのだが、何をくだらない事を言ってくれるのだ、と腹立たしく思ってしまって。 そのディラーが帰るやいなや車庫に閉じこもり、しゃかりきになって『彼女』のフル整備をした覚えがある。 ・・・今にして思えば、あのディラーの発言に深い意味はなかった。どうやら競艇には興味がない輩だったようだし、単に自分の中古車を少しでも捌きたくて、期待半分で持ちかけただけだろう。 ただ、何も知らないヤツが勝手なことを抜かしやがって、と思った自分も、確かにそこにはいた。 手間がかかるから何だ? そのせいで何か、他人に迷惑でもかけたか? 整備するのは全部自分なのだ、それに、手間がかかるのも楽しみの1つだと言うのに・・・。 我ながら意固地になっていたな、と今なら冷静に判断できるのだが、あの頃は青二才だった。あるいは、フライングのせいで他人からの批評に、必要以上に過敏反応しただけかも知れない。 そう───これ以上周囲に迷惑をかける前に、さっさと競艇に見切りをつけて、第二の人生を送った方が身のためだ、と言われたかのような錯覚に陥ったから。 あるいは古びた愛車に、その頃の傷だらけの自分自身を重ね合わせていたのかも、知れない。 絶対見限るものか。 ・・・そう、決意したのは誰に対してのものだったのか。 月日は流れ。 それから十数年後、丸亀で波多野憲二との幸運な出会いを経て、蒲生がSGに復帰し。 最初こそプレッシャーに押されてポシャりもしたが、勘を取り戻し始めてからは順調に勝利を積み重ね、いつしか中堅どころの強豪、と言う評価を世間から受けるようになった頃。 ───新車買わないンすか? 蒲生さん。折角相当稼いでらっしゃるのに。 新しい車が欲しいから選手になった、と嘯く新人選手が、たまたま蒲生の愛車を見た時そう言ってのけたのだ。 蒲生とそれなりに親しい者たちは、皆眉をひそめずにはいられない。 いわば不文律で、蒲生が愛車を買い替える意思などないことは、分かりきっていたから。 そして、蒲生とそれほど親しくない者たちも、肝を冷やして成り行きを見守っていた。 仮にも先輩に対して、自分の趣味をこうも堂々と押し付けるのは、あまりに不躾だろう。 妙な緊張感漂う中、蒲生はヘラリ、と笑って答えて見せた。 「んー、考えたことないわ。金はみんな、全国24競艇所におるワシの女に貢いどるしのー。それに今新しい車買うても、自分で整備する時間ないと思うたら、めんどくさいやないか」 他人に整備を任せるなど考えもよらない、と言わんばかりの蒲生に、その場にいた全員が妙に納得したのだった。 その時やはり居合わせた、『彼女』とも昔馴染みであるかの後輩が、『古女房』発言を蒲生にぶつけたのは、後日のことである───。 多分この後輩は、漠然と思っていたに違いない。全国24競艇所にいると言う女性たちは皆愛人で、愛車こそが蒲生の本妻なのだ、と。だから何だかんだ言いながらも、最後には蒲生は本妻の元に戻るのだ、と。 ・・・確かにその仮説は当たっているのだろう。ただ、それが全てではない気がする。 ───新車買わないンすか? そう、あの新人に尋ねられた瞬間、蒲生は何故か想像してしまったのだ。 新品ピカピカの車を買い、そっちをメインに使うあまりに、『彼女』に乗らなくなったら、どうなるのか、と。 ひょっとしたら。 自分は『彼女』をどこか、見えない場所にでも閉じ込めてしまい、最初から存在しなかったもののように振舞うのではないのか、と・・・。 長らくのブランクはあったものの、今の自分は賞金王決定戦に毎年出場し、強豪選手の仲間入りを果たしている。そして、昔のことを自分の前で誹謗する人間なぞ、ほぼいない。 ・・・だが。 折角の初優出で、期待が高まる中フライングを犯し、大返還をしてしまったのも、紛れもないかつての自分なのだ。 その事実は曲げようがないし、決して忘れるべきではない。 蒲生は、この青空の下、柔らかな日差しを浴びて佇む『彼女』を、愛しげに撫でる。 錆が出て、ペンキを何度となく塗り直した箇所を。 うっかりぶつけて、わずかにひしゃげたフレームを。 そして、自分の意のまま軽やかに車体を操ってくれる、古びたハンドルを。 古女房というよりも。本妻と言うよりも。 『彼女』は自分が競艇選手として過ごしてきた、象徴そのもの。 辛いことも楽しいことも、全部一緒に味わってきたのだ。 それらを全部ひっくるめて、自分はこれからもずっと、決して忘れずに生きて行きたい・・・。 蒲生は漠然と、そう決意するのだった。 ***************** 「おおーっ、波多野ーーっvv 久しぶりじゃのお、会いたかったぞーーvv」 今年初めてのSGの前検日。 蒲生は数ヶ月ぶりに会う波多野憲二に、親愛と歓迎の意味合いでガシッ! とばかりに抱きついた。 彼らの後ろでは、香川支部の後輩や東京支部の浜岡が、呆れた顔をしている。 「あ・・・相変わらずっスね、蒲生さん」 クスクス、と失笑が漏れ、波多野はそうコメントを返すしかない。 周囲を気にする波多野に対し、人目などまるで気にしない蒲生。この取り合わせでの『ご挨拶』は、ほぼSGごとの名物と化しているらしい。 香川の蒲生にしてみれば賞金王決定戦が終われば、関東の強豪選手である波多野とは、総理大臣杯の時期にまでならないと会えない。だからこその歓迎ぶりなのだが。 実は今年の総理大臣杯は、波多野の地元・平和島だったりする。こちらが出迎える格好のはずが、こうも熱烈歓迎ぶりを示されると、波多野としても面食らうのも無理はない。 まさかこちらから抱き返すと言うのも、何だし。 「だけど、何で毎回毎回俺相手ばっかにハグなんですか? 同期の人とか、榎木さんとか、香川支部・・・はしょっちゅう顔合わせてるし今更だけど・・・とにかく。もっと親しい人、いるでしょうに」 「イヤ、新人時代は榎木相手にもしとったんやけどな」 「してたんですか☆」 少々呆れ気味の波多野に、背後から苦笑交じりの声がかかる。 「私は山口で、蒲生さんは香川だろう? 地理的に近いから、新人時代はそれなりの間隔で一般戦がかち合ってたんだよ」 「榎木さん! お、おはようございます」 「おはようございます。・・・じゃあ、その度に抱きつかれてた、ってことですか?」 「まあ、そういうことになるかな」 波多野と一緒にいた浜岡に問われ、榎木祐介は笑いをかみ殺すようにして答えた。 蒲生は、と言えば、先輩ならではの大らかな挨拶を、昔馴染みの後輩に返す。 「ホンマ、あの頃の榎木は純情やったからなー。抱きつくたびに悲鳴上げて、おもろかったんやけど」 「ああも頻繁に抱きつかれたら、誰だっていい加減慣れますよ」 「慣れるくらいに抱きついてたんですか☆」 「そやかて、女子選手に抱きついたらセクハラになるやないかー」 「論点ズレてるって☆」 波多野と笑い、榎木と話し、香川支部の後輩にたしなめられ。 そうするうちに、蒲生は自分の周りに人が集まってくる実感を覚えるのだった。 今年もまた、総理大臣杯が始まる。 《終》 ***************** ※良く考えたら、前検日の話なんだから、昨日のうちにUPしとくべきだったのかも。あう☆
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