ちゃんちゃん☆のショート創作

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4月27日分修正報告、その他
2002年04月29日(月)

茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−2、何とか修正済みました。よろしければ読んでくださいませ。
しかし、本日のHPの日記にも書いたんですが、榊さんってモノホンのモーホーだったんですねえ(汗)。それならそうと早く言ってくれないと、な気分であります。今のところ「モーホーだからこういう行動は取らないだろう」みたいな文面は、書いてないからまだ助かってるんですけどね。
ってわけで、SS「茂保衛門様 快刀乱麻!」を読むに当たる注意事項が1つ、加わるわけであります。
曰く「この物語は、先日発売された『キャラクターズファイル』を読む前に構想&執筆されたものであります。よって、多少の人物設定に矛盾等あると思われますが、どうぞご了承下さいませ」。
 ははははは・・・どこまで墓穴を掘れば気が済むんだろ・・・(滝汗)。


茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−2 外法帖
2002年04月27日(土)

*また長くなってしまって申しわけありません。
おまけにこの(7)ー2に限り、後日加筆訂正の予定ありです。急ぎ働き・・・もとい、やっつけ仕事の執筆なんぞ、やるもんじゃありませんな。でもせめて休みに入る前に、このコーナー更新していきたかったもので・・・。
 これからしばらく、PCの前にはいません。5月3日辺りまでですけど。よかったら感想とか、下さいね。約1名申告してくださった以外、誰も感想くれないんですもの・・・(涙)

(4月29日加筆)
※と言うわけで、加筆修正しました。話の内容自体はあまり変わっていないのですが、具体的な描写を入れることで、隠された事件のおぞましさが伝わってくるのでは、と思います(汗)。一度でいいから人死にが出ない謎解き話、書いてみたいんですけどねえ・・・。では。

***********

茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−2



「・・・榊さん、一体今のは何だったんですか? 又之助のあの引っ掻き傷に関しては、ちゃんと報告があったはずでしょう」
 子供相手に大人げない口論をしたことで、御厨さんは呆れ顔をあたしに向けたけど、その問いにあたしは答えてあげない。あえて。
 代わりにあたしがしたのは、別室から湯飲みを持ってくることだった。これは以前うっかり床に落としちゃって、飲み口の部分にヒビが入っちゃったやつ。気に入った形だったから直そうかとも思ったけど、実験にはちょうどいいわ。
 呆気に取られている御厨さんをよそに、あたしは湯飲みを布にくるんだ状態で机の上に置き、まず上から拳で思いっきり! 叩いてみた。

 ごすっ!

「・・・・・・いったあいぃ・・・☆」
 や、やっぱりあたしの腕力じゃ無理みたいね。
 お次は湯飲みを床に立て、手で支えた状態で足で蹴飛ばしてみる。

 がつん!

 ううっ・・・例え蹴りでも単に足袋越しでだと、痛いのには変わりはないわ。でも今度は我慢我慢。
 さっきよりは力が入ったみたいだけど、それでも納得の行く結果が出ない。
「榊さん、さっきから一体何を・・・その湯飲みを割って、何をなさるおつもりですか」
 それでも御厨さんは、あたしがどうやらその湯飲みを自力で割ろうとしていることだけは、把握したみたい。
 まあ、あたしの部下としてならそのくらい頭が働かないとね。欠片が飛び散らないようにと布に包んじゃった辺から、勘付いたってところかしら。

「・・・ダメね。御厨さんならあるいは、割れるかもしれないけど」
 つれない湯飲みを、つんつんつつくあたし。
「私が試してみましょうか?」
「それじゃ意味がないのよ。あたしみたいに非力な人間にでも割れるかどうか、の実験なんだから」
 言いながら、最後にあたしが持ち出したのは巾着袋だった。
「榊さん、それは大事な物証で・・・」
 そう。今あたしが手にしてるのは、さっき岸井屋が持ってきた血まみれの巾着袋なの。
 御厨さんが止めるのも聞かないで、あたしはその巾着袋をゆっくりと湯飲みの上へと移動させ───そのまま落とした。

 がっしゃーん!!

 予想に違わず、湯飲みは粉々に割れてしまった。

「・・・よねえ、やっぱり」
 あたしは巾着袋と、原形をとどめない湯飲みの包みを見比べながらひとりごちた。
「こんなに固い湯飲みでさえこうなっちゃうんだから、もしこれが人間に振り下ろされたりでもしたら、単なる巾着袋でもれっきとした武器になっちゃうわよねえ」
「なっ・・・!?」
 あまりに飛躍した結論に、御厨さんが息を呑むのが分かる。
「ましてやそれが、体の弱い子供相手なら・・・昏倒させるのくらい、わけありませんよね」
「ま、待って下さい榊さん! いきなりどうしてそんなことを・・・大体この巾着袋は、岸井屋の持ち物ではないと言う話では・・・」
「・・・事件に関係してるとはまさか思わなかったから、あなたにはうっかり言い忘れていたんですけどね、御厨さん」
 あたしの視線は哀れな『犠牲物』から、御厨さんへとゆっくりと移り、とどまる。

「先ほど訪問した笹屋で、あたしは奥方から打ち明けられたんですよ。亭主が持っていたはずの巾着袋が、おろくの火事以後見当たらないのだと。小銭も相当入っていたはずだと。・・・そして何より久兵衛自身、巾着袋なんてどうでもいいと、新しい巾着も作りたがらなかったそうなんですよ」
 ───御厨さんの青褪めた顔がゆるゆると、驚愕から絶望の表情へと変貌していくのを、でもあたしはどこか他人事のように眺めていた。

************

 多分───あたしと御厨さんは今、同じような情景を思い描いていることでしょうね。

 刻は1ヶ月前。姉の凶行を止めるべく、病の身を押して日本橋の呉服屋・小津屋を目指す、おろくの弟・勇之介。
 それが小津屋の裏手にたどり着いたところで、いきなり後ろから殴り掛かられ、必死に抵抗するもあえなく昏倒・・・。
 血の滴り落ちる巾着袋を、悲鳴を上げて放り投げるは笹屋の久兵衛。それを拾い上げるは岸井屋の又之助。
 2人は1度だけ振り向いたけれど、それは勇之介が起き上がらないことを確かめるため。微動だにしないのを見て取るや否や、一目散にその場を立ち去る。
 そして・・・小津屋は炎に包まれた・・・・・!!


 火付盗賊改を勤めるようになってから、何となく分かるようになった心理なんだけど。
 ごくごくまっとうな生活をしている人間がうっかりある日、人を傷付けてしまったとする。そして自分のその犯罪を、世間から隠そうとしたとする。
 すると人間の当然の心理として、その犯人は凶器なり事件を連想するものなりを無意識のうちに、避けてしまう傾向があるのよ。事件を自分自身思い出したくないと言うことと、下手な尻尾を出したくないって言う、自己防衛本能からね。

 今回にもこの法則が、当てはまらないかしら?
 巾着袋を無くしたくせに、新しいものを作りたがらなかった久兵衛。
「死んだ勇之介と似たような年頃の」息子を近寄らせたがらず、「顎の傷を作ったはずの」飼い猫は可愛がっていたと言う又之助。
 そして───彼ら2人が襲われた時、どちらも『自分たちは小津屋の火事とは無関係だ』と言わんばかりに、発火しそうなものは何も持ちあわせていなかった、と言う、一見偶然にも見える共通点───!

***************

「まさか・・・まさか榊さんは、岸井屋と笹屋がおろくの火付けを知りながら止めなかったどころか、それを止めようとした弟まで見殺しにしたと、そうおっしゃるんですか・・・? そ、それじゃあ岸井屋は、万が一にも久兵衛の口から事件の真相がバレないようにと、共犯の質草としてあの巾着袋を預かっていたと・・・!?」
 真っ正直な御厨さんだけに、あたしが立てたあまりにおぞましい仮説を、そしてその結論へ到達するに至った自分自身の心を、信じたくないに違いない。
 けれどそれを否定するには、あまりに状況証拠が揃い過ぎていて。
「・・・物的証拠はどこにもありませんよ、御厨さん。それに・・・それを証言する者も、もう誰もいやしない。勇之介と岸井屋は焼け死に、笹屋は廃人同然。それこそイタコにでも縋るほか、ないじゃありませんか・・・」
 何の慰めにもならないと分かっていながら、あたしは自分自身の心の平静のために、そう告げることにした。

 ───おそらくは。
 焼死した勇之介の怨霊だわ。岸井屋・又之助と笹屋・久兵衛を襲ったのは。
 久兵衛は襲われた瞬間、そして又之助は久兵衛の様子を奥方から聞いて、そのことに勘付いたに違いない。
 だから又之助は、久兵衛が襲われてから死ぬ直前まで、岡場所の遊女たちに庇ってもらっていたのよ。彼女たちの名を「おろく」と呼ぶことで、姉大事の勇之介が自分を害せないように・・・!

 けどこれはもはや、あたしたち火附盗賊改の仕事じゃない。鬼や物の怪の専門家とも言える《龍閃組》の領分だ───。
「明日にでも・・・龍泉寺の連中に、この事件の収拾を頼みに行くことにいたしましょう。そうすれば・・・勇之介とやらの迷える魂も、何とか見つけることぐらいはできるでしょうから・・・」
 そう、強がりを呟きながら。
 自分の無力さに、あたしは拳を固く握り締めるしかなかった。

《続》
****************

*・・・というわけであります。これじゃあ怪奇モノと言うよりは、二流推理小説と言った感じですな(苦笑)。
 ところで文中、榊さんの過去やら家族構成やらが色々と出てきますが、もちろんこれはちゃんちゃん☆ のかんっぺき! な創作であります。だってえ、榊さんの人間像に関しては、初期に出版されたコー●ーの攻略本にしか、書かれてないんですもん・・・(涙)。あ、でも、そろそろ発売予定の外法帖関連本って、確かキャラクターに焦点を当てているそうだから、少しは榊さんの家族構成とか分かるのかしら。
 でも・・・もしちゃんちゃん☆ の想像と大きく隔たっていたらどおしよお・・・CDドラマ発売後と同じような墓穴を、せっせせっせと掘りまくってないか、をい(汗)。でも、陰ディスクでの行動を見る限り、腕っ節や武術に関してはからっきし、ってところは当たらずとも遠からず、だと思うんだけどなあ・・・。
 ちなみに、文中で出てきた「牝誑(めたらし)」と言う言葉は、皆さんもご存知であろうあの「鬼平犯科帳」で使用されているものから拝借しました。盗賊にも多分そういう役目はあったんだろうけど、実世界ではどのように呼ばれていたかは、ちゃんちゃん☆ は知りません。念のため。





茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−1 外法帖
2002年04月26日(金)

※ここへの書き込みが、一体何日ぶりになるのでありましょうか。でも、1ヶ月は間が空いていないだけ、まだマシと言ったところなのかな? 以前と比べて、ではありますが(笑)。
 さて今回にて、とりあえず話の伏線は全部張り尽くしたつもりであります。後は鬼道衆を出すのみなんですが・・・彼らの今作品での境遇に対して、どうか怒らないで下さいね。今のうち謝っておきますが(汗)。

***********
茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−1


 奇妙な夢を見た。

 いかにも腕っ節の強そうな盗賊の頭が(名のってもいないくせに、何故かそうだと分かってる辺り、夢って証拠よね)、あたしに向かって刀で斬り込んで来る。ぎらぎらと、殺気走った目をして
 それを見事な剣さばきで攻撃をかわしたあたしはと言えば、手のひらを広げたかと思うと何やら呪文のようなものを唱え始める。
 そこへ、盗賊たちがわんさとばかりに押し寄せてきて、視界いっぱいがまばゆい光に覆われたところで・・・。

 唐突に目が、覚めた。

*********

 疲れのあまり、布団の中で寝入っている男───それが現実のあたし。
 だけど夢の名残か、広げられた手のひらだけは天井目掛けて突き出されており、あたしを自嘲気味にさせた。
 手を布団の中に戻そうとして、ふと思い直す。わずかに入ってくる夕陽にかざすようにして、手の平を天井からこちらへと転じて見た。
 そこにあったのは竹刀ダコがあるわけでもない、何かの<妖力>を使えるでもない、ひょろりとしたいかにも鍛えていない青白い手、だった。
 ・・・そのまま手の平で顔を覆いながら、今し方まで見ていた夢を反芻する。
 別に悪夢と言うわけではない。夢の中のあたしは随分と優秀な与力で、どんなに強い盗賊でもねじ伏せてしまう剣術と<妖力>を、持っている。それがおぞましいわけでもない。
 ただ───目が覚めた時無性に、惨めになるだけ。

<・・・久しぶりに見ちゃったわね、こんな夢>

 初めて見たのは、確か火附盗賊改与力を拝命すると決まってから。やはり与力を勤めていた父親が隠居したいからと、あたしに火附盗賊改になるよう言い渡した時から。

 ───正直言ってあの時は、自分の耳を疑ったわね。当時のあたしは、そりゃまあ勉学についてはそこそこイイ線言っていたけれど、剣術はからっきし。唯一得意な乗馬も不純な理由で会得しただけで、別に与力になるべく心がけていたわけじゃなかったから。

 え? どうして与力が乗馬の心得がなきゃいけないのか、ですって? ・・・ふむ、すこし説明不足だったわね。
 奉行所であれ火附盗賊改であれ、配属される人員のうち同心は「1人2人」って数えるけど、与力は「1騎2騎」って数えるのがしきたりになってるの。何故かって? 与力は元々非常時には、馬に跨って戦うことになってるせいよ。まあ、徳川幕府もこう太平の時代が続けば、武士ですらそんなに乗馬に卓越してないのが、実状ではあるんだけどね。だからあたしが乗馬を会得しているのも、他人からはかなり変わり者だと思われてしまったみたい。
 話がそれてしまったわね。ええと、どこまで話したんでしたっけ? ・・・ああ、あたしが火附盗賊改与力を、父親から申し渡されたところからだったかしら。

 これが同じ与力でも、奉行所勤めだってならまだ話は分かるわ。だけど、ものが火附盗賊改よ? いざとなったら盗賊相手に斬り合いまでしなきゃならない、泣く子も黙る火附盗賊改なのよ? どう考えたって、あたしに勤まるはずがないじゃない。
 だけど、父親はいい加減高齢でこれ以上のお勤めは無理だって言うし、母親からは情けないだのそれでも男かだのと泣き付かれるし、他に仕事があるわけでもなしで、あたしは本当に渋々、父親の後を継いで火附盗賊改与力になったんだっけ。

 さっきみたいな夢を見始めたのは、ちょうどその頃。多分、自分の待遇に反した実力に隔たりを自覚して、焦っていたせいなんでしょうね。
 でもあたしはじきに、自分のやるべき事を見出すことが出来た。確かに武術では皆に劣っていたけど、頭脳なら誰にも引けを取りはしないもの。何度も事件現場に足を運んで、なるべく経験を積むように心がけた。
 そのうち、決定的な物的証拠を見つけることができるようになったり、効率がいい聞き取り方法って言うのが分かるようになったから、それらを部下に命じて成果を上げたり───後は、部下同士のいざこざを収めることとか、上司へのとりなしとか、まあそう言った細細としたことを、何時の間にか引き受けるようになっていたわね。
 だから、ある程度職務に慣れてきてからは、こんな夢も見なくなっていたんだけど・・・。


 次に、再びこの夢を見るようになったきっかけは、とある盗賊をやむを得ず、この手で斬り捨てる羽目になった時だったわ。

 盗賊って言ってもその男は、一見そうは見えない優男。・・・まあそれも無理はない話で、彼の仕事は盗みに押入ったり鍵穴をこじ開けたりするものじゃない。いわゆる『牝誑(めたらし)』ってヤツ。ここぞと思った店関連の女───たまぁに男相手のこともあったらしいけど───を篭絡し、引き込みなり店の情報の入手なりを手伝わせるの。挙げ句には押入った仲間に、誑し込んだ相手を口封じにと殺させてしまう、そんな物騒な男だった。
 だけど悪いことは出来ないものね。結局彼の色男ぶりから逆に足がつき、お縄にする日が来たってわけなんだけど、捕物の時にはそりゃあもう、とんでもない大乱闘になっちゃったのよ。

 その時、よほど彼は捕まりたくなかったらしくって、自分がこんな身分になったのは冷たい世の中のせいだだの、自分は進んで盗賊にも『牝誑』にもなったわけじゃないだのと、暴れながらわめいてた。世の中のもの全て、呪って憎んでるのを露骨にも吐き捨てて。
 運の悪いことに、その時近所の親子がその男に捕まっちゃって。その頃にはもう狂気染みた笑みさえ浮かべてたそいつは、
「オレがこうなったのは、全ては親を盗賊に殺されてみなしごになったせいだ。おまえらもそうしてやる!」
 そう言って、親の方を斬り殺そうとしたから・・・一番近い位置にいたあたしが、とっさに刀を抜いたってわけ。さすがに一刀両断ってわけにはいかなくて、そいつは地面に倒れ付してからも生きていた。
 そうしてその男は、引き立てていかれるまでの間、ずうっと世間を呪う言葉を垂れ流し続けたの。

「オレを不幸にしたのは世間のせいだ、親を殺した盗賊も、その盗賊を事前に捕らえることの出来なかったお前ら(火附盗賊改)も、全員同罪だ、殺してやる、殺してやる、殺してやる・・・」

 そう、何度も何度も。
 まるで、自分以外のものを憎むことでしか、生きる術を持たないかのように。
 その『牝誑』が、あたしが斬った傷が原因で死んだのは、それから数日後のことだった・・・。


 ───断っておくけど、あたしは別にその盗賊を斬り捨てたことを後悔してるわけじゃないのよ。あたしがそうしなかったら、また1人不幸な孤児が増えるだけなんだし。
 ただ・・・例の妙な夢をまたしばらく見る羽目になったのは、多分身につまされたせいなんでしょうね。自分の不遇を、世間を憎むことでしか晴らすことが出来なかったって男に対して。
 もしあたしが、与力としての自分の居場所や意義を見つけることが出来ずにいたら、一体どうなっていたかしら。やっぱりあの男のように世間を怨み、自分の職権を乱用した挙げ句に、悪事にでも手を染めていたかも知れないわ。
 まあ、あくまでも仮定の話だから、言うだけ馬鹿馬鹿しいけど。


 そして今回、またこの夢を見た、ってことは・・・。
 無意識のうちに焦っているんだろうなあ。事件の捜査が、まるで進展しないことに対して。
 おまけに《龍閃組》なんていう、与助の言う『専門家』までしゃしゃり出てきたから、尚更なんでしょうね。
 あたしに《龍閃組》の連中みたいな、不思議な妖力でも使うことができれば、こんな事件ぐらいたちどころに解決できるだろうに、って・・・。


 ───あたしは布団の中でもう1度、手の平をこちらへ向けて眺めてみた。
 御厨さんのような竹刀ダコもなく、《龍閃組》の連中のような妖力も使えない、これっぽっちも男らしくも武士らしくもない、なまっちょろい手を・・・。

*********************

 その時、部屋の外に人の気配を感じた。
「・・・榊さん、起きていらっしゃいますか」
 眠りを妨げぬよう、静かに押さえたその声は、御厨さんのもの。
 あたしがつい返事をせずにいると、もう1度。
「榊さん・・・」
「・・・起きていますよ」
 溜め息を1つ吐いた後、あたしはゆっくりと身を起こした。

 御厨さんは廊下から障子越しに、そのままあたしに用件を伝える。
「お休みのところ申し訳ありませんが、目通りを願いたいと申す者が来ております」
「あたしに? 誰なんです?」
「それが・・・岸井屋の女房と息子でして。どうしても相談したいことがあるから、と」
 ───岸井屋ですって?
 あたしの脳裏に、亭主の死を悼みつつも、詰所って事でどこか居心地悪そうにしていた女の姿が浮かんだ。
 だけど・・・確か岸井屋って、奥方と一緒に来ていたのって番頭だったんじゃなかったかしら?

「女房と一緒に来ているのが、息子なんですか? 今日ここへ来た番頭じゃなく?」
「はい、親に良く似た息子です。どうなされますか?」
「・・・会いましょう。今行きますから、待たせておいて下さいな」
 そう言って、一旦御厨さんを下げようとしたあたしだけど、ふと思うことがあり引き止める。
「・・・あたし、何刻ぐらい休んでいましたかしらね?」
「半刻(約1時間)ほどかと。申し訳ありません。折角休んでおられたのに・・・」
「気にする事はありませんよ。事件は待っちゃくれないし、それに少なくとも、目の疲れだけは取れたみたいですから。・・・悪かったですね、色々と気を遣わせて」
 思わず付け加えた言葉は、照れのせいかどこかぶっきらぼう。多分そのことが分かったんでしょうね。「いえ」とだけ答えながらも御厨さんが、どこか笑いを含んだような声になっていたのは、単なるあたしの気のせいかしら。

*************

 すこしだけ乱れた髪に櫛を通し、脱いでいた羽織に手を通してから、あたしは詰所に姿を見せた。
 そこには御厨さんの言う通り、今日会ったばかりの岸井屋の奥方と、目鼻立ちが母親似の息子が待っていた。あたしの顔を見ると、恐る恐る頭を下げる。
「・・・相談したいことがあるそうですね。今回の事件と、何か関係があるのかしら?」
 あたしがそう持ち掛けたところ、奥方は「関係あるかどうかは分からないのですが」と前置きした上で、話を始めた。
 その横で、年のわりには利発そうな息子が、挑むような眼差しで睨んでくる。多分、あたしが母親に言葉だけであろうと害を与えようものなら、たちまち噛み付いてくるぐらいはするだろう。
 父親がいない今、母親を助けられるのは自分だけ───そう心に決めているのが見て取れて、あたしは痛ましさと共に羨望を、彼に感じたわ。
 すっかりヒネちゃったあたしには、多分こんな瞳をするのは無理でしょうね。

「実は・・・主人の身の回りのものを整理しておりましたら、変なものが見つかったのでございます」
 そう言って、奥方が取り出したのは何やら重そうな風呂敷包み。
「まるで人目を避けるかのように置かれていたのでございますが、このようなものをどう扱っていいものか分からず、こちらへ来た次第で・・・」
「律義者の番頭に相談しても良かったんじゃないですか?」
 とりあえず牽制してみたら、奥方の表情は見事に強張った。
「店のことならともかくも・・・夫としての又之助の相談は、あの男になどしたくはございませぬ」
 ・・・なんだか、随分とややこしい人間関係がありそうよね。でも、それでわざわざ息子を連れてきたって事なのか。血の繋がりのある、実の息子の方が信頼が置けるって事なんでしょうね。
 奥方は風呂敷包みを解こうとしたが、手元がもつれてなかなかうまくいかないみたい。別にもったいぶってるんじゃないんでしょうけど、いい加減イライラして来たあたしは、そばにいた与助に代って貰った。
「・・・?」
 風呂敷きの中から出てきた物を見て、あたしは眉をひそめずにはいられない。

 それは、一見何の変哲もない巾着袋だった。どうやらかなりの小銭が入っているらしく、じゃらじゃらと音が聞こえる。
 ただ、柄の趣味はいただけないわね。全体的には深緑、そして底の部分には白い格子模様が入った布が使われているんだけど、どういうわけか褐色色の染めが入れられている。何もこんな染めを入れなくたって、もっと違う色の方が引き立つでしょうに。これを作った人間って、よほど美的感覚がないらしいわ。
 しかし・・・これのどこが、奥方を震え上がらせるような代物だって言うのかしら?

「小銭とか、瓦版とか、色々入ってるみたいっすね」
 与助は言いながら、巾着の中のものを1つ1つ取り出す。だけど、それを見守っているうちにあたしは、段々胸の中がむかついてくるのを覚えていた。
 紐で束ねられた小銭は銅貨でみんな妙に変色しているし、瓦版のはずの紙が何故か真っ赤に染められている。そして、こちらに漂ってくる鉄錆の匂い・・・。
「榊さん、どうかなさったんですか?」
 あたしの顔色の悪さに気づき、御厨さんが声をかけてきたけど、あたしは返事をするどころじゃなかった。
 ただちに与助から巾着袋を引ったくり、自分で検分する。中から出てきたのは他に、端が赤くなった手ぬぐいに、薄い桃色の鼻紙、そしてところどころが紫色になっている緑色のお守り袋・・・。
「こんな桃色の鼻紙なんて、どうやって手に入れたんでありやしょうねえ? しかも男が。綺麗な女人って言うなら、話は分かりやすけど・・・」
 後ろから覗き込んでノンキなことを言ってる与助に、あたしはきっぱり言ってやった。
「・・・別に桃色の鼻紙なんて、ありはしませんよ」
「え? けど現にこうやって・・・」
「これは普通の鼻紙に他なりません。ただ・・・少し血に染まっているみたいですけどね」

 一瞬の沈黙の後。
「・・・・うわわわわっ!?」
 事の次第を知った与助が、情けない叫び声を上げるのを聞きながら、あたしはゆっくりと手の中の瓦版を広げた。
 丁寧に畳まれていたそれは、広げようとすると紙同士がくっ付いてしまっていて、下手をすると破れそうだ。それでも苦労をして、内容を検分する。
 これはあたしもよく見かける、杏花って瓦版屋が作って売り出しているものに間違いない。だけど、彼女がこんな色の紙を使ったことなど、今まで一度もなかった。
 だとしたら、答えは1つ。この巾着袋全体が、血に染まっているって事だわ。だから巾着袋に変な染みが入ったり、小銭が変色してしまったわけね。

「どういう意味なのだ、これは!」
「私どもにも訳が分からないのでございます」
 御厨さんの厳しい詰問に、岸井屋の奥方はすっかり脅えてしまっている。
 それでも自分たちは何も知らないのだと言うことを主張すべく、必死でもつれる舌を動かしているって感じね。気休めにも、息子の手をぎゅっと握り締めて。
「い、今までわたしどももこのような巾着、見たことがないのでございます。主人の身の回りのものを整理しておりましたら、まるで隠すようにされていたものを息子が見つけて・・・」
「では、又之助の持ち物ではない、ということなんですね?」
「さ、さようでございます」
 ガチガチと歯まで震え出した奥方は、縋るような目であたしたちに聞き返してくる。
「一体主人は、何をしていたのでございましょうか? こんな、血まみれの大金が入った巾着袋など・・・。ま、まさか、強盗でもしでかしたのでは・・・」
「それは・・・」
 さすがの御厨さんも、多分同じ事を考えてしまったんでしょうね。すっかり言葉を失ってしまっている。

 だけど、あたしにはこれだけは言える。
「・・・そんなことはありえませんよ。もし又之助がそのようなことをしたとして、どうしてわざわざ巾着袋ごと隠しておく必要があるのですか? 万が一見咎められたら、言い訳のしようがないでしょうに。今だってそうなったじゃありませんか」
「し、しかし・・・」
「小銭だけを取り出して水ででも洗い、巾着袋やその他のものは埋めるなり、焼却してしまえば証拠は隠滅できるではないですか。小判ならともかく小銭なら、使ってしまえばまずアシはつかないでしょうしね」
 さすがに犯罪を促進しそうな話題は、御厨さんだけに聞こえるような声音で言ったけどね。
「・・・確かに」
 御厨さんも、あたしの鋭い観察眼に頷いているうちに、いつもの冷静さを取り戻しつつあるみたい。
「じゃあ、一体これは何なんで?」
「それをこれから調べるんですよ、与助。・・・あなた、スミマセンがこの2人を岸井屋まで、送っておあげなさいな。もう夜は遅いことですしね」
 あたしはそう口にする事で、この話題を打ち切ることを暗に提案した。
 むろん巾着袋のことは、誰にも口外しないように言い含めて。

 そうして、岸井屋の親子を帰そうとして、あたしはふと息子の方を呼びとめる。
「・・・そこの坊主、あなた随分威勢がいいみたいね。そんなにおっかさんのことが、大事?」
 揶揄するようなあたしの言葉に、思った通り息子は引っ掛かった。
「あったりまえだろ! 母上は俺が守ってみせるんだ!」
 まあその心意気は頼もしいことだわね。実現できるかどうかは、別物だけど。
「それが盗賊とか、ならず者相手でも?」
「そうだ!」
「ふうん、それでその威勢の良さで、父親ともちょっとしたケンカをしたって事?」
「・・・何だよ、それ」
「だってあんたの父親の顎に、爪で引っかいたような跡があるじゃない。アレ、あんたが取っ組み合いの喧嘩でもした時に、うっかり爪を立てたんじゃなくって?」
「はあ? どうして父上と喧嘩しなきゃいけないんだよ。俺大好きだったのに。それにアレって、ミケにやられたんだろ? 父上が自分で言ってたぜ?」
「あら、そうだったかしら。ごめんなさいねえ、あんたが喧嘩腰にあたしを睨み付けるもんだから、てっきりアレもその名残だったと勘違いしちゃったのよお」
「何だとお・・・!」
 息子は今にもつかみ掛かってくるような形相になったけど、母親と御厨さんに止められて渋々怒りを納めるのだった。

************
(7)−2に続く・・・


茂保衛門様 快刀乱麻!(6)・後編 外法帖
2002年04月14日(日)

※続きです。原稿用紙20枚分って結構少ないなあ、そしてそれだけの文章に纏め上げるのって難しいよなあ、と思っています。精進しないと。

**********

茂保衛門様 快刀乱麻!(6)・後編 


 そうして京橋で一通りの成果───又之助が頻繁に笹屋を訪れていたことや、最近眠れないと久兵衛自身がこぼしていたことなど───を得たあたしと御厨さんは、夕刻近くに火附盗賊改方役宅へと戻って来た。
「あ、親分、今帰りっすか?」
「おう、お前もか与助」
 ちょうど探索に出かけた帰りらしい与助と、門のところで合流して中へ一緒に入る。

「・・・それで与助、あなたの方は何かめぼしい手がかりでも見つかったのですか?」
 とりあえずあたしたちは、奥の詰所で与助の報告を聞くことにした。
 ちなみに、あたしが笹屋の奥方から得た情報については、御厨さんにはざっと大まかに説明はしてあるけど、与助の方にはまだである。・・・一応断っておくと、別に与助をないがしろにしているわけじゃないのよ。あたしとしては私情がなるべく入ってない情報を聞きたいから、先入観をまじえたくなかったってわけ。
「へい、色々と面白い・・・じゃなくて、込み入った事情が岸井屋にあったらしいことは、掴んで来やしたよ」
 どうやら出先で手応えがあったらしい与助は、妙にわくわくとした口調で話し出す。

「まずは岡場所に行ってみたんですけどね。又之助の奴、どうも夜の相手を毎晩『とっかえひっかえ』していたらしいっす」
「毎晩?」
「・・・単なる助平って意味じゃないの?」
 与助ってばやっぱり真っ先に岡場所へ行ったのね、とか、それら全部の遊女と話をしてデレデレしていたんだろう、とか、色んなことを胸の奥に押し込めたまま、あたしはそっけなく返したんだけど。
 与助はと言うとちっちっちっ、と人差し指を左右に揺らし、それは嬉しそうに付け加える。
「それもないって言えば嘘になるんでしょうけどね。ここからが本題っす。・・・なんとそいつら全員を、又之助は何故か同じ名前で呼んでたんだそうで」
「同じ名前だと?」
「へい。それが驚くじゃあございやせんか。『おろく』って呼んでいたんですよ」

 ───あたしと御厨さんは思わず、お互いの顔を見合わせずにはいられなかった。
 その名前自体はこの江戸じゃ、そんなに珍しいものじゃない。
 だけど、今回の場合『おろく』と聞いて連想するのは、先日火あぶりに加せられた火付け犯だけ。
 弟可愛さのあまりに火を付け、挙げ句その弟すら死に追いやってしまった悲劇の女。そして岸井屋・又之助と笹屋・久兵衛を繋げるきっかけを作った、小津屋大火事の火付け犯・おろくだけ───!

「どういうことだ・・・本当に1月前のあの火事と又之助は、何か関係があったと言うのか・・・?」
 そううめく御厨さんをよそに、与助の説明は続く。
「とにかく又之助が、自分が買った遊女を皆『おろく』って呼んでいたのは間違いないっす。彼女たちの本当の名前がおふさだろうがおみよだろうが、そんなのを無視して『おろく』と呼んでたってんでさあ。・・・まあ遊女たちも商売だから、そういう名前が好きなのか、或いは片思いの女の名前だろうって納得して、又之助から呼ばれるままにしてたってことで」
「それで、又之助がそんな酔狂な真似をするようになったのは、いつからなの?」
「確か九日前と聞いておりやす。帰る時刻はその日によって違ったんですが、来るのは必ず日が落ちる前だった、と」
 ふん・・・岡場所に通うようになったのは、久兵衛があんな無残な目に遭ったのを知ってから、ってことになるわね。おろくの火事が起きてから、じゃない辺りに引っ掛かりを覚えるわ。
「・・・遊女たちから見て、又之助はどんな様子だったって聞いてる?」
「いつも脅えていたらしいっすよ。結構尊大な感じなだけに、閨では妙に怖がったりしがみ付いて来たから、内心いい気味だって思ったり、優しい遊女辺りになると逆に母性本能くすぐられてたみたいっすけどね」
 久兵衛同様、夜脅えていたってことか。まあ・・・呪いとか鬼とか物の怪とかが出てくるとすれば、日中よりは夜だからねえ。夢を見るのも夜だし。
 だけどだからって、どうして又之助が遊女を『おろく』呼ばわりしていたかが理解できないわ。まさか彼女に横恋慕していたわけでもあるまいに。

「旦那、榊の旦那、話はまだ終りじゃありませんって」
 ついつい自分の考えに没頭していたあたしは、与助に袖を引っ張られてやっと我に返った。
 慌てて続きを促す。
「・・・聞かせてもらいましょうか」
「へい。で、今度は火事で焼け出された連中のことを調べようと思って、日本橋へ行ったんですがね。そこで妙な話を聞いたんですよ。又之助が言い争いをしてたのを見かけた、って」
 日本橋って、確か火元の小津屋があったところよね。与助も随分頑張って調べてること。
「言い争い? 誰とだ?」
「その辺では結構『顔』の、油売りの行商人だそうで。何だか険悪な雰囲気だった、って言ってましたよ」

 油売りの行商? あれ、どこかで聞いたような・・・。
「どんな油売りだ? 何か特徴でもないのか?」
 あたしの心中を読み取ったような御厨さんの言葉に、与助はあっさりと答えた。
「赤いお守り袋を首から下げてる奴、とか言ってたなあ。とにかくそいつが、死んだ又之助につかみ掛かってたらしいっすよ。『一体どういう事なんだ』とか『そんなつもりであんたに預けたんじゃなかったのに』とか、怒りまくっていたって話でさあ」

 ・・・ちょっと待ちなさいよ。赤いお守り袋を持った油売りって・・・!

「榊さん、よもやその行商人って、自分が火付けじゃないことを証明してくれると岸井屋が言っていた、あの・・・?」
 御厨さんの問いかけに、あたしは黙って頷くしかなかった。
 ───何だか変な話になってきたわね。まさかその油売りとやらが、何かがきっかけで又之助を怨んでて、挙げ句の果てに呪いか何かで殺した、とか言う安直なオチだったら、怒るわよあたし。
 でも、確かにその言い争いの原因は気になるし・・・。
「それで、その口論を見掛けたのはいつなの?」
「確か・・・おろくの火事の後だって話ですぜ。そいつは火事後の瓦礫を片づけてた時に、2人を見掛けたって言うんですから」
 きわめて信憑性の高い時間証言ね、それは。少なくとも日本橋じゃここしばらく、小津屋前後には火災は起きていないはずだから。

 しかしこうなったら、実際にその油売りから話を聞いた方がいいのかしら。寝込んでるって話だったから、あまり無理強いはしたくないんだけど。
 それに、やらなきゃいけないことも山ほどあるし。おろくと又之助が過去に何らかの関係があったかどうかとか、他にも・・・。
 積み重なる命題の多さに疲れてたんでしょうね。あたしは知らず知らず眉間を指で揉み解していることに、御厨さんに声をかけられるまで気づかずにいた。

「・・・榊さん、お休みになられてはいかがですか?」
「何を言ってるんですか。まだ眠るには早い時刻ですよ」
「それはそうですが、随分お疲れのご様子ですし」
「あたしを年寄り扱いしないで下さる? 疲れてなんていませんよ」
 とっさに眉間から指を離したあたしに、御厨さんは咳払いをしてからぼそり、と言う。
「榊さんご自慢の・・・その、美貌が台無しになるんじゃありませんか。寝不足は美容の大敵だって、常日頃おっしゃっておられたでしょう」
「ゔっ☆」
 い、痛いところ突くわね。
「それに、上役が休んで下さらないと、下に仕えている者も気兼ねして休めませんし。・・・与助、お前もう疲労困ぱいだろう?」
「へ? いやおいらは、まだそんなには・・・」
「疲労困ぱいだな?」
「・・・・・・へ、へい、じ、実はそうなんでして。いい加減家に帰っておねんねしたいかと、へいっ」

 こらこら、そこで子分に凄んでどうするのよ。
 でも・・・御厨さんにここまで心配かけるってことは、あたしの顔色が相当悪いって証拠なんでしょうね。身に覚えがあるだけに、反論する気力もないわ。
 しょうがない。ここはお言葉に甘えさせてもらいましょ。
「・・・そうね。与助、今日はもう下がっても構わないわ。また明日から働いてもらいますから、ゆっくり休んで頂戴」
 鷹揚に申し渡してから、御厨さんにも声をかける。
「折角ですから、仮眠を取らせていただきますよ。でも何かあったら、すぐに起こしに来て頂戴」
「はい、ごゆっくりお休み下さい」
「・・・仮眠だって言ってるでしょうが」



 寝床が敷かれた静かな部屋に入った途端、あたしは眠気を自覚した。
 だけどゆるゆると羽織を脱ぎ、布団に潜り込もうとした時、ふと思い出したことがある。

<ああ・・・そう言えば、御厨さんには大まかな話ばかりしてたから、まだ教えてなかったわね。久兵衛がお金が入った巾着袋を失くした、って奥方の話。ううん、でも・・・大した事じゃないし、事件とは無関係だから・・・後でもいい、か・・・>

 まるで泥沼に引きずり込まれるがごとく。それ以上の思考能力は完全に麻痺してしまい。
 あたしは一気に睡魔の甘い囁きに、取り込まれていくのだった・・・。

《続く》

**********************
※まずは第1課題、クリア〜!!
 このシリーズを書こうと決意した理由、それは、《龍閃組》及び鬼道衆に榊さんの男気を認めさせてやる! という願いでした。何せゲーム中で、陽壱拾壱話での榊さんの武勇談を知っているのって実のところ、火附盗賊改の連中とプレイヤーだけなんですものねえ。おまけにその後榊さんはほとんど姿を現さなくなるし・・・。まあ、ゲームストーリーに直接関わる話じゃないから仕方がないのかもしれませんが、せめて二次創作の場でだけでも救済してあげたい! と切に思ったわけです。榊さんにとってはいい迷惑かも(苦笑)。
 つまり、鬼道衆側に榊さんを見直させてやる作業が、この後に残っているわけだったりします。って言うより、むしろこっちの方がメインかも知れません。だって陽では少なくとも火附盗賊改らしく、長屋の見回りをするように御厨さんを叱り飛ばしてるシーンがあるのに、陰ディスクでの榊さんてば、出番が少ない上にすっかり小悪党なんですから・・・(涙)。ちゃんとストーリー展開は考えてありますので、もうしばらくお付き合い下さい。





茂保衛門様 快刀乱麻!(6)・前編 外法帖
2002年04月13日(土)

※外法帖のCDドラマ、ちゃんと聞きました。まあ、話的には面白いのではないかと。時間的にはもう少し長くても良かったような気もします。しかしOPとして「風詠みて水流れし都」まで収録されていたと言うことは、ひょっとしてゲーム本編に組み込むつもりのシナリオだったのかなあ? などと、変に期待してしまったりして。それと我らが榊さん、叱り役以外の行動も見せて欲しかったです。切に(苦笑)。
 さてさて、物語は今回1つの山場を迎えます。(ラストはまだ先の話です念のため)このSSを書く上での一番の目論見が、何とか果たせるといいのですが。

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茂保衛門様 快刀乱麻!(6)外法帖

 他人があたしに見せる態度ってヤツには、いくつかの傾向があるわ。

 まずは「オカマ」だの「女々しい」だのと、人の外見だけで中身を判断しようとする、ふざけた輩。《龍閃組》で言うと蓬莱寺京梧あたりがそうね。
 ・・・だけど、あたしが今まで会って来た人間の大部分が、これに該当するっていうのは、一体どういうことなのかしら。失礼だと思わない? それともそれだけ、小手先の見かけに騙される人間が多い、ってこと?

 次に多いのは『火附盗賊改方与力』って言う、肩書きで見る奴。そりゃまあ、泣く子も黙るって噂の役職ですもの、無視できる対象じゃないのは確かよね。《龍閃組》の大部分がこうだし、後ろ暗いものを持ってる連中なら、どうしてもあたしをこういう意識で見ざるを得ないわ。

 そして・・・悲しくもごくごく小数派なのが、そこそこの敬意と好意を持って接して来る人間。これはどうしても、火附盗賊改に属してる連中ばかり。
 つまり、仕事であたしとある程度関わらない限りは、こういう態度はとらないのが普通なの。あたしの所謂『男らしくない』風貌と、火附盗賊改って立場は自然他人を遠ざけ、結果嫌悪と畏怖の対象になってるってわけ。
 まあさっきも言ったけど、別にあたしは人に好かれようなんて思ってないから、それはそれで好都合だけど。

 だから。
「あ、榊さん帰って来たよ」
の声で一斉に振り返った《龍閃組》の表情は、あたしには馴染みのないものばかりだったのよねえ。

********

「「「「・・・・・」」」」

 ・・・ちょっと。見世物じゃないんだから、人の顔をそう覗き込まないでくれないかしら。珍しいものでも見るようなその表情は、一体何なのよ?
 特に蓬莱寺京梧と桜井小鈴の2人!! いつもは眉をひそめて、いかにも嫌そうにあたしを見てるくせに、どうして今日に限ってそんな、困ったような目をしてるわけ?
 あたしがいない間に、何か異変でもあったとでも言うの? けどもしそうなら、御厨さんが真っ先に報告してくれるはずだし。
「うーむ、人は見かけによらねえっつーか・・・」
「こ、こら蓬莱寺、いくら何でも榊殿に失礼だぞ」
「だってさあ、いかにも気弱そうで腰巾着みたいじゃないか」
「小鈴ちゃん、そんな風に言うものじゃないわ」

 ・・・聞こえてるわよ、一応遠慮して声は潜めてるみたいだけど。
 まあお陰で、この4人が(特に約2名!!)普段、あたしをどう見てるかってことはよーく分かったけど、だからってそれがどうやって、今あたしを見る目が違ってる事実に繋がるかが、どうしても分からない。

 ・・・4人?

 あたしはそこで、この場の異変に気づきつい、叫んでしまった。
「あの女はどこ!? 何でここにいないわけ?」
「あの女?」
「骨董屋の主だって言ってた、涼浬って女のことよっ!」
「「「「「あ!?」」」」」
 《龍閃組》の4人と御厨さんは、あたしに指摘されて初めて気づいたみたいだった。たちまち狼狽の色が浮かぶ。
 その場の混乱も、だけど瞬時に収まったけどね。他ならぬ涼浬が、静かに店の奥から帰って来て、こう言ったから。

「私ならここにおりますが、榊様。・・・どうかなされましたか」

 ───彼女の表情は先ほどと変わらない、無機質なまま。
「どうかなされた、じゃないわよ。あんた今までどこにいたわけ?」
「あちらに。何やら趣のある骨董品が見えましたので、もっと近くで見たいと思いましたから」
 このおおおおおおっ、よくもいけしゃあしゃあと!
 胸の中が怒りで煮えくり返りそうだったけど、ここで動じては向こうの思う壺よね。だからあたしは冷静を装って言ってやる。
「あ、あらそう。あなた、さぞや熱心に鑑賞していたのね。蜘蛛の巣に引っ掛かるほど」
「・・・・・っ!」
「と思ったけど、違ったわあ。単なる糸屑みたい。・・・どうかなさったのぉ、髪の毛に手をやったりして。骨董品を眺めるくらいで髪の毛に蜘蛛の巣がくっ付く覚え、あるわけぇ?」
「・・・・・」

 ───あたしがお上品に、ことさらわざとらしくイヤミを口にしたことで、どうやらこの場にいた全員が悟ったみたい。
 この涼浬って女がこともあろうに屋根裏にでも登って、あたしと笹屋の奥方の話を全部盗み聞きしてた、ってことをね。
 全く、油断も隙もあったもんじゃないわ。存在感が薄いとばかり思ってたこの女、どうやら常日頃から、気配を殺す訓練が身に付いてると見たわ。素人臭い《龍閃組》の中では珍しく、本格的な公儀隠密って雰囲気なのは意外だったけど。
「涼浬・・・お前、一体何考えてるんだよ。いくら何でもマズいだろうが、火附盗賊改がいる天井裏に忍び込むっていうのは」
(注意:火附盗賊改がいようがいまいが、人様の家の天井裏にこっそり忍び込むのは立派な犯罪行為です《汗》)
「・・・これも全て、事件解決のため」
「馬鹿野郎。曲者と勘違いされて、天井越しに串刺しにされても文句は言えねえところだぞ。ああ見えても手荒なことで有名なんだからよ、火付盗賊改は」
「私はそのような愚は冒しませぬ」

 意外に常識人の蓬莱寺と、静かに暴走するらしい涼浬の口論を背中で聞きながら、あたしはさっきからずっと気になっていたことを聞くことにした。
「・・・時に美里藍、どうしてあなたがここにいるわけなんですか? さっきからの様子から察するに、あなたが久兵衛殿を治療しに来たように思えるんですけど」
「ええ。奥さんから何も聞いていらっしゃらないのですか?」
 し、しまった☆ その手があったんだったわ。あまりに衝撃的なことばかり聞かされて、うっかり思い至らなかったけど。
「あたしはあなたの口から直接、聞きたいんですよ」
 己の手抜かりを舌打ちしながらも、もっともらしい理屈をこねて尋ね返すあたし。
 それなりに説得力があったのか、美里藍は神妙な面持ちで答えてくれたわ。

「そうですね・・・。でも、私がここへ来たのは今日が始めてなんです。所用で来られなくなった先生の代理として」
 へ? 初めて来たって言うのに、久兵衛のあの姿を見ても動揺しなかったって言うの? さすが医師の助手だけあって肝が据わっていると言うか、それとも《龍閃組》に選ばれただけある、と言うべきか・・・。
「察するに、あんたに代理を頼んだ先生って言うのが、久兵衛が大火傷を負った時に初めて診察した医師なのね。その先生に何か聞いてないの? 久兵衛の火傷に不審な点があるとか・・・」
「聞いています」
 そこで一旦言葉を切り、美里は醍醐の方をチラ、と見やる。彼が「話しても構わん」とばかりに重々しく頷いたのを確かめて、再び話を再開させた。

「その・・・初め先生は久兵衛さんの火傷は、誰かからの呪いのせいかもしれない、そう奥方に聞かされていたそうです。倒れていた久兵衛さんの周囲に、燃えるようなものも燃え残ったものもなかった、と言うことでしたから。───それが2度目に治療に訪れた時は、もうそのことについては何も話したくないと言われた上に、口止め料としていくらか押し付けられたんだそうです。・・・だからその話を先生から聞かされた時、何の事件に巻き込まれたんじゃないかって思って、みんなにも話しました。そしたら・・・」
「どうせ蓬莱寺辺りが首を突っ込もう、とか何とか言い出したってところなんでしょ」
 勝手に決め付けて、あたしはそこで話を打ち切った。でもきっと、当たらずとも遠からずだと思うけどね。

 ───でもなるほど。奥方の態度の激変は、多分岸井屋の又之助に恫喝されたせいだわ。死罪になるのがオチ、なんて脅されたら、そりゃあ必死になって事件そのものを隠そうとするでしょうよ。とりあえず奥方の主張の一部が、裏付けられた格好になるわね。
 そうだわ。どうせ京橋くんだりまで足を運んだ事だから、この際その他の裏を取って帰りましょ。嘘を付いている風にはとても見えなかったけど、彼女の言葉をそのまま鵜呑みにしちゃうと言うのも、愚の骨頂だし。

 などと、自分のすこぶる優秀な頭脳にそこまで計画を立てさせてから、あたしは《龍閃組》に背を向けることにした。
「ここでの用事は済んだことだし、帰りますよ御厨さん」
「あ・・・はい」
「ちょ、ちょっと待てよ榊! 俺たちからはちゃっかり情報を得ておいて、お前らの情報は寄越さずじまいかよ?」
 案の定、蓬莱寺が噛み付いて来る。やっといつも通りだと溜め息を吐きながら、あたしは肩越しに振り返って言い放ってやった。
「そこの骨董屋に聞けばいいでしょ。それ以上の義理なんて、あたしにはないわね。・・・もう1度言っておくけどこれ以上、あたしたちの仕事に割り込んで来ないで頂戴な」
「・・・・・・」

 ・・・だからね。
 今までならここまで言えば「何を偉そうに」だの「権力を傘に着やがって」だのと、散々悪しきざまに罵るであろうあんた(蓬莱寺)が、どうして黙りこくってそんな顔をするのよ? 調子狂っちゃうでしょうが。怒るわけでもなく、嫌うわけでもない、一見悲しそうにも見えなくもない目で見られるのって、あんまり慣れちゃいないのよ、こっちはさ。
「榊さん、少し疲れてらっしゃるようだから、あまり無理はなさらないで下さいね」
「そうだよっ。あたしたちに手伝えることなら、手伝うからさっ」
 ・・・そういう、極めて協力的な態度にも、ね・・・☆

 笹屋の奥に入ってから戻ってくるまでの間、起こったであろうことに考えを巡らせるうちに、1つの結論にたどり着く。
 《龍閃組》のいる笹屋からかなり離れたところで、あたしは静かに口を開いた。
「御厨さん・・・あなた《龍閃組》の連中に、余計なことを話したんじゃないでしょうね? 今回の事件の詳細とか」
「いいえとんでもない! 彼らを介入させたくない榊さんの方針が分かっておりましたし、事件のことは口にしておりません。断じて」
「・・・ってことは『事件以外の余計なことなら』話した、ってことなのかしら」
「・・・・・☆」
 無言は肯定。気まずそうに視線を泳がせる御厨さん。
「ったく・・・あの件は、部外者に話して良い話じゃないでしょうに・・・」
 あたしが頭痛混じりに思わず呟くと、御厨さんの言い訳がましい言葉がぼそぼそ聞こえて来る。
「そうは言っても・・・彼らは榊さんを誤解し過ぎていますよ」

 ・・・うーむ・・・☆

 身内の恥、みたいなことだから詳しくは説明したくはないんだけどさ。
 実は以前ちょっとしたことで、御厨さんがとんでもない濡れ衣を着せられたことがあったのよ。その時彼を助けてあげたのが、他ならぬこのあ・た・し♪
 あたしとしては堅物一方のこの部下が、そんな大それたことなんて出来ないと分かってたし、どうにも理不尽な決定だと思ったから行動を起こしただけなんだけどね。それ以来どーも彼ってば、必要以上に恩義を感じちゃってたみたい。だから《龍閃組》が「よくあんな上役に仕えていられるな」等々に始まるあたしの悪口ばかり言うのを見かねて、ついその時のことを喋っちゃった、ってところなんでしょ。それ以外、あいつらがあたしを見る目を変えた理由に、心当たりなんてないもの。
 ・・・まあ、親切にしてもらったことに対して報いたい、って言うのは人間として当然な心理だし、恩知らずを部下に持った覚えもないんだけど・・・何かこう、こそばゆいと言うか、むず痒くなっちゃうじゃない。ダメなのよあたし、そうやって面と向かって誉められたり、慕われるっていうのが。
 我ながらひねくれてるとは思うけど、生まれ持った性格ですからね。しょうがないんだってば。

「と、とにかく、笹屋の奥方の証言の裏をとりますよ、御厨さん」
 照れ隠しに咳払いをしたあたしに、この朴念仁のはずの部下は、何とも形容しがたい苦笑を漏らしたのだった。
「・・・お供仕ります」

*****************
*今回またもや容量過多のため、二つに分けます。前編が短いけど、キリがいいところで分けたいと思ったせいなので、勘弁してください。



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