つたないことば
pastwill


2003年04月26日(土)  

手に残るかすかな感触
眼の端から消えた残像
確かにここに君はいた
僅かな記憶を手繰る僕に
記憶の中の君は声も出さず
ただそこに居るような
曖昧な幻のようで
僕の記憶をよぎる
確かにここに君はいた
消えた感触も残像も
すべては記憶の中に


2003年04月12日(土)  曇りの日

鉛色の雲が頭上に垂れ込めて、買出しを押し付けられた
僕の足どりはさらに重くなる
風はなまあたたく吹いて春だとは思うけど今はただ
いらいらするだけだった
もうすぐ日暮れだけれど厚い雲に覆われた空はさほど変化も
なく、点っていく商店街の軒先の灯りが日没を思わせる
たまねぎ、にんじん、じゃがいも、今日はカレーみたいだ
サラダに添えるトマトも忘れずに

夕飯が待ち遠しくてうきうきしながら家路を歩く
足どりは軽い
明日は晴れるだろうと根拠のない確信を持ちながら
僕は明日の朝の日差しを夢見た


2003年04月10日(木)  スカーフェイス




俺はまだ未熟者で、アカデミーに通ってるくらいだったから、その時の
異変になんてまったく気づかなかった。

ただ、ああ、いつもと空が違う。
と、だけ思った。

アカデミーの食堂の天井には大きな天窓があって、晴れの日の午後に
なると、眠気を誘う暖かい光が降り注いでいた。
俺のお気に入りの場所。
勉強は嫌いだったけど、この場所で過ごす時間は大好きだった。

俺はそこに放課後もよく来た。
人の出入りが少ないから静かだし、何よりこの大好きな空間を独り占め
してるようで、嬉しくてたまらなかった。

あの日も、俺はそこに居たんだ。
ああ、いつもと空が違う。
そう思いながら。

「イルカ!まだそこにいたのか!?」
「うわっ先生!ごめんなさい、すぐ帰りますっ」

怒られると思って窓から逃げようとしたら、いきなり首根っこを掴れた。
いつもの先生じゃなかった。

「そうじゃないんだ!・・・この里に、化物が近づいてるんだ!!」

―バケモノ?

「先生、何言って・・・」
「いいからこっちへ来い!」

俺を抱えて走る先生の足は速かった。
すごく速くて、
俺はすごく不安になった。

空が違う。
青いけど、真っ青できれいだけど、いつもと違う。
これは何?
心が騒ぐ。
全身総毛立つ。

はるか上の空は赤黒く、淀んでいた。








「四代目、暗部全部隊の配置が完了しました」
「わかった、有難う。指示があるまで待機してくれ」
「はっ」

大人たちのする会話は、もはや呪文だった。
何を言ってるんだ?
出てくる言葉、すべて理解できない。

九尾?
里の危機?

平和に暮らしてた俺にとってありえない言葉だ。
呆然とする俺の頭を母が優しくなでる。

「イルカ、大丈夫よ。私達があなたを守るから」

母の手も声も穏やかで、俺は少し安心した。
母も父も忍者で、しかも上忍だったから、たくさん人を殺めていたはず
なのに、それでも暖かくて、やさしくて、のちに二親の実績を知ったとき
俺は自分の不甲斐なさに散々泣いた。

これからこの二人はどうなるのだろう。
里中に配置されてるアンブって人たちは?
その他の、たくさんの忍たちは。


「カカシ、もしもの時はあの子を頼む」

騒然とする中、透き通るような声が聞こえて消える。
銀髪でお面をつけた、多分自分とそう変わらない少年がこくりと頷く。
頷いた瞬間、もう姿はなかった。
その様子を見ていた俺は、金髪の、四代目火影と目が合った。

その目は

「大丈夫だよ」

そう笑った。

やがて里の様子は一変する。









「イルカせんせーーー!!」

金色の髪の少年が走ってくる。
飛び込むように抱きつく小さな体を俺は受け止める。

あれから12年。
あの事件で父も、母も、たくさんの忍が死んだ。
九尾の狐を封印したという四代目火影も。
俺も傷が残った。
体にも――心にも。

この子は自分の中に九尾の狐が、化け物が眠ってる事を知らない。
だから、里の大人たちが何故自分を冷たい目で見るのか解らない。

いっそこの子を殺してしまえば、
俺もこの子も楽になれるかもしれない。

この子が死ねば、九尾の狐も死ぬのだから。

でももうこの子は知っている。
孤独がどれほど辛いものか知っている。
それは死ぬ事よりも辛い事を。

いつか、この子が真実を知り、そしてこの子がその事によりこの世から
葬り去られようとした時、俺はこの子を救えるだろうか?

「この子は九尾の狐じゃない」と言ってやれるだろうか?

たとえ、俺の力が及ばなくて、この子を助けられなかったとしても、俺は
この子を助けてあげたい。
俺と同じだから。
たとえそれが偽善でも。



顔に残った傷をなでる。
これは戒めだ。
弱い自分への戒め。

それはきっと生涯消えることはないのだろう。





END







02年7月11日より再録


2003年04月09日(水)  雪とカノン





あれから何度か季節が変わって、気がつけばまたあの時と同じ季節になっていた。
窓の外が白い。
木の葉の隠れ里は深く雪に覆われている。

また、冬がやってきた。

僕は下忍の教官という任を解かれ、悠々自適な暮らしを送っていた。
もうだいぶ長い間任務も請け負っていない。
誰も口に出しこそはしないが、明らかに三代目の計らいだった。
皆が無意識のうちに口を閉ざしているあの事件以来、僕は自分が忍者であること
すら忘れてしまったかのようだ。
もしかしたら、実際に僕の忍者登録は抹消されているかもしれない。
僕は完全に忍者としての自身も誇りも無くしていた。





「幻術をかけた・・・・・?自分に?何のためだってばよ!」

「・・・・・・・忘れるためなの?」

「そうじゃ」

「どうにかできねーのかよ、じーちゃん!」

「出来ん。あの術は禁術のひとつ。本人しか解くことは出来んのじゃ。あいつ
自身が自ら解かぬ限り、チャクラが果てるまで解けることはない」

「つまり死ぬまで・・・・・?」

「・・・・・そうじゃ。しかし今すぐ死ぬ事はない。消耗していくチャクラはほんの
僅かじゃ。だが使い続けるならば・・・・・1年が限度じゃろう」

「なんでそんなコト・・・・・辛いのは先生だけじゃねーのに・・・・・・」

「・・・・・誰でもな、一番大事なものはそれぞれ違う。大事にする方法も違う。
それがお前たちとカカシとでは違う。ただそれだけの事じゃよ」

「失うくらいなら、いっそ忘れてしまった方がいいっていうのね」

「そういう奴なんじゃよ、カカシは」

「バカだってばよ、先生・・・・・」

「そうじゃな・・・・・」

「先生、本当に大切だったんだね。サスケくんのこと」







雪はまだ止まない。
窓の外の情景が、あの日の記憶を一つ一つ甦らせる。
こんな雪の深い1年前の冬、僕が担当していた生徒が死んだ。

うちはサスケ。
名門うちは一族の生き残り。
うずまきナルト、春野サクラを含めた僕の初めての生徒だった。

それは任務終了後のことだった。
僕たちはいつも通りDランクの簡単な任務を終え、任務報告書を提出し、それぞれの
家路に着いた。
別れ際、本当にいつも通りに別れて。
生きているサスケを見たのはそれが最後だった。

翌日、雪に半分埋もれるようにサスケは死んでいた。

場所は里を少し離れたところだった。
白い雪の上に血が椿の花びらみたいに落ちていて、サスケの遺体より先にそっちに
目を奪われたことを、今でもはっきり覚えている。
サスケを覆う雪は赤く凍りついていた。
血を雪に吸われた身体は白くて、なまじ綺麗な顔立ちのサスケは余計綺麗に見えた。
外傷は刃物で心臓を一突き。
死因はそれによる多量出血だった。
誰がやったかまでは解らない。
ただ、サスケを恨んでいて殺したのではない、そう思った。
僕は居合わせたナルトとサクラを慰め、サスケを抱えて里へと戻った。

火影様に報告。
同期の下忍の子達にも念のため報告。
そして慰霊碑に名前がひとつ刻まれる。

それだけだった。

サスケの埋葬が済み、僕は自分の部屋に戻り、すっかり凍りついてつくはずもない
サスケの血が服についているのを見たとき、初めてサスケが死んだ事を確信した。

頭の中が真っ白になった。
まるであの雪景色みたいに。

気がつくと僕はベッドに倒れ込んでいた。
窓からは日差しが差し込んでいる。
随分寝入ってしまったようだ。
着たままだった血のついた服を着替える。
その足で僕は火影様のところへ行き、7班担当辞退を申し出た。

それから1年。
僕はすっかり腑抜けていた。
一日中ごろごろしながら本を読んだり、たまに植物の世話をしたりと、そんな風に
毎日を送っていた。
元々金遣いが荒いわけでもなく、働きづめだった暗部時代からの貯えもあったから
生活にはちっとも困っていなかった。
ましてや男の一人暮らし。これでは減るものも減らない。

たまにナルトやサクラが遊びに来ていた。
身の回りのこともたくさん話してくれる。
7班は再編成してまた任務についていること。
新しい仲間のこと。
新しい先生のこと。
本当に色々話してくれた。

ただ、サスケの事以外は。

サスケは野望がある、と初顔合わせしたときに言った。
一族を滅ぼした兄への復讐と、一族の復興。
それが彼をどれだけ苦しめただろう。
たった12歳の子供が背負うにはどちらも重過ぎた。
だからこそ僕は少し安心しているのかもしれない。
血のつながったもの同士が殺し合うなんて。
ましてやどちらも少年だ。
そんなのはいくらなんでも切ないじゃないか。
だけどそれはあくまで人間的な考え。
忍びとしては別だ。
サスケを埋葬した後、彼の遺体はひそかに掘り返され、両眼を刳り抜かれた。
イタチが行方不明になった今、サスケは唯一写輪眼の血継限界の血を持つ者だ。
里としてはあまりにも手痛い損失なんだろう。
刳り抜かれた両眼は火影の元で保管されているらしいが、そう遠くないうちに
有能な忍者を選び、移植するに違いない。
かつて僕がこの左目を手に入れたように。
流石にこの事はナルトやサクラには言えなかった。
尤も里の重要機密なのだけど。
だけどそれよりも僕はあの子達に嫌われてしまうのが怖かった。
残酷だ、薄情だと罵られるのが怖かった。
そんな言葉は嫌というほど聞いてきたはずなのに。
どうやら僕は自分で思っているより忍になりきれていないらしい。
いつのまにかあの子達が本当に大切になっていた。
窓の外を落ちてゆく雪を見て、微かに記憶が過ぎる。
誰かが言った言葉。


『忍も人間だ』
『感情のない道具には なれないのかもな』


ああ。
そうかもな。







午後になってもなかなか雪は止まない。
薄暗くなり始めた頃、玄関のドアがノックされた。

「誰ー?開いてるから入っていいよ」

とは言ったものの、気配で誰かなんてすぐわかった。
案の定、ドアが開いて金色の髪と青い瞳が現れる。
が、いつもの勢いも元気もない。

「どうしたんだあ、ナルト。元気ないぞ」

僕はわざとらしくおどけて見せた。
それでもナルトは下を向いて押し黙ったままだ。

やがて下を向いたままゆっくり話し出した。

「・・・・・・今日で、1年だってばよ」

「・・・・・・・。サスケ、か」

ナルトは小さく頷く。

「もう、いいだろ先生」

「・・・・・・・?何が?」

「とぼけんなってばよ!!」

ベッドに腰掛けていた僕の胸倉を勢いよく掴む。
その手は震えていた。

「先生、このまんまじゃ死んじまうぞ!いいのかよ、これで!」

「ナルト、お前何言っ」

「先生は自分で自分に幻術かけてるんだってばよ!サスケを、サスケのことを
大切にしてたこと、忘れるために!」

「え・・・・・?」

忘れるために?

サスケを大切にしていた事を?

自分で自分に、幻術を?

僕は、忘れている?

「オレ、実は・・・・・誰にも言わなかったけど、先生がサスケの事、抱きしめてたの
見た事あるんだ。先生も、サスケも幸せそうだった。だから!」


「だから・・・このまんまじゃ・・・・・悲しすぎるってばよ」


ナルトはおそらく、泣きそうなのを精一杯我慢してるに違いない。
震える方がそれを物語っている。
何かが僕の中で引っかかっていた。
それがわからなくて、もどかしかった。
僕は忘れている。
いや、僕が僕自身に忘れさせた。
何かとても大切なことを。
「なあ先生。先生、ホントにサスケのこと大切だったんだろ?だったらさ、忘れた
まんまなんて、サスケ可哀相だってばよ。だって、サスケだって先生のこと大切
だったんだ。絶対!なあ、カカシ先生!カカシ先せ・・・ッ!」

ゆらり、とナルトが揺らめく。
当て身をくらって崩れ落ちる身体を抱きとめて床に横たえる。

「ごめんな、ナルト」

窓の外を見る。
そして僕はゆっくりとベッドに体をうずめた。
胸の上で手を組んで、目を瞑る。



「それでも」
「それでも俺は・・・・・」



体の力が抜けていく。
もう目も開けられない。
外が雪のせいか町のざわめきも聞こえない。
静かだ。
静かで、真っ白だった。

ふとそこに誰かいるような気がした。
手を伸ばして探ろうにも、手は動かない。
そっとその手が握られた。
幼い、小さな手だ。
ナルト?と、掠れた声が出た。
でも返事はない。
僕は少し笑って、じゃあサクラか?とまた掠れた声で言った。
それでも返事は返ってこない。

「・・・・・サスケか?」

多分今のは声にもなってない。
もちろん返事もない。
それでも僕はうわ言のように呟く。

「ごめん。サスケ、ごめん。ごめんね」

忘れてしまったこと、許してくれなんて言わないよ。
それが僕に出来る弱い自分を守るための、お前への想いを守るための、
精一杯の手段だったんだ。
だから、



「ごめん」

「それでも、本当に君が大好きだったんだ」


たぶん雪はまだ止んでないのだろう。
里はますます深い雪に閉ざされてゆく。
薄れる意識の中、懐かしい声を聞いたような気がした。





「バーカ。この、ウスラトンカチ」












END







02年8月21日より再録


2003年04月08日(火)  白煙



It will return there some day.







白煙








それは里の外れからのろのろと立ち上っていた。
あそこは確か火葬場だったはず。
誰か火葬されてるんだろう。
だったらそれは忍の者ではなく一般人のはずだ。
忍者は火葬場でご丁寧に火葬されたりなんかしないのだから。
今日は無風だ。
薄汚れた長い煙突から這い出す白煙は真っ直ぐ空へと伸びている。
人の心はああやって空にかえってゆく。
人の体は灰となって土にかえってゆく。
自然に浸透する人の心も体も、それはその人が生きていた証だ。
やがて消えてしまう果敢無い証。
僕もそれを持っているはずだ。
里長に従い、体の自由を捨てても、心は捨てられない。
だけど僕はそこに逃げていた。
わかってるんだ。
人を殺すとき、
任務失敗のとき、
僕は、
忍であることに、
人であることに、
言い訳しながら、目を逸らしながら、耳を塞ぎながら、自分の弱い心を守ってた。
とんだ自己防衛能力だ。
僕は里のためだとか、仲間のためだとか、正義ぶった口実を盾に自分の身を
守ってるに過ぎない。
滑稽過ぎて笑える。
はは。
火葬場の煙突から上がる白煙が妙にイラつく。
嫌だ、
見たくない、
なんで真っ直ぐ立ち上ってんだよ、
風吹いてくれよ、
頼むから、
早く、
何で目、逸らせないんだよ、
空へなんて、かえりたくない、
土になんて、かえりたくない、
僕は僕なのに、
僕以外にはなれないのに、
それでもいつか自然に融けてしまうのだろう。



僕はとても優秀な忍者ですよ。
里長の命令にも忠実に従いますし、
写輪眼の使い手としても、他にこれほどの者はいないでしょう?
だから、ほらいなくなったら困るでしょ?
ねえ、
だから、
ミステナイデヨ、




白煙は徐々に細くなってゆく。
心はもう空へ吸収されたに違いない。
あの火葬された人は、これから手厚く葬られて、墓石とか立ててもらって、土の中で
いい夢見ながら融けてゆくのかな。
いいねえ。
僕ら忍なんか、戦地で死んだら死体ほったらかしよ?
無様な死に様晒して、誰にも弔ってもらうこともなく、泣いてもらうこともなく、どろどろ
土に返ってゆくのよ?
心も空にかえれないまま。
そんで里じゃああいつは英雄だーとか言って慰霊碑に名前だけ彫ってくれたりしてね。
はは、有り得る。
僕らの存在価値なんてそんなもんだよね。
僕らの?
僕は?
僕の存在価値は?
僕はなんで生きてるの?
僕自身の価値なんて雀の涙じゃないか。
必要なのは、
エリートの、
上忍の、
写輪眼の、
コピー忍者の、
べたべた肩書のついたはたけカカシじゃないか。
僕は、
僕は、
ボクハ、



俺は木の葉でも優秀なうちは一族の末裔です。
忍術も体術も誰にも負けません。
写輪眼も使えます。
でも俺には野望があります。
兄貴を殺すことです。
一族の復興も、もういいんです。
だから、
お願いします、
オイカケサセテ、




どれくらいぼんやりしてたんだろう、気がつけば太陽が真上にあった。
今日は任務の日なのになあ。
また大遅刻だ、あはは。
あいつら怒るだろうなあ、ナルトサクラなんか特に。
サスケは、フン、とかいうだけに決まってる。
任務の集合の時も、それ以外の待ち合わせの時も、
どんなに遅刻してきてもそれ以外の反応を見せたことがなかった。
ただ、そりゃあ任務の時はしょうがないけど、それ以外の待ち合わせの時、あいつは
何時間待たされようと帰ろうとしなかった。
一度、どれだけ待ってくれるのか試したことがある。
悪気より好奇心のほうが勝った。
そしたらあいつ、次の日の朝まで待ってたんだ。バカじゃないの。
そんな事されたら、いくらなんでもばつが悪い。
僕は急に任務入っちゃって、なんてその場しのぎの言い訳で乗り切ったんだった。
サスケはそれを間に受けたのか、それとも判ってて納得したのか、遅ェよバカって、
それだけしか言わなかった。
サスケのそういう優しさの中にも僕は逃げていた。
忍者としてのはたけカカシ以外の、ただのはたけカカシを見出そうとした。
服従すること以外の生きる意味を見出そうとした。
結局、これまでの間それらを見つけ出すことはできなかった。
それどころかあいつを見ていると自分と同じように見えてきて、尚更自分の存在意義を
追求するようになった。
君と出会ったのは間違いだったのかもしれないね。
僕たちはお互いの中に生きる意味を求め、依存し合い、足を引っ張り合い、挙句の果てに
自分自身をなくそうとしている。
なんで僕たちは出会ったんだろう。
こんな事ならいっそのこと、
出会わなければよかった。



何のための僕なんですか。
どうせいつか、普通の人と同じように消えてゆくのに。
ねえ、何のための、
僕は、
僕はどうして生まれてきたの?
ドウシテ、




今日の任務は簡単だったから、3時間半遅刻しても余裕で夕方近くには完了した。
例によってナルトがサスケにカバーされたのが気に入らなかったらしく、ギャアギャア
騒いで、そっちの始末のほうが大変だった。
解散してから僕は、久しぶりに慰霊碑のところへ行った。
相変わらず人気がない。
英雄の墓なのにね。
僕は慰霊碑の傍らに腰を下ろして、煙草を吸い始めた。
ふう、と吐き出した白い煙が一瞬空へ上りかけてすぐに消えた。
あの火葬場の煙を思い出す。
火葬されて、煙になって空へかえれるのなら、煙草吸ってからだの中から煙吐いて、
これは心燃やして出る煙で、ああこのまま吸ってれば空にかえれるかも、だから
体に悪いのか、なんて馬鹿なことを考えてみる。
ホント馬鹿みたいだ。
煙草を口から離した瞬間、チッという音ともに煙草の火がついた部分が落ちた。
飛んできたのはクナイだった。
「ナイスコントロール〜」
僕はわざと茶化すように言った。
クナイを投げた張本人は案の定不機嫌そうにうるせえ、と言い捨てた。
「ったく、なんてことすんの〜?本数残り少ないのに」
僕は先っぽを切られて短くなった煙草を投げ捨てて、足元でくすぶってる火をぐりぐりと
踏み消す。
白い煙が名残惜しそうに、一筋だけ上ってゆくのを見たような気がした。
「その煙、嫌いだ」
突如サスケが切り出す。
「そりゃあお子様には慣れないモンだからね」
僕はわざと逆なでする。
「とにかく嫌いだ」
サスケはその理由を話そうとはしなかった。
「お前が嫌いでも俺には関係ないよ」
もう一本煙草を取り出す。
「やめろ」
「やだって」
「いいから」
「何なのよ」
「吸うな」
サスケは何かに怯えていた。
それは多分、僕が頭の中で思い描いた馬鹿なこと。
ああまただ。
本当に君はどうしてそう、僕と同調するの。
嫌だ、
やめてよ、
僕の中に依存するな、
嫌だ、
空へ、


「カカシ」


どうか僕をここにとどめてくれるな。
忍として生きることを選んだときから、人として死ぬことは放棄したんだ。
だけど人として生きた証は放棄してなかった。
僕もそれを持っていたよ。
君が教えたんだ、サスケ。
空へなんて、かえりたくない、
土になんて、かえりたくない、
僕は僕なのに、
僕以外にはなれないのに、


それでも空へかえることを願わずにはいられない。






END







02年3月20日より再録


2003年04月07日(月)  Heaven


Heaven where you do not exist.
Hell where you exist.








Heaven






空は鉛色で薄く張り巡らされた雲からは鈍い光が漏れている。
消毒液の匂いがする君の部屋にも、薄っぺらなカーテンを通して鈍い光が溢れていた。
明瞭なようで曖昧な、白いようなセピア色のような、不思議な光だった。
もしかしたら天国って綺麗な川があってお花畑があってなんてとこじゃなくて、こんな
光に覆われた苦しいも悲しいも憎いもない、何にもない世界なんじゃないかと思った。
そんな印象を持った薄暗い部屋に浮かび上がるものは生活する上で必要最低限のもの
しかなくて、それだけで君の性格をよく表してる。
多分この部屋で一番目立つのは窓際のベッド。
真っ白なシーツ、掛け布団、枕。
それのそこかしらに点々と赤い斑点ができていた。
これは君の血だ。
うちはサスケの血だ。
このベッドで僕は君を殴って犯した。
衝動的な暴行、無意味な性交。
こんなことしても得られるのは満足感でもなんでもない。
虚しさと苛立ちと幽かな後悔だ。
僕は君を放っときっぱなしにして台所で中途半端に閉められた蛇口から垂れる水滴を眺め
ながらぼんやりと椅子に座っていた。
目の前のテーブルには少しだけ水の入ったガラスのコップと正体不明の錠剤。
これは僕のじゃなくて君の。恐らく痛み止め。多分傷の。
その君はまだベッドの上でぐったりしている。
君を殴りつけてベッドに押し倒したとき、僕は君にキスもしなかったね。
だっておかしいでしょ。
キスするってことは少なからず好意があるってことだろうしさ。
僕は君が大嫌いなんだよ。
スカしてて生意気で子供らしくなくて、何でも判ってる風で、君のこと見てると
なんだかどうしようもなくイライラする。
だから君のこと強姦したんだっけ?
なんかもうそうした動機も思い出せない。
覚えてるのは、僕が君をなぶってる間、少しも抵抗しなかったことだけだった。

寝室に戻る。
相変わらず君は生きてんだか死んでんだかわからないくらいぐったり寝てた。

口の端から血の流れた痕があった。
これは僕が殴ったときに出来たやつだ。
それはすでにばりばりに乾いててきっと洗って落とすの大変だろうなあと、変な
満足感に満たされた。
ああ思い出した。
君と波の国でのこと話してたんだっけ。
君が死んだの俺のせいだねっていったら、死んでないし、あれは仕方なかったって
言ってくれたんだっけ。
そしたら急にむかむかして来たんだよね、確か。
だってそれって、僕に君を守るほどの力もないって言ってるようなもんじゃない。
まあ、実際守れなかったんだからそう言われてもしょうがないけど、なんかムカつく。
それに守りたいと思ったのは本当なんだ。
なのに君が最初から諦めてたみたいに言うから、僕は頭にきて、それで君を強姦
したんだった。
好きだから?
愛してるから?
そんな気持ちは寸分も込められていないことは一目瞭然の行為だった。
ただひたすら確認していた。
うちはサスケの生存を。
どうしてそういうことになったのかな。
確認する気なら他にいくらでもやりようがあったはずじゃないか。
馬鹿じゃないの僕。
こんなガキ犯して気持ちいいわけないのに。
ああ馬鹿だなあ。
君も馬鹿だ。
何で大人しくしてたの。
抵抗すれば止めたかもしれないんだよ?
それとも最初から無理だと思ったのかな。僕から逃げるの。
だとしたら君は大馬鹿だ。
初めから悟りきっちゃって諦めてさ。
本当に馬鹿だ。馬鹿馬鹿。
君の兄貴も馬鹿だね。よりによって君を残すなんて。
僕に写輪眼をくれたあいつも馬鹿。なんで僕になんかくれたのよ。
うちは一族ってみんな馬鹿なのか?
ああ馬鹿ばっかりだ。
そんなことうだうだ考えてたら、ふと聞こえてきた君の安らかな寝息が急に腹立たしく
なって、2・3発頬をぶってみた。
う、と小さく呻いて君が目を覚ます。
ぼんやりとベッドの横に突っ立ってる僕を見て僅かに怯えた目をした。
もう何もしないよ、と僕は一応フォローする。
君は起き上がってベッドから降りようとして素っ裸な事に気づいて慌ててベッドへ
戻った。途端、見る見る顔が赤くなって布団に顔をうずめた。
その動作はやっぱり子供で、なあんだこいつもやっぱ子供なんだなあって思って
君を無理やり犯したときの苛立ちが嘘みたいに萎えていった。
急に君の顔が見たくなった。
サスケ、顔見せてって布団に手をかける。
でも君はなかなか布団から顔を上げようとしなくて、面倒になったから力ずくで布団を
引っぺがした。引っぺがした勢いで布団がベッドから滑り落ちて、図らずとも君の裸が
さらけ出された。傷だらけだった。
君は恥ずかしくて両手で顔を覆い隠した。
僕は君の顔が見たいんだよ、それじゃ意味ないでしょって思って、両手首掴んで引き
剥がす。君の手首が思ったより細くて僕の片手に収まったもんだから少し驚いた。
そういえば君の腕も腰も足も細くてやっぱり子供のそれだった。
君の顔が鼻先が触れ合うくらいの位置にある。
僕は何か言おうとした君の唇を唇でふさいだ。
君が口の中で何か云ってる。
訊きたくないから舌を入れる。
君の肩がびくりと揺れて、閉じた瞼は余計硬く閉ざされた。
唇を離す。舌を瞼に這わせる。
頬、首、胸、腹、足。
君の体の傷を一つ一つ確認するみたいに這わせる。
治りきってない傷ばかりだから、血の味がした。消毒液の匂いもした。
君の部屋が消毒液くさいのは君がよく怪我するせいなんだと妙に納得した。
僕が舌を這わせてる間、君は小刻みに震えてその気が狂いそうな感覚に耐えていた。
最後にもう一度キスして君から唇を離した。
「な、んで」
震える声でいっぱいいっぱいになりながら声を押し出す。今度はふさごうとはしなかった。
「あんなこと、したんだよ」
「オレ、オレは」
「ア、アンタのこと」

スキナノニ

またキスする。
訊きたくないよ、そんなの。
僕は君なんか好きになりたくないんだ。
固執するもの作ったら、捨てるものも捨てられなくなるじゃないか。
君を守りたいのは本当なんだよ。
そのためなら多分死んでもいいって思う。
その時まで死にたくないんだ。
君を好きになってそれが原因で君を守ることもできずに死ぬのはきっと堪えられない。
なんて、とんでもなくマイナス思考。
それでも死んでも君を守るために生きていたいんだよ。
矛盾なんてクソ食らえだ。
だからその言葉を訊きたくないんだ。
訊いたら決意とかポリシーとかそんなもん全部吹っ飛んで、君を好きになってしまう。
そんなのは嫌だ。
君は相変わらず口の中でもごもご云ってる。
さすがに苛立って唇離した瞬間、頬を殴った。
さっきの口の端の傷がまた開いて血が飛び散った。
それが白いシーツに叩きつけられて赤い染みをつくる様があまりにも綺麗で儚くて
僕は見蕩れた。



タンスの前でシャワーを浴びてきた君がもそもそと着替えている。
僕は見るとはなしにその光景を眼の端に映していた。
細い首、腰、足。
服から覗く君の体はなんべん見てもやっぱり子供のものだ。
僕が君を守りたいのは何でなんだろう。
大人が子供を守るのは当たり前のことだから?
教師と生徒だから?
どっちも違ってる気がする。
それってやっぱり。
・・・・・考えるの、やめた。
カーテンから溢れていた光はいつのまにか消えて、強烈なほどのオレンジの光を
通していた。
その先には君がいる。
なんだか燃えてるみたいだ。
眼が痛い。左目が疼く。
この光は僕には強すぎる。
あの曖昧な光が恋しくなる。
「ねえサスケさあ」
「なんだよ」
「天国ってどんなとこだと思う?」
「はあ?」
何馬鹿なこと言ってんだコイツって顔してる。
ホント何言ってんだろ。でも聞いてみたくなったんだ。
「おまえは見たことあるんじゃないかなーと思ってさ。ホラ波の国で」
あ、目ェそらされた。
やっぱり波の国の話題は避けたいらしい。
そりゃああんなことされた後じゃしょうがないかもしれないけど。
こっち見ろとか言ってやろうかと思ってたら、ぼそぼそ君が話し出した。
「何も見てねーよ。いや、何も見えなかった。…何も聞こえなかった」
「色に表すと?」
君はへ?って顔した。それでちょっと考える。
「白、だったかな…いや、もっとこう…」
「セピア色っぽい感じ」
「ああそれだ」
あはははと僕は笑った。君は何がおかしいって食って掛かる。
「サスケそれ、絶対天国だって。うん、絶対そうだよ」
「なんでわかんだよ」
「何でも何もそうなんだって」
笑う僕を複雑な顔で見ている君が小気味よくて余計おかしくなってきた。
ねえ、僕と君はおかしなところでシンクロしてるね。
僕たち死んだらきっとそういうとこにいくのかな。
あの時、波の国で二人、死んでたら同じとこいけたのかな。
あ、でも僕は天国にはいけないかも。人、殺しすぎだもん。地獄行き決定だね。
じゃあ地獄ってどんなとこだろう。
血の池地獄とか針の山とか本当にあったりして。そんなわけないか。
多分こっちも何もない世界。苦しい悲しい感じない、見えない聞こえない世界。
違うのは色。対照的な漆黒。
だとしたらそれほど怖いものないなあ。人は闇をおそれるって言うし。
実際怖い。任務のときもいまだに僕は闇を恐れる。
ねえ、今からがんばったら天国にいけるのかな。
死んでも君と一緒にいられるのかな。大嫌いな君と一緒に。
君のいる天国。
君のいない地獄。
僕にとってどっちが地獄なんだろう?
でももし君と同じとこにいけたとしても、何も見えないし感じないんじゃ話にならない。
死んでしまったらそれまでだ。
君を殴ることも、犯すことも、抱きしめることも。
君と修行することも、手をつなぐことも。
君にキスすることも。
何もできなくなっちゃうんだなあ。
どっちも地獄だ。
天国も地獄も、どっちの存在も生者が死への恐怖を紛らわすための言い訳だ。
死んだら「お終い」だ。本当に。
なんて恐ろしいことなんだろう。
ベッドに座ってむっつり考え込んでる僕の隣に君は腰を下ろす。
もうさっきみたいになんでこんなことしたんだとか聞かないんだね。
そんなこと聞かれても、むかついたからってくらいしか言えないけど。
君はいつもスカしてて生意気で子供らしくなくて、何でも判ってる風でむかつくけど
本当は誰よりも子供っぽくて素直で泣き虫で、やさしい弱い子なのかもしれない。
イタチはなんでそんな子をわざわざ生かしたんだろう。
好きだったのかなあ。もしかして殺す価値もないって?
ああ、もしかしたら。
自分を止めてほしかったのかもしれない。
君を犯してたときの僕みたいに。
だったらイタチ、今のサスケの状態はあんたの狙いどおりだ。良かったね。
でも行かせない。
この里を抜けさせたりしない。
大嫌いだけど渡さない。
もう守るって決めたんだ。
「ねえサスケ」
「ん」
「どこにも行かないでね」
「なんだよ急に」
「今度こそちゃんと守るから」
「カカシ」
「行くな」
君を繋ぎ止めたい。
君を抱きしめたい。
君を感じたい。
君を守りたい。
それが僕の勝手なエゴでも。


君のいる世界こそ天国。







END







02年2月18日より再録


2003年04月06日(日)  真夜中のラプソディー




風の音、
木々の音、
君の声。





真夜中のラプソディー






ガタガタ ガタガタ
ざわざわ ざわざわ

風で窓ががたついてる。
木々も揺れている。
君はその音で目を覚ました。

「・・・・・・アンタ、まだ起きてんのかよ」

目をこすりながら起き上がるなり僕をにらむ。
ああ、眠いからちゃんと開けらんないだけか。

「んー、そうだよ。本読んでんの。ホラ、イチャパラの新刊」

そう言って見せようとしたら、思い切りそっぽ向かれた。
再び振り返るなり、君は悪態をつく。
ま、いつものことだけどさ。

「夜遅くまでそんなモン読んでるから、朝起きらんねーんだろ。もう寝ろよ」
「えーだってお前、まだ1時過ぎだよ?ああ、お子様にはわかんないか」

ガキ扱いすんなって言いながら振り上げた拳をパシッと受けて、そのまま
腕を引っ張って抱きしめた。
嫌がるだろうなと思ったけど、案外おとなしいのでもっと力を込めてみた。

「いてえよバカ力」
「またまたー、嬉しいくせに」

理由もわからずぎゅうぎゅう抱きしめて。
僕は今、この子の存在を確かめているような気がした。
ここにいるのが確かなことを信じていたいのだ。



この子は一度死んだ。
僕は守るといったのに守れなかった。
この子を救ったのはあの少年の優しさだった。
僕は偽善者だ。
口先だけの人間だ。
守る力もないくせに、優しくて残酷な嘘を平気でつくのだ。
それなのに君はまだ僕のそばにいてくれる。
あれは仕方なかった、そう言ってくれる。
それでもその言葉ほど惨めで非力な気分にさせるものはなくて、
無性にイライラして腹立たしくて、僕は君を殴った。
君の軽い体は思いのほか簡単にふっ飛んで、
口の中が切れたのだろう、血が飛び散った。
僕はその時のことをそれ以上覚えていなかった。
ただひとつ、脳裏に焼きついた幽かな記憶。
僕はきっと君を心の中から消し去りたいと思っていた。




ガタン
ひときわ大きく窓が揺れて、腕の中の君はびくりと動いた。
同時に僕もびくりとした。
気づかれなかったみたい、大丈夫。

「何、今の怖かった?」

自分のこと棚に上げて君のことをくすくす笑った。
君は言い返さないし顔も見えないけど、多分怖いのは本当だったから、
指摘されて赤くなっているはずだ。
それで僕はちょっと嬉しくなった。

僕は窓から、ざざあと音を立てて揺れる木々を見た。
この国もやがて大きく揺れるだろう。
この子の首に残された呪印が何よりの証拠だ。
僕はそのとき、この子を守りきることはできない気がする。
最後まで守ることなんてできないんだ。結局のところ。
それでも僕は、
僕は、




死んでも、君を守る




ガタガタ ガタガタ
ざわざわ ざわざわ

風は一向にやまない。
君はよっぽど眠いのか、身体から力が抜けている。

「早く寝ろバカ」

そう言って間もなく、寝息をたて始めた。
横たわらせてやろうかと思ったけど、あったかいからそのまま抱きしめてる
ことにした。
腕の中で確かな呼吸。
当たり前のことがとてもれしい。



風の音、
木々の音、
君の呼吸。


確かな、
とても確かな。







END







02年1月5日より再録


2003年04月05日(土)  Are you happy?




「・・・ハ――」


溜め込んでいた空気を一気に吐きだして天を仰ぐ。
空にはそこだけ穴が開いたように、ぽっかりと白い月が浮いていた。


「ホワイトクリスマスになんなかったねえ」

ハハ、と笑みがこぼれた。



今日は聖夜。
雪が降ることを望んだ人達にとっては、この見事なまでに晴れた
夜空はさぞかし皮肉なものだろう。
しかし任務を与えられていたカカシにとっては好都合である。

(雪なんて降ったら寒くてやだからねー)

それでも吐く息は白く、空気は鋭く冴えている。
天気が悪ければ間違いなく雪だとわかる。

「うー寒」

ハア、と手に息を吐きかける。
白い息はすぐに闇に消え、血まみれの自分の手だけが残った。

「・・・ハハ、聖夜ねえ」

じゃあ、この目の前の光景は何?

どうして人間が転がってるの?

何故僕は血だらけなの?


「ハア・・・」

カカシは暗闇に溶ける吐息をぼんやりと眺めた。







「っくしッ!・・・・・・・はー」

ぶるっと身震いをする。
長い時間冷気にさらされた体はすっかり冷えきっていた。

(何か食って、あったかくして早く寝よう)

そういえば、初めて人を殺した時はすぐ何か食ったりなんて出来
なかったっけ。

夜も眠れなくて。

でも任務をこなす度に、人を殺す度にそれはなくなった。

例え里の指令であっても、自分の手を血で汚したことを後悔した
ことはない。

それでも事あるごとに自分の中で何かを失ってくようで、それは
少しやりきれなかった。


カンカンと金属音をたてながらアパートの錆びついた階段を上る。
さびてざらついた手すりを握って、今日も無事帰って来たことを
今更ながら実感した。

(ん?)

人の気配が三つ、いや四つ?

(刺客・・・じゃないか)

殺気はない。


「あっ、帰って来た!!」

「遅ェ」

「カカシ先生お帰りー!!」

「カカシ先生、ご無事でしたか!」


わっと歓声があがる。
見慣れた面々が一斉にカカシに駆け寄ってきた。

「君ら、こんな夜遅くに人ン家の前で、何してんの?」
「何言ってんだってばよ、今日クリスマス・イヴじゃん!」
「そうだけど・・・」
「だから皆で過ごそうと思って、ここで待ってたのよ。でも」
「予定の時刻になっても戻らないから、何かあったのかと
心配してたんですよ」

サクラとイルカが経緯を話し終えると、そうなんだってばよ、と
ナルトが付け足した。

「・・・・・・・っていうか、君達さ」


僕が死んで帰って来ないのかも、とか思わなかったの?

もし僕がここに帰ってこなかったら、どうするつもりだったの?


「俺がここに明日になっても帰ってこなかったら、どうするつもり
だったんだ?」

無意識に口を突いて出た問いに、再びナルトが真っ先に答えた。

「もっちろん待つってばよ!」
「テメーのおかげで待たされんのは慣れてんだよ」
「そうよねー、サスケくん」

ナルトに次いでサスケとサクラも答えた。
それを見てイルカはにっこりと笑う。

「カカシ先生、あなたが生きて帰ることを信じなかった事は一度
もありませんよ。俺も、この子達もね」

「――――・・・」


僕は命懸けの任務に就く時は、いつも何もかも捨てるつもりで
家を出るというのに。

それでも信じて帰りを待っていると?


(敵わないなア)


自分にはない強さを持っているナルト達が、カカシにはとても
かけがえなく思えた。


(そうだね)


君達が信じて待っていてくれるなら、僕はここに帰ってこよう。

ここに帰るつもりで家を出よう。

たとえどんなに手を血で染めても、必ず生きて帰ろう。

だってせっかくこんなあったかい居場所があるんだから。


空は変わらず白い月が浮いている。
カカシは冬の長夜に感謝した。



「幸せだなあ」






END







01年12月15日より再録


2003年04月04日(金)  うたかた




任務のない日の昼下がり、僕は忍者ア力デミーにある図書館で
のんびりと本を読んでいた。
当然、手の中にある本は図書館のものではない。

(ヒマだなー)

心の中でぼやいて読んでいたイチャイチャパラダイスを放り出した。
図書館の中に僕以外の人影はない。
ひと眠りさせてもらおう。

そう思って目を閉じた時、ふいに人の気配がした。

扉が開いた様子はない。
奥の方の窓が開いてたからそこから入ったのだろう。
(さすが忍者の学校)
そんな事を考えながらゆっくりと気配の感じる方へ近づく。その先
にはすっかり見慣れた少年の姿があった。
「やあサスケ君」
「うわッ!」
僕の突然の出現によほど驚いたのか、サスケは持っていた本を
バサリと落とした。
「カッカカシ!?アンタいつからっ」
「ん〜?お前が忍び込んで来るずっと前からいたよ」
あせるサスケから落とした本に視線を移す。
開かれたページは一面真っ青の海の絵だった。
「海かあ。サスケ、海見たいの?」
サスケはちょっと赤くなりながら、前に波の国に行った時は見ただけ
だから、と消えそうな声で途切れ途切れ言った。
僕はその言葉の真相を知って、内心にやけた。
いや、本当ににやけたのかもしれない。
サスケが顔をしかめている。僕は構わず話を進めた。
「何、サスケ、海に行きたいんだ?よし、行こう!今すぐ行こう!!」

僕は返事を待たずにサスケを抱えて窓から飛び出した。









「すごいなー、見てよサスケ。ちゃんと水平線が丸いだろ〜」
はるか遠くを指差す僕を見て、どっちが子供だか、と溜め息をつく。
それでも海水に足を浸す姿はどことなくうきうきしてるように見えた。

僕は里を離れる時、秘そかに忍犬を使って三代目火影に海へ行く
ことを告げた。三代目が忍犬に持たせた手紙には「時期に忙がしくなる
から早く帰って来い」とだけ書き記してあった。
この波の国での任務の事もあったから気を利かせてくれたのかも
しれない。
実際千本が刺さったサスケの首は未だ包帯が取れないでいる。

波の国に着いてすぐ、僕とサスケはこっそりと墓参りをした。
もちろん僕達と戦い、そして死んでいった再不斬と白という子のだ。
あの二人は最期までずっと一緒だった。
きっとこれからも。
僕はふと二人がうらやましくなった。



隣りでパシャパシャと水を蹴るサスケを見る。
僕達は一体どれだけの時間を共有できるだろう。
あの二人みたいに永遠に一緒というのはあり得ない。
サスケはいずれ里を出るに違いないのだ。
兄を探すために。

思うにサスケは最初から復讐しようなんて思っていない。兄を探し
出して一族惨殺の真意を知りたいだけなのだろう。本気で兄を殺した
がってるようには見えなかった。

でもそんなのは単なる僕の推測だ。
僕はサスケの心の中がまるでわからない。
こんなに近くにいるのに。
あの波の間に間に浮かぶ泡沫のようにつかみどころがなかった。
そしていつか僕の手をすり抜けて消えてしまうんだ。

僕は遠くを見つめる。
空の青と海の青が滲んでその境界線は曖昧だった。
なんとなく僕とサスケみたいだと思う。
空も海も同じ色だけど決して交わることはないのだ。
だから僕達と似てる。
同質だけど混ざる事はない。
そう思い至って涙が溢れそうになった。



「ねえサスケ、手、つなごう!」
「はあ?いやだって・・・あ、おい!」
「大丈夫だって、誰もいないよ」
そう言いくるめて強引に手をつないだ。
あたたかな、子供特有の体温。
はなしたくない。この手を。



僕はずっとこの子をつなぎ止めていたかった。






END






01年10月5日より再録


2003年04月03日(木)  ホタル





「ハイお疲れ〜。でももうちょっと早く行動できると良かったかなァ?」

ホラもうこんなに暗い。

愛読書を片手にのんびりと木にもたれる呑気な上司は、そう言って空を見上げた。

「そんなコト言うなら先生も手伝えってばよ!」

座り込んでる自分も含めた3人分の抗議としてナルトが大声を張り上げる。
「だって俺が手伝ったら意味ないでショ。これはお前らを鍛えるためにだな…」
「ハイ、嘘!!」
空かさずサクラが突っ込みを入れる。
その隣りではサスケがフンとそっぽを向いた。

今日の任務は畑を荒す猪退治。

一見地味で大した事ではなさそうな任務だが、これがとんだ重労働だった。

標的の猪は普通よりかなり足が速かった。
しかもこれまた普通より凶暴で畑周辺の地理をナルト達以上に把握している。

追って追われて、どつきどつかれ、やっとの思いで捕獲したのは日もとっぷり
暮れたつい先程の事だ。

当然その間、上司であるカカシは手助けもせず(楽しそうに)ナルト達を眺めて
いるだけだった。


「ところで先生、その猪どうするの?」
カカシの前に横たわる事切れた猪をサクラは見つめる。
「ああコレ?依頼主に引き渡す事になってる。コイツの肉は大事な食糧になり
毛皮は貴重な売り物になる。ま!これも自然の摂理だな」
カカシは手にしていた本を閉じ、猪の側でしゃがんだ。
「俺達はね、こうやって色んな動物から命をもらって生きてるんだ」
と言ってカカシはポンポンと猪を叩いた。
(そりゃ捕食者の言い分だな)
サスケはそっぽ向きながら思う。
弱い者は強い者の糧となる。
それは人間同士でも同じ事で。
「さ、帰るぞ〜。あ、サスケとナルトは猪お願いね」
サスケの心中などお構いなしに言い付け、さっさと歩き出す。
ナルトとサスケは一様にウンザリした表情を浮かべた。



猪を依頼主に引渡し、ナルト達は漸く家路に着いた。
真っ暗な夜道を4人揃って歩く。
時折吹く風が疲れた体に心地よい。

「あ〜ッ!!」

静寂が突然破られ、ナルトの声が響き渡った。
「何よナルト、うるさいわねえ」
だってさ、だってさ!と騒ぐナルトをサクラが睨む。
「あれってばホタルじゃねえ!?」
その目線の先には淡い黄緑色の光が飛び交っていた。
直線を描いたり、或いは円を描いたり。
様々な軌道を残しながら淡い光は暗闇の中で無数に増えていった。
「わあ、キレイ!すごいわね、サスケくん」
「…そうだな」
黒い瞳にもしっかりと光は映し出されている。
「なあ先生!なんでホタルって光るんだってばよ?」
ナルトがホタルを追い掛けながら問うた。
「ん〜…そうだなあ」
カカシは少し間を置いて話し出した。
「ホタルはね。夜にしか行動出来ないんだ。でも体の色、真っ黒でしょ?
夜は真っ暗。体は真っ黒。だから光るんだよ。自分はここにいる、ってね」
どんな暗闇からでも見つけてもらえるように。
闇に、溶けないように。
「ふ〜〜ん…」
ナルトは感心の声を上げる。が。
「…そうだったらいいよね」
とカカシは付け加えた。
なんだよウソかよ〜、と頬を膨らますナルトを見てカカシは僅かに顔が緩む。
そんな他愛のない会話をしている間にも、蛍は舞う。
ココニイルヨ、とでも言うかのように。

四人はなおも蛍に魅入る。

辺りを静寂が支配する。

「お前達」

カカシの声が低く響いた。

「強くなりなさい」

どんな時も自分でいられるように。



心が、闇に溶けないように。






END






01年7月29日より再録


2003年04月02日(水)  スキヤキビヨリ

ああやっぱり降って来た。
再不斬さん、早く帰らないと濡れますよ。
今日はあったかいものが食べたいですね。
うん、お鍋にしましょう。
スキヤキでいいですか?




スキヤキビヨリ





あ、再不斬さん、そこの白菜取ってください。あとそのシラタキも。
そうそうそれです。有り難う御座います。
ねえ再不斬さん。
…何でもないですけど。
やだなァ、そんなに睨まないでくださいよ。
名前を呼べる相手が居るって事が嬉しいだけなんですから。
名前と言えば、再不斬さんに話しましたっけ?
僕の名前の由来。
あれ、話してませんでしたっけ。
それならお話しますよ…と。
鍋の用意が出来ましたから食べながら話ましょう。



随分本格的に降ってきましたね、雪。
霧の国に居た頃を思い出します。
僕の名前はこの雪に因んで付けられたんです。
「雪のように真っ白で純粋な人間になりますように」って。
純粋に育ってるかどうかは解らないけど、気に入ってるんです、この名前。
あ、ダメですよ再不斬さん、お肉ばかり食べちゃ。
野菜も食べないと強くなれませんよ?
ふふ、そうですよね。
十分強いですよ、再不斬さんは。
それで話は戻りますけど。
好きなんです。自分の名前。
何でって…雪が好きだからですよ。
え?
だって雪って降り積もるでしょう?
積もって地面が見えなくなって、何もかも覆い尽くして。

そして真っ白になる。
全部隠してくれる。

そうやって自分のした事も覆い隠してくれるようで。
今まで自分がして来た事を悔やんでるつもりはないんです。
人を殺したり、裏切ったり。
それは自分の意志だったから。
でもやっぱり。
あ、やっぱり何でもないです。
何でもないですってば!もう…

ねえ再不斬さん。

美味しいですか?スキヤキ。
フフ、そうですか。
有り難う御座います。

ねえ再不斬さん。

あ、今ちょっとウザイとか思ったでしょ?
もう睨まないでくださいってば。
僕、再不斬さんと一緒に「仕事」してる時、いつも思い出す事があるんです。

違いますよ。
再不斬さんと初めて会った時じゃないんです。

それは決まって普通の事なんです。
再不斬さんと一緒に泥まみれになって修行したり、
こうやってテーブル囲んでご飯食べたり。
本当にどうでもいい事なんです。
そんな事ばかり思い出して。
でもそのどうでもいい事が大切なんです。
普通の事の繰り返しがとても嬉しいんですよ。
もし僕が死ぬ時も、思い返すのはやっぱりこういう普通の事なんでしょうね。
それでも幸せですよ、僕。


あ!
ああもうスキヤキ焦げちゃいましたね。
作り直しましょうか?
え、いいんですか?
そうですか。
じゃあ、ご馳走様でした。
再不斬さん、またスキヤキ食べましょうね。
そうだ、雪が降ってる日はスキヤキにしましょう!
…食べ飽きそうですか?
それじゃたまにでいいですから。
一緒に食べましょうね。
これからも。
ずっと。





END






01年7月23日より再録


2003年04月01日(火)  Wonderful Nights

願う事は悪い事じゃないってばよ。







Wonderful Nights







「サスケ起きろよ!!いつまで寝てるんだってばよ!!」

任務も無い休日。
珍しく朝寝坊したサスケを起こしたのは耳を劈くようなナルトの大声だった。

何時の間にか日課になったナルトの訪問。
それはどちらかが言い出した訳でも無く、自然に始まった事だ。

ナルトはどうだか知らないが、サスケにとっては今や欠かす事の出来
ない大切な日課となっている。

「なんだよ・・・。いつもより来る時間早いだろうが」
そんな心内を知られたくないから、サスケはわざと渋々身体を起した。
しかしナルトの姿より先に目に飛び込んで来たのは、1メートル
くらいの長さの笹だった。
「今日は七夕だってばよ♪」

(――ああ、そういえば)

すっかり忘れていた。

尤もここ数年気に掛けた事もなかったけど。


織姫と彦星が年に一度会う日。
笹に短冊下げて願い事する日。


それ以外何の感想も無い。





「よいしょっと・・・ってサスケも手伝えってばよ!」

テキパキと笹に飾り付けをするナルトとは裏腹に、サスケは縁側に
気だるそうに座っている。
「興味ねえ」
そっけなく言って手元に置いてあった団扇で扇ぐ。

暑い。
もう陽が高いからよけいだ。
この調子だと今夜は天の川もよく見えるだろう。

「ホラ!お前の」
いきなり突き出された水色の短冊。
「何だよこれ」
「お前も願い事書けってばよ」
トクベツに一緒に飾ってやるからさ、とナルトは得意げに言う。
「ねぇよ願い事なんて」


願うとか、そんな当てにならない事に期待したってしょうがない。
願うだけ無駄なんだ。
願う前に――

自分で叶えれば、いい。


「・・・とにかくッ、お前も何か書いとけ!その間に昼飯作ってきて
やっからよ」
ナルトは押し黙ってしまったサスケの横から縁側に上がり、気まず
そうに台所へ行く。

勝手知ったる他人の家。
ナルトはすっかりサスケの家の中の構造を覚えていた。

冷蔵庫の中身を見ながら考える。

(オレってば、なんか悪ィコト言ったっけ?)

考えても心当たりなんてあるはずもなく。

ただサスケの暗い横顔だけが気になった。


昼食後。
サスケの側に放り出されていた短冊には何も書いてなかった。





ゆっくりと夜が近づいてくる。
夏は日の入りが遅い。

すっかり日が落ちた頃、星見ようってばよ!とナルトはサスケを縁側に
引っ張り出した。

思った通りに夜空は晴れ渡り、暗闇に星の川が浮かび上がっていた。

「おーよく見えるってばよ!どれが織姫と彦星かなあ?」

キョロキョロとしているナルトを見て溜息をつく。

「あれが織姫でそっちが彦星だ。そんな事もわかんねえのかよドベ」
サスケは天の川の挟んで一際輝いている二つの星を指さした。
うるせーっ!ドベって言うなってばよ!と殴りかかるナルトをヒョイと
かわして再び縁側に腰を下ろす。

ナルトは更に食って掛かろうとしたが、そこで動きが止まった。

「そういやオマエ、短冊に願い事書いた?」

言われてサスケは僅かにばつ悪そうに短冊を見せた。

やっぱり短冊には何も書いてなかった。

「なんだよ〜、一つくらいあるじゃん」
ナルトは残念そうに言う。そんなナルトを見てサスケは少しだけ胸が
痛んだ。
「しょうがねえだろ、ないんだから」
「え〜」
情けない声を出して考え込んでしまった。
やがてナルトは満天の笑みを浮かべて、白紙の短冊を突き出した。

「じゃあオマエの代わりにオレが願い事書いてやるってばよ!!」
そして意気揚々とペンを動かした。
「お前・・・それじゃあ俺じゃなくてお前の願い事だろうが」
「平気平気!多分お前もそう思ってるから!」
自信満々に答えるナルト。

(何て書くつもりなんだ、コイツ)

まさか俺の復讐の事?うちは一族復興の事か?

(・・・そんな訳ないか)

コイツに限ってそれは有り得ないと思う。

「出来たってばよ!!」

水色の短冊に目をやると、下手な字でこう書かれていた。


『ずっと皆と一緒にいられますように』


と。


「・・・・・・・・・・。皆?」
何の事だかさっぱり解らない。
ナルトは笹に短冊をくくりつけながら答える。
「皆って言うのはカカシ先生とかイルカ先生とかサクラちゃんとか、
ん〜〜、とにかく皆!ずっと一緒にいたいってばよ」

それってやっぱり。

「お前の願い事じゃねえか」
「サスケはそう思わないのかよ?」
「別に・・・」

叶うはずがない。
俺はいつかはこの里を出てあの男を――

兄貴を、探すつもりだから。


「願ったって叶う訳ねえだろ。俺たちは・・・忍者なんだ」
本当の事を言えずそんな事を言ってみる。
案の定、ナルトは悲しそうな顔をした。
「そう、だけど・・・さ。でも」
「でも?」
「願う事は悪い事じゃないってばよ」
そう言ってナルトは夜空を見上げた。

空色の瞳に満天の星空が映る。

サスケは少し魅入ってしまった。

「オレさァ、前に短冊に願い事して叶った事があったんだってばよ」
嬉しかった〜、と微笑む。
「フン、どうせくだらねえ事だろ」
「くだらなくないってばよ!」
ムキになって反論する。
「じゃ何て書いたんだよ」
「それは・・・内緒!!」
「やっぱりくだらねえ事じゃねえか。そういえばお前、今日の短冊には
何て書いたんだ?」
聞かれた途端、ナルトはぱぱっと顔を赤くした。
「・・・・・・・内緒!!」
夕飯食うってばよ!とサスケを部屋の中に引っ張り込んだ。



中庭に飾られた笹に二つの短冊が揺れている。
水色の短冊と―――
淡い黄色の短冊。

『ずっと 大好きな人と一緒にいられますように』






end






01年7月6日より再録



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