つたないことば past|will
「シノの中にも何かいんのな」 空色の瞳は目の前に佇む、子供にしては大柄な少年を臆する事もなく見つめる。 大柄の少年は何の事だ、と低く放つ。 「だってオマエ、体ン中に蟲いるんだろ?オレも」 空色の瞳の少年はポンと軽く腹を叩く。 「ここにいるんだってば」 シノは何が、と言おうとしたけどやめた。 この少年の事情など知った事ではないが、それは紛れもなく重くて、 自分がこの少年と一緒に背負うのは無理だと確信した。 その、酷く悲しげな笑顔で。 まだ10年をちょっと過ぎたばかりしか生きてはいないが、それでもこんな 特殊な一族の中に生まれたからには、世の中の汚くて醜い欲望やどうにも ならない現実が数え切れないほどある事をシノは知っている。 自分が今、子供だからと言うのも関係ない事も知っている。 中忍試験の第3試験で、日向ネジがヒナタに突き付けた「変わらない現実」も そのひとつだ。 ヒナタは変われなかったわけじゃない。 しかし敗北という結果が完全に変われなかったという現実だ。 シノにも自分はこの一族の運命から逃れられない「変わらない現実」がある。 だけどそれは産まれた時から義務だと思っていたし、それに不満もない。 自分の体を蟲に貸し与え、その分手足になって戦ってもらう。 何の不満もない。 そう思っていた。 (以下略)
ひたすら歩き続けて、気がついたら夜が明けて日が昇り始めていた それでも僕は歩きつづける 何かを信じて歩きつづける 何の確信もないのにこの先に君がいることを信じてる 君の声は聞こえない 君の声は思い出せない だけど君の姿が見えてきた 君は何も言わない 話さない 横たわる君の体は冷たくて何も感じない ただ見開かれた黒い瞳だけが君の存在を主張した そっと君の瞼を閉じると涙が一筋こぼれて、思わず名前を呼ぶ でも君は何も言わない 話さない 笑わない 怒らない 泣かない 君はもう何も感じない 僕も何も感じない これは君だ 僕が求めた君だ どうして君だったんだろう どうして求めたんだろう 意図的にその理由を知ることを拒んだ自分を呪う 弱い弱い自分を呪う 涙は流れない 君が僕の分の涙を流したんだ 君が 「本当は大好きだったんだよ」
明け方にぼんやりと君の声を聞いた気がして、まだ暗い外に飛び出した でもそこに君がいるはずなんてなくて、悲しくてうなだれる いつからか僕は君の声にとても過敏に反応するようになって それが忍びだから、教師だからという理由ではないことを知ったのは だいぶ後だった 君の声を求めて僕は暗がりを進む それでも彷徨えば彷徨うほど君の声は聞こえず 思い出そうとすれば思い出そうとするほど君の声を忘れた 君はどこへ行ったんだろう 君は何を求めたんだろう 君のことを何も知らない僕はどうして君を求めるんだろう どうして君の声を求めるんだろう 理由も知らず僕は歩きつづける
泣かないでと抱きしめた腕は とても細くて その腕に縋る俺は とても弱くて どうか泣き止むまで 俺の顔を見ませんように どうか君に 涙がかかりませんように 泣き止んだら また少しだけ強くなるから
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