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それはもう
ずっと
ずっと
片想い
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どうして、そんなにたやすく
心を明け渡せるの?
いつ裏切るかも判らないのに。
自分ですら信用できない、こんな生き物なのに。
なぜ、怖くないの?
なぜ、信用できるの?
その気持ちが、強いものだから?
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幸せにするから
そう一言、うとうととする耳元に聞こえてきた。
寝言のようにして、呟いた言葉に キミは何を思ったんだろう。
何を思って、そう言ったんだろう。
きっと、キミの「コイビト」たちなら、誰でもそうしたんじゃない?
そう、拗ねたようにして、先刻放った言葉。
たまに、僕の言葉は 酷く刃のボロボロのナイフみたいに キミを切りつけているかもしれない。
なにそれ、とキミが返してきた。
でも、僕は聞こえないふりをして、 そのままその質問には答えずに、まどろみかけた状態で続けた。
でも、きっとー 「昔の僕」なら、こんなことしなかっただろうけど。
そう、言った。
病み上がりの、まだボーっとした頭のはずのキミに、 そう、言った。
ああ、また、 僕はあのナイフを振り回したかもしれない。
無作法な、何の気遣いもない言葉。
また、キミを傷つけようとした。
いつもそうだ。
優しくしてあげよう、と思うより
傷つけようと、いつの間にか思っている。
そうして、キミが離れてしまうなら
それが一番いいんだ、なんて考えてるんだ。
キミの過去を振り返って、 見たこともない、少し話を聞いただけの人たちなのに、
その影に、少しだけ変な気分になる。
その人たちが居る過去を背負っているキミに、関わりたくなかった。
関わらなければよかったのかもしれない、なんて思う。
その人たちほど、キミの事を想えない僕は
キミへやることなすこと、全て空っぽで
ママゴトみたいにしか感じられなかったから。
だから、キミから離れてくれればいいのにー。
でも、キミの口から出た一言に、 僕の脳は少しだけ覚醒した。
何を、言ってるの?
今なんて言った?
これから先の未来、 アナタのこと、幸せにする
よく、判らない人。
それとも、僕の思考がどこか変なのか。
どうして、そんな風に思ったのか 皆目見当がつかなかった。
変な感じだった。
また、新しい揺らぎに身を任せると すぐに瞼が重くなった。
いつもなら、夢の刹那に溶けるのだけど
キミの、言った言葉が
まるで何かの呪文みたいに
脳から離れなかったー
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ずっと
ずっと
忘れらんない
アナタは 今
どうしているんですか
今はもう 遠い昔
あのとき アナタへ感じた気持ちは
今でも 思い出すんです
あの時、アナタは
どんな気持ちだったのですか
一瞬でも、思いが通じ合っていたのでしょうか
長い時間、想いはあったけれど
それは刹那にも感じました
今でも、思い出せる痛みやささやかな歓喜が
記憶に残っていることに
自分でも驚いています
アナタは、今どうしているんですか
懐かしくて、どこかやっぱり
切ない、です
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頭に乗せられた手は
一瞬だったのかもしれないけど
そのぬくもりが
酷く心地よかった。
ずっと、こうしててくれればいいのにー
そう想ったのは、きっとキミだったから。
うん、きっと
キミだったからだ。
たまに、キミの優しさが見えると
切なく、なるよ。
細い、細い
蜘蛛の糸のようなものでも
繋がっていたい、と想うのは
きっと、キミだから。
忘れないで、いてくれるといいな。
そう、想うのは
キミ、だからなんだろうな。
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遠い、昔ー
耳の奥に残る、低くてゆったりとした声。 まるで、静かに波打つ海のような音だ、と思った。
何かのきっかけで、人間は感情を手に入れた。
持ちうる全ての感覚を持って、脳へと記憶になり、 感じることが出来るようになった。
今までとは遥かに違う、世界が見えた。
けれど、それは人類にとってー
果たして、快挙だったと思うかい。
これを手に入れたことによってー
人間は、どの生物よりも苦悩することになったのかもしれない。
悩み、苦しむ。
誰かを信じる、ということ。
きみは、どういうことだと思う?
目に、見えるものだったら どれだけマシだったろうね。
けれど、それは触れることも 見ることも聞くことも叶わない。
ただ、感じるしかないんだ。
その人を、信じる。
ただ、信じる。
だけど、その人を信じようとした時ー
もし裏切られたら、と きみは、考えるかもしれない。
でも、その人を好きなら、
信じるしかないのだ、と
きみは考えるかもしれない。
不安だね。
きみは、怖いという感情に、悩まされるかもしれない。
きみが、眠っている間の世界は
きみが起きているときと同じように
モノや時間が動いていると、思うかい?
もしかしたら、目を瞑っている間に
きみの体は宙を浮いて
部屋やベッドやじゅうたんが
ぐるぐると回転をしているかもしれない。
そして、ゆっくりときみが目を覚ます頃には、 眠る前と同じ位置に全てが戻っているのかもしれない。
信じる、ということは、
きっと、目を瞑っていることと同じようなのかもしれない。
目を瞑って、
体温も香りも感じない 手も届かないような距離で
声を発することなく、相手が立っている
きっと、立っているのだ、と
思うことに似ているのかもしれない。
目を開けたときには、きっとそこに居るのだと 立っているのだと、思うこと。
それが、信じること、みたいなものなのかもしれない。
だから、不安なんだ。
だから、アンバランスなんだ。
信じよう、と心を決めていられる間は平気でも
一度猜疑心を抱けば
真っ暗の中
在るのかもわからない存在を 心に留めていようとしている
それが、不安になるかもしれない
もしなかったら、どうしよう
もし、だめだったら
もし、 もしー
信じることは、空虚かもしれない。 けれどー
でも、きみは
信じることが何かを、気づくんだよ
そのときが来たら、
気づくんだよ
信じることは、どういうことなのか
誰を
何を
信じようとしているのか
信じたいのか
しっかり、思い出すんだ。
遠い、昔ー
そう、まだ幼い私に
夢の中で伝えてくれた
あのときのアナタは、誰だったのでしょう。
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緩やかに流れる 波紋が
脳の奥底で
謡うように
揺れて
どっぷりと
柔らかくて 温い 水の中へと
沈んでいくような
手足の感覚は無くなって
目を開けても閉じても
同じ暗闇
心地よい 重さ 静けさ 温度 浮遊感
目が覚めたとき
嗚呼、醒めてしまった、と
残念に思う気持ちに 少しだけ笑う
いつか きっと
もう一度 あの世界へ
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