みかんのつぶつぶ
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2006年09月25日(月)


「ぼくも手伝いましょうか」
ストレッチャーに横たわりながらの入浴中に、
ほかの患者さんを入浴させていた看護婦さんに彼が、
そう声をかけたと、報告された。
「旦那さんらしいことをやっと言ってくれたわ」と、
嬉しそうに。

1回、2回目の再入院までは日常的なことは全て自分でこなし、
入浴できる日を楽しみにして過ごしていた。
同室の患者さんが困っている様子を見れば、
親切に案内をしてあげていたり。

3回目、車椅子で入院。
食事も介助をされながら。
入浴も、ストレッチャーに横たわりながら。
鬱状態もあったり、抗がん剤の影響もあったりで、
意識レベルも低く、
日常会話もあまり弾まない状態になっていたなかで、
それまでの元気だった彼らしい言葉がポンと出てきたことに、
素直に喜んでくれた看護婦さんだった。

彼が亡くなって数ヵ月後、担当だった医師へ面会にいったとき
その看護婦さんと廊下で出会った。

「相変わらずお元気そうで、お忙しいでしょう」と声をかけた。
「奥さんも元気でやってる?私も来年は定年だから、引退よ〜」と、
少し疲れた優しい笑顔で返事をくれた。
「そうですか、本当にお世話になりました。どうぞお身体に気をつけて」
とお辞儀をした頭を起こすと、看護婦さんはうっすらと涙目になっていた。
うんうんと頷いて、足早に病棟へとかえっていった。



部屋のなかを吹き抜ける風は、
すっかり秋の匂いで。
想い出がぽろぽろと転がり落ちる。
拾い集めては抱えて、
気づいたら涙を流していた自分に驚いた。
忙しいのは疲れるが、
これでまた家に引きこもる生活をはじめたら、
昨日を繰り返すだけの生活をしてしまったら、
私はきっと、
もうダメだろう。

















2006年09月11日(月) 9月11日


季節が移ろい行く様をひしひしと感じるのが9月だなと、
この時期になるといつも想う。
真夏の欠片が残る昼間の光と、
夜風の涼しさに一層寂しさを感じさせる虫の声。

蝉が、いつの間にか鳴かなくなった。




電話が、かかってこなくなって。
ひとりで、起きていられなくなって。
病室に入ると、いつも横たわっていてるようになってしまった、
そんな季節。


あんなに元気でいてくれたのに、
あんなに我がままいって困らせてくれたのに。

ベッドの上ひとりの時間に、
キミはなにを想って過ごしていたのだろうかと、
未だに思い煩う。



私を待っていたってことだけは、
痛いほどわかってはいるのだけれどね。

でも時々、
私が居たことすらも、
わからなくなってきてしまっていたことを、



死んでしまってから知ったんだよ。




ごめんね。





ごめん。




5年前の今日、
ニュースを見ながらベッドの上で食事をしていた。
ビルが崩れ落ちるニューヨーク。
「ひどいことするなあ・・・」
つぶやいたキミの声を、思い出して。











2006年09月09日(土) 悔い

さようならをする日が近いということを、私は受けとめることができなかった。知っていたけれど、受け入れることをしないで、現実から逃げようとしていたのだ。

彼に言えないんじゃない。
言わなかったのだ。


いつも私は自分勝手で傲慢で、病気の彼にどこまでもどこまでも甘えていたのではないか。気持ちまでも彼に寄りかかり、結局は彼の気持ちなど聞き入れてやることなんてこれっぽちもしなかったのではないのか。

生きていくための話し合いも、
死んでいくための話し合いも、
残し残されるための話し合いも、
何もないまま私たち二人はただただ、
車椅子を押して押されてという日々を送っているばかりだった。

ただ、その時間がどうにか寂しくなく悲しくなく過ぎていってくれるようにと、
ただただそれだけの想いしかなく過ごしてしまっていた。
明日はもう少し違う日になるのではないかとか、明日はもう少し元気になってくれるだろうとか、明日はもっと優しく接することができるだろうとか。



明日のことばかりを考え、逃げていた。






明日は、終わりに近づく近道だということを忘れて。








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