「オレになんかできることある?」
遠慮がちにダンナが言った。
受け入れてくれた。 こんなにどうしようもない妻なのに。
数日前までは目を背けた私の状況を、 ポツリポツリと質問しつつ、 ゆっくりと理解しているようだった。
「側にいてくれたら嬉しい」
私がそう言うと、
「それは、難しいなぁ」
……と笑い飛ばしてくれた。
どうもありがとう。
あなたと結婚できた私という人間は、 本当に幸せだと思った。
先日、結婚一周年記念の食事に行った。
食事は楽しくできた。
こんなにゆっくりと会話をしながらの食事なんて、 ダンナがテレビ好きなために滅多にない。
本当は食事中のテレビは辞めて欲しいのだが、 まったく取り合ってもらえない。
それで良い機会だからと思い、 主治医に勧められていたせいもあって、 ダンナに心の病院に行っていることを打ち明けた。
夜、上手に眠れないこと。
彼は私が働いていないので、 疲れていないから眠れないんだと感じたようだ。
「仕事すれば?」
もう一つ話した。
一人で電車に乗るのが怖いこと。
そうすると彼は顔をしかめた。
「食材の買い物は平気なの?」 「うん、ぎりぎり」
私の答えを聞いて、彼は鼻で笑ってこう言い放った。
「勘弁してくれよ……」
やってしまったと思った。 やはり、言うべきじゃなかったと思った。
この反応はきっと多くの人がするいたって正常な態度だと思う。
でも私はこれが怖くて黙ってたのに。 彼の口からだけは聞きたくない言葉だったから黙ってたのに。
私は『彼に隠し事がある』という重たい荷物を降ろして、 自分だけすっきりしてその荷物を全て彼に背負わせてしまった。
その話をしてから、 彼は私の目を正視せずため息を何度もついてタバコをふかした。
やってしまった。 やってしまった。
出来そこないの烙印だけが、 私の底に彼の脳裏に増えていく。
同い年のイトコのおなかに、 二人目がいるそうだ。
出来てしまえばなんとかなるものなのか。
どう前向きに考えても、 子どもを育てていけるだけの経済力が、 私たちにあるとは思えない。
お金で全ての物事が解決するとは思ってない。
でもお金があれば、 悩まなくて済む問題は、
数知れなく存在する。
2002年05月01日(水) |
だれにってわけではなく。 |
傷の舐め合いだって、 思いたければ思えばいい。
舐め合える相手がいることだって、 私には必要なことで、
自分一人で治癒する方法なんて、 私は知らない。
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