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2004年10月04日(月) |
Factory48(樺地・跡部) |
7歳
かばじが握り締めた手をぐっと突き出しました。 「なに?」 景吾が向けた掌の上に落ちたものはきれいなガラスの球でした。 「これ、前にみたことがあるよ」 かばじはきれいな石や、きれいなガラス球が好きでした。それらはかばじの部屋にしまってある木箱にきれいに並べられていました。どれもかばじは大切にしていました。 「かばじの宝物だろう」 景吾が返そうとすると、かばじは首をふって、誕生日、と、風の音にかき消えてしまいそうな声で言いました。
昨日は景吾の誕生日でした。 おばあちゃんとおじいちゃんは景吾に、景吾が乗れるような小さな車をくれました。それは本物の車のようにモーターがついている、とてもかっこいい車の玩具でした。おとうさんは釣竿とリールのセットをくれました。そして素敵な事に、こんど釣に連れて行ってくれると約束してくれました。おかあさんは時計をくれました。お母さんとお揃いの小さな外国製の腕時計です。これで景吾はいつでも時間が分かります。 おかあさんは景吾の家にお友達を呼んでパーティーも開いてくれました。たくさんの友達が景吾にいろいろな美しく、立派で、素敵なものをくれました。景吾はとても喜びましたが、一つだけ、がっかりしたことがありました。かばじがいなかったからです。景吾はかばじにもおかあさんのつくってくれた招待状をわたしていたのですが、かばじはおうちのご用があって来られなかったのです。
「これ、俺に?」 景吾は手の上で、夜のように濃い色をしたガラス球を転がしました。すると、かばじがそれを取りあげ、陽射しにかざします。 「あっ」 景吾は声をあげました。光を浴びたガラス球は、ところどころが青く透けて輝くのです。 「きれいだね」 かばじが景吾の目を指差します。 「おなじ?」 景吾の目はときどき、光を受けると、うっすらと青い色が浮かぶように見えることがありました。かばじは頷き、おめでとう、と、小さな声で囁きました。 「ありがとう」 景吾はかたくつやつやしたガラス球をぎゅっと握りました。 「だいじにするね」 かばじの頬がぴくぴくと動きました。 「かばじ、うれしいの?」 かばじの頭が揺れます。 「俺はかばじの百倍より、もっともっと、うれしいよ」 二人は学校へ行くために歩き出しました。いつもかばじの手を握る手にはガラス球を持っておりましたので、かばじは景吾のかたいこぶしを上から包みました。またちょっと、かばじは俺より大きくなった気がする、俺も一歳分、かばじより大きくならないとな。景吾はかばじの大きな手を見て思ったものでした。
14歳
一年がかりで作っていたボトルシップが俺のためだと知って驚いた。 「本当に、いいのか?」 あいつは黙って頷く。相変わらず口数の少ない奴だ。俺は瓶の中に入ったとても小さく、精巧にできている船を見つめる。 「すげぇなぁこれ」 これはカティー・サーク号という船です。1869年にイギリスで建造されたクリッパー型の高速帆船で 好きな事になるとベラベラしゃべるんだ。普段からこうだといいのにな。でもよく喋るかばじってのも想像つかないか。 あの 「え?」 すいません、俺ばっかり喋って 俺はゲラゲラ笑いだす。 「樺地が喋りすぎてすいませんだなんて、ありえねぇな。忍足あたりならともかく」 はぁ 「あやまんなよ、俺ちゃんと聞いてたぜ。お茶、運んでたんだろ、これ」 はい 「ほら、聞いてるんだろう」 こんなので航海ってどんな気分だろうなぁ、なんて俺は言ってみる。 あの 「なんだよ、こんどは」 すいません 「だから、なんだよ」 俺は跡部さんがどんなものを欲しいのか、分からないから。自分のできることを・・・ 「こんなすごいものもらえて、俺はすごく嬉しいよ」 そうですか あいつの唇がちょっと歪む。 「そうだよ、お前これコンクールとかねぇのか?これ出したら優勝すんじゃねぇの?」 でも跡部さんのために作ったものですから きっぱり言う。俺のためって。そんな風に真っ直ぐ見つめられると、俺はいろんな事を考えてしまう。 跡部さん 「ん?」 他に欲しいものありますか?俺にできることで、なにか 俺はあいつの顔をじっと見つめる。短い髪。澄んだ目。真っ直ぐな鼻。唇。とくに唇。 「ねぇよ、別に」 そうなんですか? 「あぁ。本当にありがとう、樺地」 まだ言えない。まだ言い出せない。言ったらどうなるのか、俺は分からない。いっそこんな船で俺もどっか行けたら、こんなごちゃごちゃした気持ちから逃れられるんじゃないかな。そんなことを思いながら、あいつのくれた船を見つめた。
未来
「あぁ、欲しいもの?」 面倒くさそうな声を出して跡部さんが本から顔を上げる。 「ねぇよ、そんなもの」 ないんですか 「じゃあ、、もしもボックス」 そういうものじゃなくて 「どこでもドア、タイムふろしき、暗記パン・・・」 うちにはドラえもんはいませんよ 「じゃ、ドラえもん」 長々とソファーに寝そべった跡部さんは、また本を読み始める。 そういえば昔よくうちでドラえもんのコミックスを読んでいたな。家じゃ漫画は読めないとか言って。そんな事を俺は思い出す。 長い間一緒にいるから、誕生日にあげるものも年々考えがつきてくる。跡部さんは俺が差し出すものに不満はないらしく、なんでも喜んでくれるので余計、困る。なにかいいものはないかな、この人が、心からすごく喜ぶような。 「おい」 跡部さんが本を置く。 「もうなぁ、そういうこと考えるな」 どうしてですか 「同じ部屋でうんうんつまんねぇこと考えてる奴がいると、うっとうしくてたまんねぇから」 つまらないことじゃないですよ、と俺は跡部さんの足をどかしてソファーに座る。 だって跡部さんが生まれた日ですから 「別に俺が生まれたからって、他の364日と同じだろう」 ちがいますよ 俺は首を振る。 生まれてくれなきゃ、出会えませんからね 跡部さんがぐっと歯を食いしばったような表情で俺を睨みつける。 「よくもまぁ、そんなことを。とんだロマンチストだな」 跡部さんだって 「なにが」 15の誕生日に俺にキスしろって言いましたよ 「だからなんだよ」 16の時は・・・ 「言うな」 跡部さんが叫ぶ。 「あぁ分かった、分かったから、もう」 じゃあ、なにがいいですか 「だからいらねぇよ。お前、もういるし」 俺? 「そう。お前がいるからいい」 こういうことを言う跡部さんのほうがやっぱりロマンチストではと俺は思うが叱られそうなのでやめておく。 でもそれって 「うん」 もう当たり前のことですから そうか、と跡部さんがうつむく。 「当たり前か」 舌打ちして呟いた、跡部さんの耳が赤くなる。 そうですよ。俺がいるのは当たり前ですよ 俺は跡部さんに言う。 この先もずっと、いますから 「じゃあ、もうもらうもんなんてねぇじゃん」 跡部さんが顔を上げる。 「お前の一生もらっちゃったら、もう、ないじゃん」 だから他になにか考えてください 「うるさい、自分で考えろ」 跡部さんは俺を足で蹴り、本を手に取る。 「だいたい、そういうもんだろ。プレゼントって。なんで当人に考えさせるんだ」 それもそうですね 「だから最初から言ってるだろう、バカ」 俺はどうやら跡部さんを怒らせてしまったので、さっさと退散しようとすると、また跡部さんがおいと俺を呼び止める。 「そこにいろ」 俺が座ると跡部さんは向きを変え、背中を俺にもたれかける。 「支えになれ」 そういうわけで、俺は跡部さんを支え、この人の体温を感じながら、何がいいんだろうなとまだ考えている。
★おめでとう!あの子におめでとう!幸せにおなり!★
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