2004年10月21日(木) |
俺とヤツの関係およびその傾向と対策 |
2時間近く続いた会議が終わって、その会議の主催者側である俺は余った資料やマイクセットなどを台車に乗せて事務所に持って帰ってきた。さて、ちゃちゃっと片付けてしまおう、と思っていたところへ、ウチの部門のトップである役員さまから声がかかった。声がかかった、というよりは大声で呼ばれた、という感じである。 かくかくシカジカなので、Yさんに付いておまえも一緒にMS社へ行って来い。例の話、知ってるだろ。場合によってはおまえがその交渉を仕切れ。 いやいや、あの、役員さま。お声をかけてくださるのは嬉しいのですが、その話、私、今までぜんぜん噛んでないんですけど……。そうも言えずに、取るものもとりあえず、俺はとなりの部署のY部長と一緒に会社を出る。地下鉄とタクシーを乗り継いで、神田へ向かった。 ココでは詳しく書けないくらいのデリケートな話なのだが、結局はそれほど大きな話になることはなく、MS社への訪問は終わった。Y部長は神田駅から直帰する、と言ってあっさり改札の向こうに消えてしまった。俺も帰りたい気分だったが、慌てて会社を出てきてしまったので今日中に整理しなければならない仕事が放り出されたままだ。止む無く、会社へ戻ることにした。 そうだ。 神田は古い友人が勤める会社のある街だ。時間に余裕があれば、ヤツにメールでもして夕食に誘いたいくらいだが今日はやめておこう。とりあえずお前のすぐ近くまで来てるぞ、ってなメールでも送っておくか。 俺は神田駅の構内でケータイ写真を撮り、メールに添付してヤツに送信。 『残念だが、今から会社へ戻ります』 池袋に向かう電車の中で、ズボンの右のポケットでケータイが震えた。ヤツからのリアクションであろうことは容易に想像がついた。
『残念だが、いま新宿。この後銀座のデザイン事務所に寄って直帰っす』
そうか、ヤツも仕事中なんだ。そりゃそうだな。いつもいつも会社にいるわけでもないだろう。ヤツもフツーに仕事をしているのだ。そう思ったら、すこしだけ不思議な心持になった。高校時代から今日までのかなり多くの時間を、共に笑い、共に“無駄に”過ごしてきた悪友の一人が、いまスーツにネクタイでサラリーマンをやっている──。
『こういうやりとりをすると「みんな働いてるんだなあ」と思う』
そんな正直な気持ちを、俺はケータイメールに乗せてヤツに送った。彼も電車で移動中なのか、少なくとも顧客先に訪問中などという場面ではないらしく、すぐさま返信をよこしてきた。
『ま、ばかばっかりしてるわけぢゃないのさ。俺もお前も。うけけけけ』
きっと、俺が感じた“不思議な心持”はヤツに伝わっているのだと思った。それをヤツなりの表現で俺に返してきたのだ。こうなってくると、俺も負けじと“俺なりの表現”でリアクションしなければならない、という意識がふつふつと沸き起こってくる。俺達の仲間内では『ウケ狙い』と呼んだりもする、それだ。メール合戦の始まりである。 俺はケータイの小さな画面へ、限られた文字数で表現すべくメールを打ち込んだ。
『もちろんだ。今日も「では会議の欠席者の椅子の上にはパンダのぬいぐるみで置いておきますか?」と先輩社員に言ったら呆れられた。ばかばっかりやってるわけぢゃないのだ』
実話である。まじめな話をしているときにでも、ついついこんなふうに笑いを取りに行ってしまう自分が情けない。ヤツに送ったこんなメールのヤツからのリアクションが秀逸。
『あほか。ぬいぐるみとゆえば、くまに決っておろう。そら先輩も呆れるわ』
俺は有楽町線の中で激しく脱力した。おもしろい。おもしろすぎる。このリアクションの素晴らしさを敢えて説明するまでもないが、ひとつ付け加えておかなければならないことがある。 俺がヤツに送ったメールは、ひとつだけ事実を捻じ曲げた部分があった。それは“パンダ”。 ヤツがケータイで俺のメールを読むということを考慮して、カタカナの字面で、すぐ後の“ぬいぐるみ”という言葉と判別しやすい“パンダ”を選んだ。 しかし、実際に俺が言ったのは“パンダ”ではなく“くま”だったのだ。
長年付き合っているばか友人とのこんな一体感。 また、それを嬉しがってココで解説しているばかな俺。
|