のづ随想録 〜風をあつめて〜
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2004年10月08日(金) 調子こいてる

 もう15年も前の話となってしまったが、俺は半年近くアメリカはオレゴンに短期留学をしていたことがあって、それが通じるかどうかは全く別のところで、俺は外国人に対して“英語を話す”ことを臆すことはない。
 しかし、今回ばかりはすこし勝手が違った。相手は台湾人──。

 なんというか、ウチの会社の関連会社が台湾にあって、そこの店舗開発部門の本部長以下3名様ご一行が日本に研修に来るということで、俺はその講師役を仰せ付かった。
「部長、今まで黙っていて申し訳なかったのですが、ボクは中国語が話せません」
「んなことは分かってる。ちゃんと通訳がいるから安心しろ」
 そうなのだ。いつぞやの韓国出張の打ち合わせの時に、中国人の女性社員と少し話をしたことがあったっけ。今回はその中国人社員、Lさんが通訳としてこの研修を助けてくれるのである。
 で、昨日。
 本社1階の会議室に台湾からの3名と、我々講師陣(俺の他に、もうひとり先輩社員も講師となった)にLさん。早速Lさんの通訳で名刺交換から始まり、俺は“ロ”の字に配置した長机の一番奥に座った。
「デハ、カイハツ部ノのづサンカラ、ニッポンノコンビニエンスノ歴史ニツイテ説明シテイタダキマス」
 Lさんが多分そんなことを言ったのだと思う。台湾の本部長サマは深々と頭を下げた。こちらも慌てて頭を下げる。こうして長い研修が始まった。

 俺は準備した資料をもとに話を始めた。彼らの手元には俺が作った資料を中国語に翻訳したものが渡っているようだった。
 考えてみると、通訳を通して外国人にモノを伝える、という経験は恐らくこれが始めてだ。仕事で韓国へ行ったときは現地社員が日本語ペラペラだったので、言葉の心配はほとんどなかった。
 通訳という存在はこちらをかなり緊張させる。なにしろ勝手に話を続けていてはきちんと通訳できないのでは、という不安な気にさせるからだ。俺は資料を説明するときは、通訳のLさんとアイコンタクトを取りながら、なるべく短い文章で区切って話すように心がけた。
 自分の短い文章の日本語→通訳の聴きなれない中国語→自分の短い文章の日本語→通訳の……を繰り返していると、自分の日本語がだんだんおかしくなってきた。いちいち短い文章で話を中断させ、通訳が説明し終わるまで待つ──という奇妙なタイミングがそうさせているようだった。
「──つまり、日本のコンビニエンスストアのたくさんのお客様は、そのような商品のひとつを選ぶことがとても得意です」
 なんだか中学生の英文和訳みたいだ。ジャック&ベティじゃないっつーの。こんな奇妙な日本語を喋っている自分がだんだん可笑しく思えて、俺は説明を続けながら、腹の中では大笑いしていた。
 そもそも通訳のLさんは、俺が変に気を遣って日本語を優しくしたり短く喋ったりしなくても、難なく中国語に訳してしまうとてもとても優秀な女性なのだった。
 ちょっと気になったのは、Lさんと台湾からの社員の会話(もちろん中国語)の中で、どうしても“調子こいてる”としか聞こえないワードがあったことだ。
『…………調子こいてる……。……調子こいてる……』
 なんか遠まわしに俺自身が非難されているような気分だった。中国語で“調子こいてる”と発音するその言葉の意味を、俺は最後まで聞けないでいた。


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