(前回までのあらすじ) 魅惑の合コン的飲み会に残業のため参加できなかった俺は、同僚からの飲みの誘いに乗り、近所にあるレストランバーへ急行した。
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カウンターの同僚Mはすでにワイン1本を空けており、かなり上機嫌だった。その向こうにはややごついイメージのバーテン風の40代後半の男と、“ともこママ”と呼ばれる30歳前後の女性がいて、カウンター客のMの相手をしているようだった。 俺はMの隣の丸椅子に腰掛けると、バーテンがかなりフレンドリーな口調で俺に話しかけてくる。 「で、何飲むの? とりあえずワインでしょう? Mくんもワインにいってるし」 Mを名前で呼ぶなど突然のその対応に俺は一瞬ひるんだ。 「もう、俺がここに座った瞬間から、この人、こんな調子なんだよ」 Mがすかさずそう言って笑った。店の雰囲気には似つかわしくないような、バーテンのフレンドリー接客は決して嫌味なものではなかったので、俺もすぐに打ち解けることが出来た。まあ、俺はあまり人見知りをするタイプでもない、ということもかなり手伝っていたと思うが。 「いや、とりあえず、ビールください。生ビール」 「ビールなの? ワイン飲みなよ、ワイン」 「いーじゃないスか。ビールくださいよ」 ともこママが静かな微笑を浮かべながら俺の前にビールグラスを置いた。そして、とくに意味もなく4人で静かに乾杯をした。 そこからはあっという間であった。 バーテンのテンションとこちらのテンションが丁度いい具合にマッチしてしまい、その場はかなり盛り上がっていった。俺とMはバーテンにノせられるままにワインを次々と空けてゆき、気が付いてみればワイン5本、ビールと水割りを少々をやっつけ、時刻にして午前3時半。 ここまでの量と時間を費やして酒を飲んだのは本当に久しぶりだった。バーテンがしきりに『ワインは体にいいからね』を繰り返していたが、確かにかなりの量のワインを胃袋に流し込んだにもかかわらず、ふらふらに酔うことはあっても決して気分が悪くなることはなかった。ワインの効能は別としても、楽しい“呑み”だったことが体調を維持させたのかもしれない、と俺は部屋に戻る道すがら、ぼんやりと考えていた。そして、その翌日は朝8時に上司とマンションの玄関で待ち合わせをし、9時には俺の担当の客先へ訪問しなければならない――というような仕事のこともなんとか思考できていた。 部屋に戻って、午前4時。シャワーを浴びる気力もなく、辛うじてパジャマに着替えた俺はそのまま倒れるようにベッドに溶けていった。
起床、9時15分。 漫画だったら、ベッドから飛び起きる俺の頭上には『どひゃー!』とかなんとかの効果音が大きめに描かれていたに違いない。 会社の始業時間の9時を過ぎている、などという問題ではなかった。8時の上司の待ち合わせを完全に寝過ごし、すでに客との約束の時間も過ぎてしまっている。 こんな大チョンボは入社以来初めてだ。 大急ぎで身支度を整え、営業車で訪問先へ突っ走る。途中、携帯電話で上司に連絡、素直に詫びた。 「どうしたのかと思ったぞ。お前にしちゃあ珍しいな」 と軽く受けてくれたのが幸いだった。
もう朝の3時、4時まで呑むようなことは控えよう――しみじみと思った琵琶湖湖畔。
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