| 2002年05月25日(土) |
ばかなことをやったもんだ <其の伍> |
先日、仕事ついでに郊外の大型ホームセンターを覗いてみた。 ちょうどオープン二日目で、この店舗の周辺は大渋滞になっていた。仕事でそのあたりを調査していた俺はこの大渋滞のおかげでかなり苦労させられたわけだが、そうだ――と思い立ち、仕事に必要なモノを探しにこのホームセンターを訪れた。 チラシ効果もあってか、平日の真っ昼間だというのに店内は来店客で溢れていた。俺はその人の波を逆流するようにすり抜け、建築関係の用具コーナーへ。店員に問いあわせたところ俺の求めるモノは売り場にはなく、仕方がないので売り場をぶらぶらと眺めていた。
『溶接用手持遮光面』
これってナンだかわかりますか。 町工場で、首から手ぬぐいをぶらさげた熟練工が溶接作業をするときに片手に持っている、火花を避けるための四角い覗き窓がついた鉄仮面みたいなお面。アレをこう呼ぶようだ。なるほど、その様子そのものがあのお面の名前にダイレクトに表現されている。 いちばんお手ごろ価格のものは2,980円で売っていた。 大型ホームセンターともなるとこんなものまで売っているのだなあ――と広い店内を見回していると、俺はふと、『東急ハンズ』を思い出した。 そういえば最近はすっかり行くことも少なくなってしまったが、学生時代は多種多様のものがずらり揃ったあの魅力溢れる東急ハンズの各階の売り場が大好きで、ちょくちょく足を運んだものだ。そんな学生時代は地元の仲間達と頻繁に集まる機会があり、誰かの誕生パーティだナンだと誰かの家に集合しては飲み食いし、一応誕生日を迎えた主役にプレゼントを贈った。便利なものやちょっとお洒落なものなど、様々なものが揃っているので、俺や仲間達は東急ハンズでその贈り物を調達することが多かった。 主役が女性であれば、あまり奇をてらった贈り物はできなかったが、ヤローが主役となる集まりでは、いかに“ヘンな”贈り物をするか、に俺はすべての情熱を注いでいた。当然、俺が誕生日を迎えたときは、仲間達はその情熱を俺に向けるのである。
俺とS.Aがその日東急ハンズに行ったのは、Wの誕生プレゼントを調達するためだった。 ふたりはさっそく店内を(かなり偏った視線で)物色し始めた。 「これは?」 S.Aが手にしたモノは“風呂のかき混ぜ棒”。 「いいねえ」 「でしょう!」 「しかし、実際には風呂場で“使われてしまう”」 「そうか」 「そうだよ。“使われちゃったら終わりなんだ”。“使えるものだけど、実際は殆ど使い道がない”こういうモノを選ばなきゃ」 とても友人の誕生プレゼントを選んでいる会話ではない。 その後、俺とS.Aは様々な候補をリストアップした。三角フラスコ、アルコールランプ、チェーンソウの替え刃……。どれも魅力たっぷりの誕生日プレゼントである。そして最終的に選ばれたのが、のちにその名が正確に知ることとなる、『溶接用手持遮光面』であった。 「こんなモン、どうしろって言うんだ!」 誕生パーティの席で、Wは嬉しそうに叫んだ。俺とS.Aは当然のようにこう答えた。 「さあ……?」 彼の部屋にはしばらく『溶接用手持遮光面』が、その本来の役目を全うできることもなく飾られていた。
その後、俺がプレゼントをもらうことになる。その時、彼らが選んでくれたのは“工事用ヘルメット”と“黒板消し”であった。そのどちらも“使えるものだけど、実際は殆ど使い道がない”という、俺達の誕生日プレゼントにおける普遍的テーマをしっかり踏襲した贈り物だった。
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