ちゃんちゃん☆のショート創作

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正義の味方にあやかって(仮すぴ)
2012年02月03日(金)

 仮面ライダーたちの活躍によって、悪の組織バダンが壊滅し。
 人々が復興へのささやかなる第一歩を踏み出し始めた───そんなとある日の物語。


「がーん がーん がんがらがんが がんがらがんがんがーん♪」


 勇ましいはずの軍○マーチメロディーに反して、どこか平和的で、この家の住人たちにはおなじみの歌が、絶好調に鳴り響く。
 元は村雨邸であり、現在は地元の病院として昼夜問わず忙しい、ここ海堂診療所は今日、随分懐かしい珍客を2人、迎えていた。


「が〜ん♪ ・・・っと。ほい、おまっとおさん」


 そのうちの1人───がんがんじいは、訪ねて来るなり誰も使っていなかったのをいいことに「おっ久あ。ちょい場所貸してぇな」と台所へと押し入って、何やら一心不乱に作っていたのだが。
 とりあえずはいい香りが漂ってくる気配に不安半分、期待半分の面持ちで待ち構えていた住人&客の前へ、彼は大皿に盛り付けたものを掲げて現れた。

 一目見て皆───絶句。


「・・・・・・」
「どや! うまく出来とるやろ?」
「こ、これって・・・お寿司?」


 そう。香ばしい海苔の上に、酢飯と色とりどりの具をバランスよく並べ、巻き簾でぐるりと巻いたその料理。一般的には「太巻き」と呼ばれる、古式ゆかしき『ジャパニーズ・フード』なのだが。


「この模様・・・スカイライダー、か?」
「お、さっすが良はんv よお分かったなv」


 普通、かんぴょうだの厚焼き玉子だのの切り口が見えるはずのそれは、緑を基調とした丸型の図形───ぶっちゃけ、村雨良がつぶやいた通り、スカイライダーを模した柄を、皆に見せていて。
 がんがんじいは意外に、手先が器用らしい。感心した海堂肇は一条ルミと共に、歓声を上げた。


「ほお、なかなか見事だな」
「ホント、こんな綺麗なお寿司、家で作れるのね」
「えへん、褒めたって、褒めたってv」
「・・・つまり、わざわざこれを作りに、ここへ来たのか? がんがんじい」
「はいな。今日は2月3日やろ? そやから良はんたちと一緒に食べたらええなあ、思うて」
「それは嬉しいんだけど・・・でも、どうして太巻きなの? 節分に関係あるの?」
「何や、知らんのかいなルミはん。まあ、関東にも進出したん、最近やちゅう話やからなあ」


 どこか誇らしげに胸を張って、がんがんじいは本日訪問の理由を主張する。


「これ、恵方巻、っちゅうねん。ワイの故郷の大阪の方でやな、その年の、歳得神がおられる方角に向こうて、太巻き1本を目ぇ瞑って無言で食べきったら厄落としになる、言われとるん。
あ、今年の恵方は北北西やから、あっちな」


 そう言いつつ指し示すのに、皆は思わず釣られてそちらを見やったのだが。


「あ〜ん。・・・ふむ、この味は青海苔と、赤紫蘇・・・は目の色か? 結構食えるもんだな。んまい」


 ひょい、ぱく、と。
 協調性を思い切り無視した上に、住人を差し置いて盗み食い、と言う暴挙に出たのは、この日偶然居合わせた珍客その2、だった。


「あったり前や。食えるもんやないと、人前に出したりせんわ・・・って、そやなくて! 滝はん! あんさんいつの間にっ!」
「いーだろーが。食うために作ったんだろ?」
「あんさんは想定外やあああああっ! 何、そのでかい態度!?」


 食べて当然、とばかりに悪びれない滝和也がさらに手を伸ばそうとするのを、がんがんじいは体を張って止める。
 止めたついでに、太巻きの皿を素早くルミに手渡しておくのも、忘れない。


「何で、滝はんまでココにおるん? あんさんアメリカへ帰ったンやなかったんかいな。仕事サボっとんのか・・・あ、ひょっとしてクビになったんやったりして?」
「てめえ何縁起でもねえコトを・・・★ 厄払いしに来たんじゃねえのかよ?
これも仕事の一環だっつーの。事後処理とか、経過報告とか、事情も顔も分かってる俺の方が、何かと都合がいいだろうが。・・・しっかし、やっぱり米は日本が一番だなー」


 ご飯粒のついた指を舐めながらそう答えた滝は、『スカイライダー太巻き』にまだ未練があるらしく、ルミの持った皿をちらちら眺めている。
 そして村雨はと言うと、こちらもつられてつまみ食いを決行しようとしてルミに叱られ、海堂には呆れられていた。

 ラップラップ、と台所へ取って返すルミを見送り、海堂はふと浮かんだ疑問を口にする。


「ところで、恵方巻きってさっきも言ってたけど、太巻き1本を食べ切るんだろう? さっきのがもう、切り分けてあったのは何故だい?」
「いやー・・・作るンがスカイライダーでっしゃろ? 平和をもたらした仮面ライダーを食う、言うて、逆にバチ当たりそうな気がするもんやさかい」


 ネオショッカーの首領とかを作れたんなら遠慮なく一本かじりしてやったんに、と、苦笑するがんがんじい。


「だったら、最初からそっちを作ったらよかったんじゃないのか?」


 村雨の疑問もごもっともだが、「わい、そこまで器用やないし」とがんがんじいは続けた。


「この間休み時間中にテレビで、パンダの巻き寿司の作り方やっとったんや。案外簡単な仕組みやなーって思うたんやけど、ひょっとしたら仮面ライダーに転用できるんやないか、て思いついて・・・やっぱうまくいったわ〜v」
「パンダ、ってお前・・・★」


 ───似ているような気が、しないではないが、だが、しかし。

 仮面ライダーをパンダになぞらえる、なんて、結構大胆だよなあ、と滝辺りは思ったりする。
 ・・・ただ、平和の使者にも例えられる世界的アイドル? と肩を並べるのなら、まだ光栄な方だろう。彼らを知らない一般人にはむしろ、怪人呼ばわりされるのが常だったし。

 一方、大皿にラップをかけて戻って来たルミは、ふう、とため息をついた。
 それはどこか、落胆の色もこめられているようにも見えて。


「ルミはん、どないしたん? 口に合わへんか?」
「あ、ううん、そうじゃないの。ただ・・・」


 口ごもりながら落ち着きなくチラ、と傍らに立つ村雨へと視線をやるのに、滝も、そしてがんがんじいも気がついた。


 ───ははーん、ZXを象った太巻きも作りたい、と思ってんだな?


 もともと女の子は、可愛らしいものが大好きだ。売っていれば買いたくなるし、作ることが出来るのならば自分で作りたい、と思って当たり前だ。

 それを察したのだろう。がんがんじいは自分の胸をどーん! と叩いて請合った。


「別の模様の恵方巻きも作りたいんやな? 大丈夫だいじょぶ、ワイもパンダ巻き寿司からヒント得た、言うたやろ? ちょっと配色とか変えたら、すぐ出来るて」
「ホント?」
「ホンマホンマ。そや、材料まだあるさかい、もっと色々作ってみよか?」
「うん! ちょっと待って、メモ用紙持ってくるから!」
「よっしゃ、ぎょうさん作るで〜」


 嬉しそうに台所の準備をしに姿を消す、ルミとがんがんじい。
 和気藹々とした2人を見送って、滝はぼそりと呟く。


「パンダの恵方巻き、か。そんなのをテレビで話題にしてた、ってのは、やっぱ日本が平和になった証拠だな・・・」
「そう、だね。去年はとても、それどころじゃない状況だったし」


 海堂が答えるのに頷いて、滝は無言のうちに村雨の腕を軽く叩く。
 それは、村雨たち仮面ライダーへの感謝の気持ちからであり、村雨のくすぐったげな、かつ誇り高き笑みは、滝からの賞賛をきちんと受け止めている証拠だ。

 彼に不敵な笑みを返した滝は、ふと別の疑問に気づく。


「しっかし・・・何でがんがんじいもわざわざこっちに来て作ろう、なんて思ったのかねえ? 自分たちだけで食べてる方が、金だって時間だってかからないだろうによ」
「今、がんがんじいと筑波さんは別行動をとってる、って聞いてるが」
「え? そうなのか?」
「・・・筑波さんたちは治安維持のために、日本各地に散っているんだろう?」


 SPIRITSの隊長ともあろう男が知らないのか? と村雨が眉をひそめるのに、滝は慌てて言いつくろう。


「あ、イヤ、ライダーたちが、バダンの残党たちの一掃に乗り出してるのは、知ってるぞ勿論。ただ、あいつが単独行動とってるとは、聞いてなかったもんだからよ」


 バダンは壊滅したものの、下っ端たちが生き残りよからぬ野望を持たぬとも限らない。それで『一応念のため』、仮面ライダー及びSPIRITS隊員が各地方に飛んで、調査や探索に乗り出しているのだ。
 むろん、バダンでなくても妙なことをしでかす犯罪者予備軍にも、ちょっとお灸を据えてやる任務を兼ねて。

 だから、スカイライダーの相棒を自認するがんがんじいも、てっきり筑波洋と行動を共にしていると思い込んでいたのだ。

 何せ、改造人間でもなければ、正規の訓練を受けた戦闘員でもないにもかかわらず───いくらSPIRITS隊員の助けがあったとは言え───バダンのピラミッド入り口の鍾乳洞へ突入するわ、巨大なキングダークへダイブかつ潜入するわと、無謀な作戦を敢行したのみならず、ほぼ無傷で生還しているぐらいの言わば『有限実行型』。
 その2つが他ならぬ、滝を(結果的にだが)助けるためだったことを知っているだけに、まさか今更筑波と別行動を、とは考えつかなくても無理はない。

 首をかしげた滝が「あいつら喧嘩でもしたのか?」と呟くと、村雨からのやんわりとした否定が入る。


「どうせなら自分の強力(ごうりき)を有効利用したいから、って、復興作業の方に協力しているらしいぜ。
残党一掃は筑波さんたちに任せておいても、もう大丈夫だろう。だから、今自分は、自分の手が届く範囲で人助けをしたいんだ───そう言って筑波さんを送り出したんだって、この間メールで聞いた」


 村雨にそう言われ、滝はここへ来るまでに見た、少しずつ復旧しつつある街の様子を思い出す。
 諍いつつ、文句を言いつつ、建設現場で働く人々は、それでもどこか前向きで、明るくて。バダンを倒したあの時より殊更、日本が平和になったんだ、と実感させてくれる彼らの姿。

 がんがんじいも、だから、少しでも彼らの力になりたいと、戦線離脱を決意したのだろう。そして筑波もきっと、笑顔で送り出したに違いない。

 ただ、それでもどうしても、筑波たちのことを思い出してしまう時もある。戦いにはケリがついたとは言え、ふとしたことで彼らの身を案じてしまう。とは言え、事情を知らない一般人の前で彼らの話題を持ち出しては、差しさわりが生じる。

 だから、心置きなく話が出来るここへ来たのだろう。恵方巻きの厄落としを、半ば口実にして。


「ほ〜い! おまっとうさん! 出来たで、ワイらの最高傑作!」
「見て見て良さん! 綺麗なの出来たんだから」


 それでは、遠慮なく。
 厄落とし効果抜群そうな、英雄たちの恵方巻きを戴こうか。


《終》

◆おまけ◆

「で・・・どーするんだよ、こんなたくさん作って。そんなに食えねえぞ俺は」
「そやかて、せっかく酢飯が仰山あったから、使い切らんともったいいし」
「そ、それにZXとスカイだけだと、偏り過ぎでしょ?」
「まあまあ。万が一食べ切れなくても、診察所に来る患者さんたちに配ればいいだろう?」
「配るのか? 俺が全部食うのは、ダメなのか?」
「・・・村雨、お前どんな食欲してんだよ・・・」



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※一日遅れのネタでごめんなさい。後書きは翌日名義の欄にて。




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