ちゃんちゃん☆のショート創作

ちゃんちゃん☆ HOME

My追加

いつか来たる結末、されど遠い未来であれ(1)
2008年12月01日(月)

※今度劇場版が公開される、BLEA●Hの二次創作です。で、これは、誰が何と言おうとノーマル話です。一応一織前提で、ルキアと一護の関係はあくまでも家族感覚です、念のため。


いつか来たる結末、
されど遠い未来であれ(1)



 変な例えで悪いが。
 時々俺は、所謂『災難』とか言われるものには、ひょっとしたら意思があるんじゃないか、って思ったりするんだ。

 何ていうか・・・一難去ってまた一難、ってヤツ?
 とんでもねえ出来事に出くわして、それを何とか解決して。気が緩んでヤレヤレ、と胸をなでおろしてた直後、その隙を見計らったかのごとく足元をすくっていく───そんな、悪意ある意思が。

 むろん、それは人間の側の身勝手な言い分に違いない。
 悪いのは、目の前に訪れたつかの間の平穏につい油断しちまう、人間の心の方なんだろうけどな。


*********

「黒崎くん、今日黒崎くんのおうちに寄ってもいい?」

 その日の放課後。授業も無事に終わり、後は家へ帰るだけだった俺に、遠慮がちに声をかけてきたのは井上だった。
 啓吾辺りに聞かれたら大騒ぎされる、って心配がさすがにあったんだろうか。俺が校門を出、ちょうど啓吾たちと別れてからのタイミングで。

「へ?」
「あ、ち、違うの、遊びに行きたいんじゃなくって、ちょっと寄りたいだけ。用事が済んだらすぐ帰るから」

 唐突な申し出で、戸惑う俺に慌てたんだろう。変な勘違いをしながら、井上はカバンの中から1つの可愛らしい包みを取り出す。

「ほらこれ、コン君が欲しいって言ってた生キャラメル! 2個セットで売ってたから、あたしの分と合わせて買っちゃったのv」
「・・・あーーー」

 言われて思い出す。

 以前何かの弾みで、俺と一緒にいたコンと井上が話をしていたことがあった。その時好きな食べ物の話になり、コンが「一度生キャラメルってヤツを食べてみたい!」って妙に力強い主張をしてたんだっけか。
 そしたら井上がお人よしにも、「平日なら置いてあるお店があるから、今度買って来てあげようか?」なんて言い出して、2人してヤケに盛り上がってたな。

 あれは確か、井上が虚圏へ浚われる直前の話。それからあまりにも色んなことがありすぎて、俺は完璧に忘れ果ててたんだが───井上のヤツはちゃんと覚えてたんだ。律儀なヤツ。

 ちなみにコンは、さっきも言ったとおりキャラメルが好物らしい。で、俺はチョコレート。お互い好きな味覚が微妙に違うもんだから、たまにあいつ、俺が食いそうにもないお菓子なんぞを、俺が自分の体を預けている間に買ってきたりするんだよな(キャラ△ル■ーンとか)。こっそり押入れの奥に隠してるけど、バレバレだぜ。
 そーいや、最近はあまりそういうことがねえな。さすがにあいつも、ぬいぐるみ姿で買い食いは出来ないってだけだろうが。

 何とも複雑な気持ちを抱きつつ、俺は井上を連れて家へ帰った。むろん、玄関先で妹2人と親父に出くわしたせいで、いつもの恒例行事(詮索&覗き&盗み聞き立ち聞き阻止☆)を経た上で、自室へ彼女を上げる。

「お邪魔しまーす。コンくーん・・・あれ?」

 予想通り、コンは部屋にはいなかった。
 最近あいつは、やたらとアチコチへ出歩いてるらしい。それも、ぬいぐるみの格好のままで。代行証のお陰で、俺がコンを飲み込まなくても死神化出来るようになったからか、ちっとも家でじっとしてやしねえ。また泥んこのボロボロになっちまっても、知らねえぞ?

 一方井上は、目当てのコンがいなくて、途端に落ち着かなくなる。

「あ、あの、そしたらあたし、帰るね? 黒崎君、悪いけどこれ、コン君に渡しておいてくれる?」

 まるで逃げるように部屋を出ようとするもんだから、俺は泡を食って止めにかかった。

「ま、待てって。あいつもきっと、お前から直接手渡しでもらった方が、断然喜ぶと思うぜ?」
「え?」
「だ、だから、その・・・もうしばらく、そう、あいつが帰って来るまで、ここでゆっくりしていかねえか? も、もちろん、井上がイヤじゃなければ、の話だけどよ」

 照れが手伝って、ついついそっぽを向きつつ、それでも俺は言うべきことは言う。
 すると井上のヤツ、見る見る嬉しそうな笑顔になって、「うんっ!」と返事をしてくれた。

 ・・・やっぱり可愛いな、畜生。

 ちょうどタイミングよく遊子がジュースを持ってきてくれて、そのまま俺と井上はこの部屋でたわいもない話で盛り上がったのだった。



 実は、あの虚圏の出来事をきっかけに、俺は晴れてこの井上と「お付き合い」している。
 もともと、彼女から俺へ寄せられている好意が、ひどく心地のいいものだったことと、もう1つ。彼女の視線やら関心が俺以外の男に向けられる、ってものに、正直言って腹立たしさしか覚えることが出来なかったことで、そういう方面に疎かった俺でも自覚しちまったんだ。
 自分が井上に惚れてる、ってことに。

 皆と一緒に無事、虚圏から戻ってくることが出来てから、俺はなけなしの勇気を振り払って井上に告白したんだが───破面の連中と戦ってた時でも、あんなに切羽詰った気持ちになったことはねえ───、まあ、あれだ。
 俺の言葉を全部聞き終った後の井上ほど、あれほど綺麗で嬉しそうな涙と笑顔を見せてくれたことは、きっとなかったな。自惚れでなく、そう思う。


 結局コンのヤツは、俺が井上を引き止めている間には帰って来なかった。俺としては、思いもかけず長い時間彼女と一緒に過ごすことが出来て、良かったには良かったんだが。

 帰り際。

「あの、よ、井上。今度はその、コンだけじゃなくて、俺に会いに来てくれたら嬉しいんだけど。ってか今度、俺もお前ん家に遊びに行って、良いか?」

 さっきの勘違いだけはきっちり訂正せねば、と上擦る声を懸命に宥めつつ俺が告げた言葉は、それでも何とか井上に通じたみたいだった。
 何故なら彼女は、ちょっと頬の辺りを赤く染めながら、弾けるような笑顔を見せてくれたから。

「・・・! もちろん! 遊びに来てね!」

*********

 井上が帰り。
 遊子の夕食を皆で食べ、自室で寝るまでの時間を寛いでいた俺の耳に、奇妙な声と言うか、物音が飛び込んで来る。

「・・・しょ、うん、しょっと・・・」

 ずりずり、と、何かが壁を登っているような音と、小さな息遣い。泥棒、と言う可能性もあるにはあるが、それにしちゃ重量が軽すぎるだろ、音から察するに。

 ったく、やっと帰ってきやがったのか、コンのヤツ。

 読んでいた雑誌を脇へどければ、目の前の、鍵のかかっていない窓がそーーっと開かれるのが見えて。更にそこから、見覚えのあるぬいぐるみのペタンコな体が現れたのを確かめてから、俺は強引に室内へと引きずり込んだ。

「わわっ、何だ何だ!?」
「何だじゃねえよ。今何時だと思ってやがんだ、コン」
「一護!? いきなり何しやがんだよ、吃驚するじゃねえか」

 いつもの喜怒哀楽の激しさで、俺の同居人・コンは人の親切? を罵りやがる。

「何しやがる、じゃねえよ。夕方まで井上が、お前のこと待ってたんだぜ? いつもは何も言わなくても井上のところへ行きたがるくせに、何で今日はいやがらなかったんだよ」
「へ? 井上さんが、俺に何の用だ?」
「前にお前、生キャラメルが食いてえとか言ってただろうが。今日手に入ったからって、わざわざ届けてくれたんだぞ?」

 自分は貰えなかったやっかみも半分込めて、可愛らしい包み紙に包まれた生キャラメルをコンに押し付ける。ご丁寧にも『コン君へv』て書かれた手作りカードまで添えられてやがんだよな、これ。

「・・・・・?」

 この時、俺は少しだけ違和感を覚えた。
 てっきり「井上さんがこの俺様のために〜vv」とか何とか感激しながら喜ぶだろう、と思っていたのに、何故かコンが一瞬黙り込んだからだ。そして受け取った贈り物をしばらくじっと見つめていたのだが、「そっか・・・覚えてたのか」とポツリ、呟く。

 その口調は、もちろん嬉しさも込められていたものの、妙に静かで、どこか空虚なものをも感じさせるもので。
 ようやっと顔を上げた後、コンが俺に向かって言い放った言葉に、俺は更に驚くこととなる。

「・・・悪かったな、一護。それと、ありがとな。井上さんからも、お前からお礼言っておいてくれよ」
「はあ? あのなあ、俺に言付けてどうするんだよ。いつでも良いからお前が直接、礼言えっての」

 詫びやお礼は、出来るだけ人を介さず、直接本人へ。それが人に対する、最低限の礼儀ってもんだろ。
 大体、何かすると井上に会いたがるのだから、口実を作ってやりさえすればコンは自主的に会いにいくだろう───そう踏んでいたのに。

 予想に反してコンのヤツ、やけに冷え冷えとした視線を俺に浴びせやがった。

「一護、お前なあ・・・折角俺様がチャンス作ってやってるのに、何ボケたこと言ってやがるんだよ?」
「チャンス? 何のだよ」
「お前が井上さんに会いに行く口実、だよ。あーやだやだ、これだからお子ちゃまは」
「余計なお世話だ☆ 大体俺は、今日帰り際にちゃんと、井上とまた会おうって約束してんだよ」
「ほーぅ、おめーにしちゃ上出来じゃねえか。彼氏になりゃ、さすがに甲斐性も出てくるってもんだな、おい?」
「うっせ。とにかく、井上にちゃんと礼言えよ?」
「・・・・・・」
「返事は?」
「わーったよ。そのうち礼言いに行くって」

 ・・・何でそこで、いかにもめんどくさそうな言い方をするんだよ、この野郎。井上の好意が重荷とでも言いてえのか?

 俺のもやもやした心境をよそに、コンは「あー疲れた」と言いながら、背中に背負っていたものを床に降ろす。見ればそれは、風呂敷包みだった。

 ああなるほど、だから家の壁を登ってくる時、少しだけ手間取ってたのか。
 ・・・じゃなくて。

「お前まさか、どっかでお菓子でも買い込んできたのかよ? ああ、だからか? 折角買って来たお菓子が食べられなくなるから、井上から貰ったキャラメルがあんまり嬉しくなかった、ってか?」
「え?」
「けど、ちょっと待て。お前、そのぬいぐるみの格好で、どうやってお菓子買うンだよ?」
「あ、いや、その・・・」
「って、そんなの分かりきってるか。浦原商店なら、その格好でもOKだもんな」
「・・・・・・。分かってるなら、最初から俺に聞くなよ一護。大体、何だよその態度。てめえで聞いといて、てめえで答えんなって。質問の意味、ねえじゃねえか☆」

 イヤ、質問しながら理解する、ってこと、日常でも結構あるだろうがよ。

 もっとも、俺のそんな受け答えがコンには気に食わなかったらしくて。
「もー何でもいいから、寝るっ。俺の荷物触るなよ?」と風呂敷包みを引きずりながら、押入れへと引っ込む。

 どうも最近、反抗的だよな、コンのヤツ。俺がコンなしでも、代行証で死神化できるのが、よっぽど気に食わねえんだろうケド。

 実際、虚圏から戻ってきてからこの方、ほとんどコンに体預けたこと、なかったしな。一度だけ預けたことがあったけど、あの野郎、置いていった代行証勝手に使って抜けやがったし。夜でこの部屋だったから良かったものの、もし他のヤツに見られてたら救急車騒ぎだったぞ、アレは。

 押入れの中からごそごそと言う音が聞こえていたけど、それもほんの数分のこと。そのうち唐突に静かになったから、俺はコンがそのまま寝入ったのだろう、と判断したのだった。


 やっと訪れた、平安な日常。
 いつも通りの、穏やか・・・と言うのとは少し違うが、死神代行を務めながらの、毎日。
 以前とは多少の変化はあったにせよ、それらは俺が目くじらを立てるほどのものでは、決してなく。

 ・・・だけど。
 俺は後日、心底悔いる羽目に陥るのだ。
 この夜、僅かながら現れていた違和感に気づいていながら、何の手立ても打たなかった、自分を。

≪続く≫






BACK   NEXT
目次ページ