ちゃんちゃん☆のショート創作

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Darling(3)SD・流×彩?
2001年09月05日(水)


 生徒指導室での話が終わった頃、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。学校に残っている生徒も、もうわずかである。
「もうこんな時間か・・・」
 急いで下校すべく、流川や彩子と一緒に廊下を歩いていた二階堂だったが、ふと思いついたように2人を振り返る。
「・・・そう言えば流川。彩子くんの家って、君の帰宅コースの途中なんじゃなかったっけ?良かったら彼女の事、送って行ってあげてくれないか?」
「え」
 どうしようか、と考えたのは一瞬だけ。
「あ、あの、キャプテンいいですよ。確か流川は自転車通学でしょ?2人乗りするのもどうかと思うし、自転車引かせて一緒に、って言うのももっと悪いし・・・」

 ───彩子が慌てて断ろうとしたのを見て、逆に決心が固まる。
「別にいーけど」
「そうか。助かるよ。やっぱり夜に女の子を1人で帰す、って良くないからさ」
「そんな、大げさですよ」
「こう言う時の好意は、受け取っておくもんだよ。な?頼んだよ、流川」
 何やら思わせぶりに、二階堂がこちらへ目配せをした事も、引き受けた理由の1つではあったが。


 とりあえず明るい玄関前で彩子には待っていてもらい、いったん流川は自転車を取りに自転車置き場へと向かっていた。くるくると指先で鍵を弄び、ボーッと何も考えないまま。
 が、自転車を引いて彩子のところへ戻ろうとした時、何やら騒がしい気配に眉をひそめる。
「どうして塚本さんをフったりしたんですか!?」
 そんな、怒りにも満ちた弾劾の声を耳にした瞬間、流川は走り出していた。

 状況は予想通りだった。何とか見覚えのある女子バスケ部員が、一斉に彩子へ詰め寄っている最中に、流川は到着したらしい。
「塚本さんがあんなに悲しそうにしているなんて!ひどいじゃないですか!」
「そうよ!どうして交際してあげないのよ!」
 全員、塚本の取り巻きっぽいことをしていた女子ばかりだ。彩子が言い返さないのをいいことに、かさにかかって一方的に責め立てている。
 二階堂が心配していたのは、きっとこの事に違いない。

「ちっ」
 どうして女というのは、こうもすぐツルみたがるのだろう。
 それに、立場の弱い1人を大人数でつるし上げるとは、卑怯もいいところではないか。
「おい!」
 流川は鋭く、そうとだけ言って割って入った。
「る、流川くん!?」
 突然の乱入者の存在に、今まで言いたい放題だった連中が一気にひるんだ。
「・・・流川・・・」
「遅れて悪いっす」
 言うが早いか、流川はむんず!とばかりに彩子の手を掴むと、とっととその場を抜け出してしまう。

 ───呆気にとられた一同が、予想外の、いかにも美男美女の取り合わせに大騒ぎするのは、それからしばらくしてからのことであった。


「・・・サンキュー流川。これで2回目ね、あたしのこと助けてくれたの」
 自転車を引き引き、家路を急ぐ流川に並んで歩きながら、彩子はそう、切り出した。
「何もしてねーっす」
「・・・じゃ、そういうことにしておこうっか」
 彩子は流川の無愛想さを気にした風ではなかった。それどころではない、と言う事もあるだろうが。

 ───うっとおしい女(ヒト)じゃねーんだな。

 そう、流川は漠然と感じる。
 今まで彼の周囲にいた女たち(母親除く)はみな、すぐに自分のペースに持って行こうとするのが常だった。何とかして口をきかせようとか、こうしてほしいああしてほしい、と行動を制限しようとするか・・・。
 が、彩子の場合、そういう押しつけがましいところはあまり見うけられない。正直な話寝ていない流川が、こんなに自然体で異性のそばにいられるのは、母親以来のような気がする。
 何故だろう? と考えて、その答えに思い当たった流川は、少しばかり憮然とした気分になった。

(先輩は、俺を男だって意識してねーからだ)

「どうしてなんだろ・・・どうしてこんなことになったんだろ・・・あたしは塚本先輩のこと、尊敬ならできるのに。それだけじゃ・・・どうしていけないんだろ・・・?」
 流川の心境を知ってか知らずか、彩子はいつしかそう呟き始めている。
「不思議なんだけど・・・どうしても考えつかないのよ。あたしがただ1人を応援してる姿ってものが。あたしが好きなのは、バスケットボールを追いかけてる『みんな』なんだもの・・・。ううん、ひょっとしたら、『みんなが』追いかけてるバスケットボールの方かも、知れない。ドキドキするの。ボールを掴む時の手に当たった感触。ボールが飛んで行くその方角に。・・・おかしいわよね、何だか、バスケそのものに恋してるみたいで・・・」

 流川は合点が行く。だから、あんな風に言ったのかと。

 ───あたしにとって・・・バスケは恋人みたいなものなんです。

 それは流川も同じことだ。だけど決して、自分がおかしいとは思わない。
 だから、彩子にもそう感じて欲しくはなかった。
 なのに彼女の独り言は、そのうち妙な方向へと曲がって行く。

「やっぱり・・・塚本先輩に言われた時、交際OKすれば良かったのかな・・・そうすれば、部のみんなにも迷惑かけずにすんだのかなあ・・・」
「ンなことねー!!」
 思いもかけず大きくなってしまった声に、流川は自分でも驚いていた。顔には出さなかったが。
「ご、ごめん、愚痴るつもりはなかったのよ」
 今まで無口だった後輩の反論がよほど信じられなかったらしい。どうやら彩子は「聞かせられたくもない愚痴を延々聞かされた事」で流川が怒っている、と解釈したようだ。

「そう・・・よね。流川みたいに真面目にバスケをしてる人間にして見れば、ものすごく不真面目よね、今の。もう言わないわ、安心して」
 その言葉通り、彩子は黙り込んでしまった。
 だが当然のことながら、問題が解決したわけではない。口に出さないだけ、心にためこんで苦しそうな彩子を見かねて、流川は思わず言っていた。
「・・・勝てばいー」
「え?」
「先輩抜きで勝てばいー」
「流川・・・」

 流川はゆっくりと顔を上げた。
 ちょうど同じくらいの高さにある彩子の目を真っ直ぐ見据え、流川は言う。強く。
「負けねーから」

 歩みは止まっていた。
 流川の言葉の意味をゆっくりと噛み締めた彩子は、ほんの少しだけ、泣きそうな顔になった。
 だけど、すぐに笑顔。
「・・・・ありがと」


 それから彩子を自宅まで送り届けた流川は、1人夜の道を自転車で走りながら考えていた。
 きっと彩子は、自分の言った事は単なる慰めだと思った事だろう。
 ちょっと手の届かない、誇大妄想みたいなものだと。単に彼女を励ますために口にした言葉なのだと。
 ───それでも彼女は笑ってくれた。今は・・・それだけでいい。
 流川は、そんな風に思える自分が少し不思議で、それと同じだけ誇らしかった。


(続)



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