moonshine  エミ




2003年11月12日(水)  雨に打たせる

 水曜日、朝、実家に電話する。
「あー今日ね、夜ご飯食べさせて」
「食べたいものある?」
「肉」

 会社からだったので手短にすませ、切ってからしまった、と思う。
 接頭語(ちがう)として『牛』をつけていなかった。
 大丈夫だろうか。

 季節の変わり目には長い雨があり、この季節のは“山茶花梅雨”というらしい。
 天気予報で言っていた。
 へぇー。
 この日も冷たい雨。

 社を出てまっすぐ家に帰ると、果たして燦然と用意されていたのは牛肉だった。
 ほ。
 ありがとうお母さん。
 ニコニコで食べる。食べ過ぎる。
 く、くるしい。
 パン屋さんのパンやら、皿やら、綿棒やらをもらって、電車代の元はしっかりとれた。
 おみやげ兼誕生日プレゼント(一ヶ月半前だよ)として、縦型の掃除機をもらう。
 
 ちょうど帰ってきた父親が、家に上がる前に駅まで送ってくれる。
 3分の再会。
 改札口を通ってから、部屋の鍵を実家に忘れてきたことに気づく。
 取りに行く、と電話をすると、母親がもってきてくれる、という。
 悪いなあと思いながら待っていると、急に雨足が強くなる。
 傘をさした、風邪の治りかけの母が登場。
 実家に滞在したのはわずか一時間、その間も母親というものは少しもじっとしていない。
 やれ風呂が湧いただの、このパンを、皿を持っていきなさいと詰め物だの、なんだのかんだの。
 ごめんね、お母さん。

 一ヶ月に一度くらいだと、いくらでも優しい気持ちになれるものだ。
 そこには少しの後ろめたさ。
 親孝行、難しい。
 本当は、一緒に暮らして、夜は早く帰って、病気をせず心配をかけず、
 毎日の生活の中でいろいろなことを手伝ったり、話したり、
 親が望んでいる親孝行とはそういうものだとよくわかっている。
 それができずにまた家を出てしまった。
 今の私の生活では、貯金だってできやしない。
 うちは自営業。お金はない。退職金なんてもってのほか、年金も怪しい。両親はもう還暦。
 いつか親に楽をさせてやれるだろうか、と思う。
 不安、忸怩たる思い、いつも頭の隅にあるけれど自分の楽しみを追っている私だ。
 親不孝かなあ、やっぱり・・・。





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