moonshine  エミ




2003年03月06日(木)  スジ

 前任者が退社してから、私が担当、先輩が責任者になった仕事。先輩は、従来と少しやり方を変えた。

 会計監査の一環として行われる仕事で、『コンピュータで任意に抽出された』顧客たちに書状を送り、当社が把握している顧客の債務残高と、顧客が把握しているそれとが一致するか確認してもらう。
 それだけのことだが、けっこう厄介なのだ。
 うちの監査に協力してもらうだけで、手間こそかかれ、顧客自身には何のメリットもない。法人印をきっちり押してもらわないといけないし、いろいろな事由で、当社と顧客の把握している残高に差異が生じることもしばしばだ。顧客だっていろんな会社があり、大きな会社はこういうことに慣れていてお互い様だと思ってくれる傾向にあるが、家族経営のような小さな法人もあって、経理が迅速に対応してくれなかったりもする。
 こういうご時世なので、長期にわたっての支払いが困難になり、不規則な支払状況や延滞が生じて、それで何十とかいう数の契約があると、顧客にとっては債務の把握だって楽ではない。

 そんなわけで、前任者は「揉めそうな気配のある顧客には、最初から出さない」ということに努めていた部分がある。
 しかしこれは、
『全ての債務者に対して、きちんとした残高を計上しているか調べるのが目的。
 しかし、全債務者に問い合わせるのは物理的に困難なので、ランダムに一部(といっても、百以上はある)の債務者を抽出する』
 という監査の基本に、厳密に言うと従っていない。まあ、少しくらいの融通は、監査がわもきかせてくれるのが一般的なのだろうが・・・。

 今回、責任者になった先輩は、
「事前にこちらが書状を送付する顧客を選ぶことは、極力しない」
 という方針をとった。
 それは、監査の基本に忠実な仕事をするためであり、また、送付作業までの余計な手間を省くためでもあった。監査側は、当然もともと「ランダムな抽出を!」という方針なので、ランダムに抽出された顧客に「この顧客には送りたくありません」という社の意向を納得してもらうためには、いろいろな材料を用意しいちいち交渉しなければならないからだ。

 顧客を受け持つ営業担当者などからは、いくらかの反発も出た。「いつもここには送ってなかったじゃないか」「ここに送っても、絶対に返信は来ない」「ここは経理がずさんな会社なので、絶対に確認に手間がかかる」
 彼らの言い分も分かる。
 でも、先輩が穏当に監査の基本方針を説明し、結局、今回はあくまでランダム抽出にこだわって、送付した。
 懸念された顧客からも、大半はきちんと問題なく返信が来た。私たちは胸を撫で下ろした。
「やっぱり、やってみて正解だった」
 
 中には期日を過ぎてもまだ返信が来ていないものもある。こちらとあちらの残高に差異が出て対応に苦慮したものも、いくつかある。
 しかしそれは今回に限ったことではない。こちらがいくら顧客を選んでみても、こちらの予想を裏切る顧客が、返信してこなかったり、差異を問い合わせてきて手間がかかったりということは毎回で、今回、とりたてて問題の数が多いわけではない。
 だが、差異が発生したので調査する旨を営業担当者に伝えると、
「だから、最初からここには出すなと言っただろ」
 という言葉が返ってくることもある。
 やはり、それを聞くといい気持ちはしない。

 繰り返すけど、もちろん彼らの言い分も分かる。
 だいたい軽い気持ちで言ってるのかもしれないし、彼らだって自分の部門の仕事がいちばん大事で、監査を重要視しないのも当然かもしれない。
 でも、私たちは間違ったことをしてるんじゃない。仕事なんてバカ正直にやる必要なんかない、と言うかもしれない。でも企業会計は近年ますます厳密さ、透明性、公正さを求められているし、私たちは
「どうせ手間をかけるなら、事前に弄する小細工よりも、筋を通してから後にかけよう」
 というかけ声(?)でやった。筋を通したから、いま手間がかかることがあっても、「自分たちで決めてやったことだから。」と割り切れるし、先輩も辛抱強く責任感強くあたってくれる。一見めんどうな差異が出たって、必ず判明する。うちの経理は、債権をきちんと正しく把握してるんだから。やっぱり、仕事ってこういうふうにやったほうが気持ちがいい。
 
 まあ、それぞれに立場があるんだし、周りの言うことをそこまで気にしてるわけじゃない。でも新しい方法をとるってことは、こんな小さなことでも、どこかしら、波風たつものなのね。
 なかなか含蓄が多い業務だった(まだ終わってないけど・・・とほほ)
 いいやいいや。

 今日からの電車本は、宮城谷昌光『玉人』という短編小説集。(新潮文庫)
 一年にいっぺん、たぶん四度目の読み返し。いいんだよ、この本がまた!





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