moonshine  エミ




2003年02月14日(金)  汚す手、大きく、いさぎよく

 ここしばらく、会社のビルではとび職人さんたちが仕事をしている。
 当然だがこの人たちはすごい。高いところに足場を組んで、ひょいひょいと渡っていく。
 違うフロアに行くときに外の階段を上り下りすると、彼らの仕事ぶりが生で見られる。すごい。なんとなく、おごそかな気持ちになる。
 いつも危険と隣り合わせだ。彼らにとってはそれが日常だろうから、いちいち意識したりしないのかもしれないけど、やっぱり心の奥底の、仕事に向かう姿勢、そして生き方にまで関わっちゃうような心の持ちようが、私たちとはきっと違うんだろうなあ、なんて漠然と思う。
 どんな職業がエラいなんて言う気は勿論ないけれど。
 自分の体そのものを武器に働く人たちは、危険に晒されているから刹那的な生活、いわゆるその日暮らしとかになりがちだったりするのかもしれない。
 でも彼らは、私にはとても潔く見える。
 
 危険を冒すというほかにも、やっぱり仕事って、「どれだけ手を汚すか」って部分があるように思う。
 趣味と違ってそこが辛いし、でもそこに意志とか良識とか、省みて恥じて、なお卑屈にならない心とかがあれば、うんとかっこいくなれる可能性がある・・・と思う。
 
 半月と少しメインでやっていた業務、今日こちらからのアクションを投函した。今後は先方たちのリアクションを待って、調整していく。
 これまでのメモを、来年の自分のためにまとめた。来年、自分が担当するかどうか分からないけど。注意点とかこうすればよかったとか、綴り始めるとなんとなく筆が(キーボードを打つ指が・・・)乗って、ついつい細かく記してしまって、
「何年か経ったら、こんなことたいした業務だとも思わなくなるんだろうけど、なんだか2週間いろいろあったなー。いろいろ、やったなー。」
 なんて、少しだけ感慨深かった。
 かっこ悪いこともいくつかやった。手を汚す、には至らなくても。
 周りの人が、いろいろ手を汚してくれた。頭、上がらないな。

 それで何だかほっとして、久々な気がする、一人でのんびりの寄り道。
 交通センタービルに入っている紀伊国屋と新星堂に行く。
 
 古典みたいな海外の推理小説を読みたいなぁと少し前から思っていて、
 レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』とか、エラリー・クイーンの『Xの悲劇』とか、いろいろ見てはいるんだけど、どうにも手ごわそうでちょっと手が出せない。それに、翻訳モノって、ほんと高いよね!
 で、何となく直感で、ピーター・ラヴセイという人(多分有名。)のミステリを買った。『殿下と騎手』(ハヤカワ・ミステリ文庫)。面白そうだ。
 それから、江戸時代の生活や風俗について図解なんかも含めて面白く紹介している本も、前から気になっているんだけど、これまたけっこう高かったりして。(高いっていっても1000円以下だけど・・・私って・・・・)
 こちらは、先月文庫化されてからちょっと狙ってた、『斑鳩宮始末記』(黒岩重吾 文春文庫)を購入。って、全然江戸じゃないやん! 聖徳太子の時代だ!

 新星堂の並べ方はけっこう好きで、ちょくちょく、面白く見回っている。 エイジアン・ダブ・ファウンデーションの新譜とか、フー・ファイターズの企画盤とか、小島麻由美とか、触手の動くもの、気になってたものをイロイロ、じっくり試聴してたら、店員さんに肩を叩かれた。
「すみません、そろそろ閉店の時間になってますので・・・」
 8時を過ぎていた。
 
 ひとり恥ずかしくエスカレータを下って、バスセンターをとぼとぼ歩いて博多駅に向かっていると、大学のときの友人、りょうまくんがバスを待っている。お、と嬉しくなり少し話してたら、すぐバスが来てしまった。これから、仕事のために移動するとのこと。そっか、ラジオだ。
 10月に会って以来だった。彼はその間に結婚した。
 うーむ、と静かに心の中で唸りながら、ホームまで歩く。彼、確たる考えをもってる感じの人で、自分で決めたことに向かっていく力がすごい。と、前から思っていたけど、何だか今日は、りょうま氏がますますキリリと大きく、仕事人に見えた。
 なんか最近、学生時代からの友だちのこと、「しなやかだな〜」って思うことが多いな。みんな、それぞれ悩んでるけど。

 そして電車に乗り込んで、幸田文『雀の手帖』の続きを読んだ。





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