moonshine  エミ




2002年03月28日(木)  神秘の桜

 あちこちで桜が咲いていますね。
 桜といえば

 aiko『桜の時』
 福山政治『桜坂』
 渡辺美里『桜の花の咲く頃に』

 鷺沢萠『葉桜の日』
 坂口安吾『桜の森の満開の下』

 などが思い浮かびます。

 和歌で花、といえばそれは即ち桜をさす、とも言うように
 古今東西、このジャパーンでは春といえば桜。
 桜といえば花見。花見といえば酒

 あれ? 逸れましたが

 桜を見ると何となく思い出すのが、吉本ばななの『N・P』という小説の一節です。
 この小説は小さな世界の中でインモラルな物語が続いていって、死の空気が漂い、なんとなく暗いので、吉本ばなな作品の中でもあまり人気が無いらしい。
 実際、私も初めて読んだ中学生の頃は、なんじゃこりゃ。と思ったものです。
 今では、1年に2、3回は読み返す好きな作品です。ちょっと怖いけど。

 で、少女の頃に、この作品がわからないなりに、とても印象に残っているのが桜のシーン。
 というか、ただ登場人物が桜についてちょっと喋ってるだけなんだけどね、「乙彦」という、外国で生まれ育った青年が、主人公に言う。少し長いが引用します

「初めて日本に来たときの春は雨ばっかりで、
 ちっともいいところだと思えず憂鬱だった。
 でも1回だけ、雨の日タクシーの中から、
 桜を見て感激したんだ。
 空は曇っていて、窓にはこんなふうに向こうが見えないくらい
 水滴がいっぱいついてた。
 その向こうに線路脇のフェンスの緑の金網があって、
 さらにその向こうにやっと、
 桜の桃色があった。いちめんに。
 ぼやけた2重のフィルターを通して初めて気づいた。
 春、そこいらじゅうに狂ったように 
 桜が咲き乱れている日本という国の神秘に」

 蒸し暑い夏場の夜、外では激しい雨が降る。不健康に酔っ払った旅行帰りの青年が、突然主人公の女性の部屋に押しかけてきて、げえげえ吐いたあと、そんなことを言うんです。
 
 それを読んでからもう10年以上
 春が来るたびに 桜を見るたびに
「狂ったように・・・
 そこいらじゅうに・・・
 いちめんに・・・ 
 神秘・・・」
 そういう言葉がぐるぐると頭の中に浮かびます。
 
 花見はあんまり好きじゃありません。
 酒好きの私らしくないようですが、なんとなくあの雰囲気が嫌い。
 
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