日本人選手の海外移籍が増えているが、必ずしも成功が約束されてはいない。比較的成功例の多い野球でも、例えば「カッツ」こと前田は、150キロの速球を持ちながらメジャーに上がれなかったし、故障続きの伊良部や、マック鈴木はマイナー契約になった。メジャー復帰を目指す木田は未だ落ち着き先さえ決まらない。 サッカーではより顕著だ。セレッソ復帰を決めた西沢をはじめ、稲本、高原、川口、そして中田やかつてのカズ、城、名波に至るまで、ゲームにさえ使ってもらえない状態もしばしば。成功例は、オランダに渡った小野と、パラグアイに渡った廣山ぐらいではないか。 しかし、挫折は時に大きな報酬をもたらす。スポーツ選手はよく「うまく行った事より失敗した時の事をよく覚えている」と言うが、これは「なぜ失敗したのか、どうすれば上手くいくか」を真剣に考えたからに他ならない。それによって記憶が強化される=つまり引き出しが増える事になるからだ。 失敗のケーススタディは次なる成長に繋がる貴重な財産だ。挫折した人はそれを恥とせずに自分の今後に活かし、かつ他の日本人にも「なぜ」の部分を語って欲しいと思う。
イチローの「ケーススタディ」(1/22)
きょうのコラムでは「失敗」や「挫折」から得るものが大きいと書いたが、ことイチローに関してはちょっと違う。彼のインタビューにはしばしば「予測の範囲です」というセリフが飛び出す。日本の野球とメジャーの野球の違いやそこから生じる戸惑いなどについてのあらゆる質問に対して、彼は概ね上記のように答える。 彼の場合は「失敗から学ぶ」のではなく、綿密な分析に基づいて周到に準備し、「失敗しないように」するタイプだ。仮に何か予測と違う事態が生じても、マイナーテェンジ程度で素早くアジャストできるようにしておける凄さがイチローにはある。彼にとってのケーススタディとは、確認作業に近いものがあるのかも知れない。 凡人は成功を繰り返すと、例えそれがまぐれであっても反省や努力を怠りがちだが、イチローは常に向上心や探究心を持ち続けることができる。成功の中でも浮ついた気持ちにならない所もまた、彼の良さなのだ。
|