2001年11月16日(金) |
許されない NHKの「よっしゃ、よっしゃ」 |
来季の東京ドームでの巨人戦・計10試合がNHKの総合テレビとBSハイビジョンで放送されるという。 同カードはこれまで日本テレビが独占してきたが、試合が延びた場合の延長枠が30分しかなく、ゲームの結末が収まらない事が多かった。巨人の渡辺オーナーは、今季の巨人戦中継の年間視聴率が史上最低の15.1%に低迷した原因の一端がこの放送時間切れにあると考え、完全中継を日本テレビに申し入れたが1時間の延長を引き出すのが限界だった。そこで完全中継可能なNHKにも巨人戦を放送させて凋落傾向に歯止めをかけようとしたわけだ。 さて、渡辺オーナーからこの話を持ちかけられたNHKはどうしたか。なんと海老沢会長が「職権で」これを承諾してしまったのだ。つまり「よっしゃ、よっしゃ」で簡単に決めてしまったわけだ。だがこれはおかしい。放送権を買う金は視聴者から集めた受信料である。1試合1億円を超えるという巨人戦の放送権に多額の受信料をつぎ込む事に、NHK内部で何の議論もなされないというのは余りに乱暴ではないか。 NHKはこれまで巨人戦以外のカード、例えば民放では殆どやらないパ・リーグのゲームも放送してきたし、メジャー人気にも貢献してきた。そこに視聴率やスポンサーに捉われない公共放送の存在価値があったはずだ。なのにその枠が削られる危険をあえて冒し、かつ大金を投じてまで巨人戦を放送する合理的理由があるのだろうか。 巨人は自社系列の放送メディア=日本テレビを持ち、これまでは死んでも放送権を他局に手放さない姿勢を貫いてきた。そのくせ人気が落ちたからといってNHKに泣きつく節操のなさ。そこには、他人のフンドシを借りて「自分の球団」=巨人の人気を少しでも高めようという浅ましい思惑しかない。事の発端は巨人戦の放送時間延長を巡る読売グループ内=読売新聞社VS日本テレビの内紛でしかないわけで、その始末も自分達でつけるのが本来の筋である。渡辺オーナーは、口では球界全体の事を考えて完全中継に道をつけたと恥ずかしげもなく言うが、実際は巨人の事しか頭にないのは見え見えだ。野球というスポーツへの愛ではなく、企業の論理にのみ衝き動かされての放送権譲渡であることは、火を見るより明らかだ。 そんな利己的な思惑のためにホイホイと公共放送の軒先を貸す海老沢会長の独裁的決断は、決して許される事ではない。また、視聴者は今回の放送権料獲得にいくらの金が投じられたか、情報公開を求めるべきだ。NHKがこれに応じない場合、受信料不払いも辞さないという強い態度で臨まなければ、スポーツ放送の公平性はどんどん損なわれていくに違いない。
蛇足になるが、そもそも巨人戦の視聴率が下がったのは、単に試合終了が放送できないからではない。オーナー自身を含めた巨人のエゴイスティックな振る舞いがプロ野球界全体への嫌悪感を募らせたのだ。また、百歩譲って結末が見られない事が視聴率低下の一因だとしても、それは放送枠の拡大ではなく、だらだらとした試合時間を短縮する方向で解決を図るべき問題である。例えば試合時間がこのまま4時間近くになったとしたらそれに合わせて放送時間も延ばすというのか? ナンセンスな議論である。 渡辺氏が球団オーナーとしてやるべき事は、系列のテレビ局に圧力をかけたり、横車が通らないと見るやNHKに泣きついたりする事ではない。自分のチームにキビキビした試合運びや気持ちのいいプレーを求める事なのだと私は思う。もっと野球そのものの魅力を引き出すような決断や、指導力の発揮を望みたい。
もう一度、あのグラウンドに(11/16)
週明けの19日、プロ野球のドラフト会議が開かれる。指名を待つ選手たちはドキドキして眠れないだろうが、それに負けず劣らずドラフトの結果を息を詰めて見守る男たちがいる。 10月30日、ナゴヤ球場でプロ野球界初の「合同トライアウト」が行なわれた。各球団で戦力外とされ自由契約になった選手たちの合同入団テストである。集まったのは22歳から36歳の投手22人・野手16人。参加者の中には村上嵩幸外野手(西武)や杉山賢人投手(横浜)、小池秀郎投手、佐野重樹投手(ともに中日)らもいる。 この日のテストで例えば元近鉄の谷口功一投手には横浜が、元巨人捕手でキャンプ中のセクハラ問題でクビになった杉山直輝氏には台湾球界や横浜・近鉄などが興味を示したと報じられた。 だが、今のところ採用に向けての本格的な動きはない。なぜならドラフトが終わってみない事には補強の外枠が決まらないからだ。つまりドラフト次第で採用になる選手もいれば、いらなくなる選手もいるわけだ。切実な問題である。 野球への思い絶ち難く、もう一度グラウンドに戻る夢に賭けた男たち。彼らにとっても眠れない夜が続く。
|