つたないことば past|will
任務のない日の昼下がり、僕は忍者ア力デミーにある図書館で のんびりと本を読んでいた。 当然、手の中にある本は図書館のものではない。 (ヒマだなー) 心の中でぼやいて読んでいたイチャイチャパラダイスを放り出した。 図書館の中に僕以外の人影はない。 ひと眠りさせてもらおう。 そう思って目を閉じた時、ふいに人の気配がした。 扉が開いた様子はない。 奥の方の窓が開いてたからそこから入ったのだろう。 (さすが忍者の学校) そんな事を考えながらゆっくりと気配の感じる方へ近づく。その先 にはすっかり見慣れた少年の姿があった。 「やあサスケ君」 「うわッ!」 僕の突然の出現によほど驚いたのか、サスケは持っていた本を バサリと落とした。 「カッカカシ!?アンタいつからっ」 「ん〜?お前が忍び込んで来るずっと前からいたよ」 あせるサスケから落とした本に視線を移す。 開かれたページは一面真っ青の海の絵だった。 「海かあ。サスケ、海見たいの?」 サスケはちょっと赤くなりながら、前に波の国に行った時は見ただけ だから、と消えそうな声で途切れ途切れ言った。 僕はその言葉の真相を知って、内心にやけた。 いや、本当ににやけたのかもしれない。 サスケが顔をしかめている。僕は構わず話を進めた。 「何、サスケ、海に行きたいんだ?よし、行こう!今すぐ行こう!!」 僕は返事を待たずにサスケを抱えて窓から飛び出した。 「すごいなー、見てよサスケ。ちゃんと水平線が丸いだろ〜」 はるか遠くを指差す僕を見て、どっちが子供だか、と溜め息をつく。 それでも海水に足を浸す姿はどことなくうきうきしてるように見えた。 僕は里を離れる時、秘そかに忍犬を使って三代目火影に海へ行く ことを告げた。三代目が忍犬に持たせた手紙には「時期に忙がしくなる から早く帰って来い」とだけ書き記してあった。 この波の国での任務の事もあったから気を利かせてくれたのかも しれない。 実際千本が刺さったサスケの首は未だ包帯が取れないでいる。 波の国に着いてすぐ、僕とサスケはこっそりと墓参りをした。 もちろん僕達と戦い、そして死んでいった再不斬と白という子のだ。 あの二人は最期までずっと一緒だった。 きっとこれからも。 僕はふと二人がうらやましくなった。 隣りでパシャパシャと水を蹴るサスケを見る。 僕達は一体どれだけの時間を共有できるだろう。 あの二人みたいに永遠に一緒というのはあり得ない。 サスケはいずれ里を出るに違いないのだ。 兄を探すために。 思うにサスケは最初から復讐しようなんて思っていない。兄を探し 出して一族惨殺の真意を知りたいだけなのだろう。本気で兄を殺した がってるようには見えなかった。 でもそんなのは単なる僕の推測だ。 僕はサスケの心の中がまるでわからない。 こんなに近くにいるのに。 あの波の間に間に浮かぶ泡沫のようにつかみどころがなかった。 そしていつか僕の手をすり抜けて消えてしまうんだ。 僕は遠くを見つめる。 空の青と海の青が滲んでその境界線は曖昧だった。 なんとなく僕とサスケみたいだと思う。 空も海も同じ色だけど決して交わることはないのだ。 だから僕達と似てる。 同質だけど混ざる事はない。 そう思い至って涙が溢れそうになった。 「ねえサスケ、手、つなごう!」 「はあ?いやだって・・・あ、おい!」 「大丈夫だって、誰もいないよ」 そう言いくるめて強引に手をつないだ。 あたたかな、子供特有の体温。 はなしたくない。この手を。 僕はずっとこの子をつなぎ止めていたかった。 END 01年10月5日より再録
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