つたないことば
pastwill


2002年05月22日(水)  (思案中小説断片)

「シノの中にも何かいんのな」

空色の瞳は目の前に佇む、子供にしては大柄な少年を臆する事もなく見つめる。
大柄の少年は何の事だ、と低く放つ。

「だってオマエ、体ン中に蟲いるんだろ?オレも」

空色の瞳の少年はポンと軽く腹を叩く。

「ここにいるんだってば」

シノは何が、と言おうとしたけどやめた。
この少年の事情など知った事ではないが、それは紛れもなく重くて、
自分がこの少年と一緒に背負うのは無理だと確信した。

その、酷く悲しげな笑顔で。

まだ10年をちょっと過ぎたばかりしか生きてはいないが、それでもこんな
特殊な一族の中に生まれたからには、世の中の汚くて醜い欲望やどうにも
ならない現実が数え切れないほどある事をシノは知っている。
自分が今、子供だからと言うのも関係ない事も知っている。
中忍試験の第3試験で、日向ネジがヒナタに突き付けた「変わらない現実」も
そのひとつだ。
ヒナタは変われなかったわけじゃない。
しかし敗北という結果が完全に変われなかったという現実だ。
シノにも自分はこの一族の運命から逃れられない「変わらない現実」がある。
だけどそれは産まれた時から義務だと思っていたし、それに不満もない。
自分の体を蟲に貸し与え、その分手足になって戦ってもらう。
何の不満もない。
そう思っていた。


(以下略)





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