死の象徴を染め抜いた海賊旗「ジョリーロジャー」を翻し、 今日も奴らは海を行く。 社会と法のすべてを軽蔑し、死を嘲弄して来た男達にとって 縛り首の恐怖も歯止めにならない。 「そうだ。愉快に短く暮らすってぇのが俺のモットーだ」と豪語する 彼等にとって、やがて来る死は恐怖の対象にならない。 たとえそれが死刑という最悪の形だとしても。 彼等にとっては平凡こそが、憎むべき敵であり恐怖でもあるのだから。 そりゃもしかしたら死の直前はビビるかも…でもそれはまた別の話。 今はほら、目の前に獲物がいる。「そろそろ戦いをおっぱじめようか?」 「いつか来る死の恐怖は先にお前が食らっておけよ。」 耳をろうする轟音と火薬の臭い。大砲の発射を合図に戦闘開始。 狙いを定めたマスケット銃が舵手を倒し、船は衝突。 大勢の海賊どもが武器を手に手に獲物の船になだれ込む。 戦おうとする者はいない。勇敢にも立ち向かえば、手練れのカトラスに 喉を切り裂かれるだけだ。彼等の強さは嘘じゃない。 世間の常識を捨てた時から、海の厳しさを知った時から、 彼等は甘えて生きて行く事は出来なくなった。 それが自分の求めた夢への代償だから。 だからこそ彼等は強さを誇張する。ことさらに。 ジョリーロジャーはただの旗じゃない。目印でもない。 敵への威嚇だ。獲物に近づき旗を掲げて降伏を促す。 赤の無地は全員の死を意味していた。半月刀の旗は容易に死を 想像させ、砂時計は死までの時間が迫ってるという脅し。 そうやってまた一つ夢を手にして行く。人々の恐怖と引き替えに。 「まぁ、そう言うな。俺もいつかは同じ運命だ」 さて今日の酒はどんな味がするだろう。きっと極上だ。 だから止められない海賊は。明日もやつらはせっせと船を漕ぎ 戦いにでる。真っ青な空の真下の海の上。
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