何だか腹の中がぐぼぐぼ言ってる衛澤です。
私は昨年の夏に現在の住居に引っ越してきました。マンションの一階で、六畳くらいの庭があります。その一隅に、前に住んでいた人か、そのまた前に住んでいた人かは判りませんが、私が知らない人が植えたアロエが置いてけぼりになっています。
アロエと言えば「医者要らず」、アロエ科アロエ属の多肉植物で外皮を剥けば食用にもなるという、とても人間の役に立ってくれる植物です。
最初のうちはせっかく生えているんだしそのままにしても……と私も思っていたのですが、昨年自分で植えたのにいまでは放置してしまっているパセリやローズマリーと一緒に処分してしまうことにしました。とにかく、庭を真っ平らに。
盛夏から初秋にかけて私は体調が芳しくなく、ほぼ寝たきりの状態だったのですが、そのときにちらりと覗いた窓の外が、鬱蒼と緑が生い茂っていて、植物に居住区を侵略されそうな圧迫感を感じていたのです。
さて、今日の当地方は快晴で気温も一九度と過ごしやすい陽気です。庭に生えているすべての植物を引っこ抜くべく私は庭に立ちました。
引っ越してきたばかりの頃に一度一掃して、一年経ちました。私が植えたものは大きく育ったり大きく育ちすぎて立ち枯れたりしていますし、私が植えた憶えのないものも沢山生えています。見たことがない植物も多数。昨年の同じ季節には生えていなかったひっつき虫の草(
コセンダングサ)が沢山生えて大きく育っていて、着ているTシャツにも付けている軍手にも痩果の砕けたのが刺さってちくちくします。
そもそも、私が今回の庭掃除を思い立ったのも、同居猫がコセンダングサの痩果片を身体にいっぱいひっつけて屋内に持ち込んでいるからなのです。
そういった背の高い植物と格闘した後、アロエに行き着きました。信じられないことに、私がはじめて見たときの倍ほどの大きさに成長しています。背の高さ八〇センチメートルくらい。最早やただの植物ではなくなっているのではないかと思うほどの威風。でも御免ねきみを引っこ抜いちゃうよーん……と根の辺りにスコップを差し込もうとしましたが、根が何処かすら判らないくらいにアロエは大きくなっています。手強い。
根っこを掘り起こしてまるごところんと抜いてしまおうという計画はここで頓挫であります。あまり気が進まぬままにアロエの枝(?)に手をかけてめきょめきょと広げてそれを取っ手に引っぱります。すると、ぱきんと乾いた音を立てて根元から折れます。もう長い間世話をされずにいたアロエは根に近い部分が枯れてしまっているのです。
外側に見えている部分は青々と棘々としているけれど、折り重なって隠れている部分はすっかり枯れていて、生きているとも死んでいるともつかない中途半端なこの状態はつらいのではないだろうか。きちんと世話をしてやれば生き返るのかもしれないが、いまの私は自分ともう一匹の世話で精一杯だ。何ともせつなく。
ざくざくとスコップで土を掘り返し、私はアロエの枯れた部分を折り続けました。
手に掛かる枝葉がなくなってしまっても、アロエの根は土に張ったままです。随分土も掘り返してそろそろ「ころん」と土から抜けてもよさそうなものなのにびくともしません。
土を掘り返しては、アロエの茎に両手をかけ全体重(今日の計量で七六キログラム)をかけて引っぱるのですが、それでも抜けません。畏るべし植物。掘っては引っぱりを繰り返して約三〇分、やっとアロエは土から離れました。全長八〇センチメートルの一ト塊と思っていたアロエは四五リットルの袋二ツ分になりました。私は背中の筋肉(「引っぱる」動作をするときに用いる)が痛くなっていました。
アロエが植物だから背中が痛い程度で済んでいますが、これが意志を持って動いてまわる生きものだったら自分は負けていただろうなと思いました。