衛澤のどーでもよさげ。
2006年12月13日(水) ぎゃぼーっ!(撮影その1)

また横浜に行ってきました。片道九時間かけて。

前回は二〇〇六年度海上自衛隊観艦式予行演習参加艦に乗艦させて頂くために取材の名目で行ったのですが、今回は給料こそ出ないものの一応仕事をしに行きました。
ドラマ「のだめカンタービレ」第一〇話撮影にエキストラとして参加してきたのです。

撮影場所は青葉台フィリアホール。ここで、主人公のだめが参加している「マラドーナピアノコンクール」の後半部分の撮影が行なわれました。私を含む集まった五〇〇人ほどのエキストラはこのコンクールの観客役です。

私が住む街から横浜市まではバス一本で繋がっています。それに乗ると約九時間で着きます。地元を撮影前夜二一時三〇分に出発、横浜駅に翌午前六時三〇分に到着します。横浜駅から青葉台までは電車で約四〇分。七時三〇分にはフィリアホールが入っている建物青葉台東急スクエアに着いてしまいました。しかし撮影は午前午前一〇時三〇分から、エキストラ受付は一〇時一五分からで、七時三〇分では東急スクエア自体がまだ開いていません。
地上階のスターバックスだけは午前七時から営業していたので、そこで「本日のコーヒー」を頂きながら東急スクエア開店時間を待ちました。入店時には私ともう一人しかいなかったスターバックス店内は、一〇時も近くなるとエキストラらしき人たちで大混雑に。エキストラは予め「ジャケット着用などのいい恰好で」と服装の指定を受けているので身姿でだいたい判るのです。

受付開始時間と集合(撮影開始)時間、そして集合場所だけを伝えられていたので東急スクエア開店後に店内を通ってフィリアホール正面玄関に赴けばいいのかと思いきや、入場は関係者用裏口からでした。さいわい、私はmixi内「のだめカンタービレ【ドラマ】」コミュニティで「建物裏側から入場」の情報を分けて頂けたので直ぐに行くことができましたが、これがなかったら暫くうろうろしてたかも。「のだめ【ドラマ】」のみなさま、有難うございます。
関係者用入口から入り貨物兼用と思しき大きくて装飾のないエレベータに乗せられてフィリアホールが入っている五階まで。第九話で「ねぐせドレス?」と呟いた審査員オクレール先生役の方と同乗してしまいました。背、でっかいよオクレール先生。

エキストラはA日程参加者とB日程参加者とに予め分かれています。A日程は一〇時三〇分〜午後一八時の拘束、B日程は一〇時三〇分〜一五時の拘束。私はA日程参加でした。
ホール内の席取りはA日程参加者から前へと詰めていったようで、下図のような場所にすわることになりました。

フィリアホール座席表(撮影前半)


丁度、私が席に着いた辺りにステージ上にのだめ役の上野樹里嬢が例の「ねぐせドレス」姿で現れ、それだけで満場の拍手! 思わず手を打ち鳴らしてしまうくらいにかわいいんですってば、ほんとに。テレビで見るより確実に五割増しはかわいいです。
うひゃー、生のだめだあ。私がいた前から六列めって、結構ステージに近いんですよ。かわいさの波動のようなものを感じましたデスよ(のだめ口調)。

(※註:ここから先は来週一八日放送分の第一〇話の内容に触れます。ネタバレ御免の方はお読みにならないように御願いします)

ここでは、第九話の終わりにのだめがコンクールでショパンのエチュードを弾いている途中に幼馴染みの悠人くんを見つけてしまい、それによって幼少時のトラウマが蘇り、演奏がぐだぐだになってしまった、その続きの場面を撮影しました。
ぐだぐだのままショパンを弾き終えて、ぐったりするのだめ。続いて演奏するはずのドビュッシー「喜びの島」を弾きはじめる様子がない。どうしたのかとざわめく観客。そわそわするハリセン江藤先生、そして千秋センパイ。うつろなのだめは観客席の方(ハリセンがいる方)へと視線を向けるが、その視界には千秋センパイが。我に却ってドビュッシーを弾きはじめるのだめ。千秋センパイを見つけたのだめはよろこびに満ちて「喜びの島」を弾く。その演奏にうっとりと聴き入る観客。演奏が終わると場内大喝采!
……という場面を、一〇時三〇分から一五時の間に撮影したのです。この場面だけを、いろいろな角度から、何度も同じことを繰り返して撮影するのです。

撮影はカメラを二台使用しますが、お互いが映り込まないように、かつさまざまな方向から撮影しないといけないので、カメラの位置を変えつつまったく同じ演技を何回もして、複数の視点の撮影をすることになります。
たとえば、のだめの背中越しにのだめの正面上方(二階席)にいる悠人くんを捉えたり、悠人くん視点でのだめを見下ろしたり、ピアノを舐めてのだめの表情をアップにしたり、客席から(千秋視点で)ステージを捉えたり、或るいはのだめ視点で客席を見たり。
このように視点が変わるので同じ場面を何度も撮影することになりますし、一回の撮影の度にリハーサル、カメラテスト、本番と同じことを繰り返します。とても時間がかかるのですね。撮影前の前説(事前説明)でスタッフ氏が「九話の放送が終わったのにまだ一〇話の撮影やってまーす」と半ばネタとして仰っていましたが、これだけ手間がかかればぎりぎりにもなるよな、って。

何度も同じことをするので混乱したのか、或るときには本番カットの声がかかったところで上野樹里嬢が「あ、いまの本番だったんですね」ととぼけたことを仰いました。とぼけ具合いがのだめテイスト。
こういう台詞が出てくるということは、リハーサルもテストも本番も同じ気持ちの入れ方で御芝居しているってことですよね。テストだから、本番じゃないからって手を抜いていない証拠です。流石。

樹里嬢は、実は素からのだめっぽい人のようで。
撮影と撮影の間、機材の移動の時間などで現場で待っていなければならない間、ずっとピアノにさわっているのです。じっとしていない。御芝居に必要な演奏の手振りを練習したり(このときは鍵盤を叩いて鳴らさない)、実際に鍵盤を叩いて音を鳴らしてみたり、何か弾いてみたり(ピアノを習っていたことがあるそうです)、ときどき観客席に手を振ってみたり、とにかくじっと待っているだけということがない人でした。
ちなみに撮影用のピアノは音は出るものの、響かないように調律してあるみたいです。大きな音が出ない。

この撮影は主にのだめの演奏の場面なので、のだめ、千秋、ハリセンの三人が登場しますが、台詞らしい台詞がありません。ショパンを弾き終えたのだめがうわごとのように呟く「千秋センパイ……ドビュッシー……」だけです。
だから客席で演奏を見ている千秋役玉木宏さんは台詞がなくて、また観客の一人としてすわっているだけのときはすっかりエキストラの中に溶け込んでしまっていて、席の位置を知っていても探さなければならないほどでした。「千秋くん溶け込みすぎ!」と何度か胸の奥で突っ込んでしまうほどでしたが、いざカメラが向いて、ステージ上ののだめを心配する演技をはじめた途端に昇り立つ役者オーラには息を呑みました。しかも台詞がないのに心配と安堵を短時間に表現しなければならない演技ですよ。遠目に見てもすばらしかった。
すわっているだけのときは(私から見て)遠くにいるハリセン江藤役の豊原功輔さんの方が存在感が強くて判りやすかったのですが、芝居がはじまると何のそのです。

私は玉木さんの外観から想像するより低めの声が好きで、声が聞けないのは残念だなあと思っていたのですが、一度だけスタッフとのやり取りで喋る声を聞くことができました。
ステージ上ののだめが観客席の方を見て、観客席の千秋センパイがのだめを見つめて、という場面で、お互いを捉えていなければならない芝居のとき。カメラは千秋役玉木さんだけを捉えるのですが、彼の視線を定めるために映らないけれどのだめ役樹里嬢がステージ上にいます。
樹里嬢「でも、ここから(玉木さんの)顔、見えませんよ」
監督氏「そっち(玉木さん)からはこっち(樹里嬢)の顔、見えてる?」
玉木さん「照り返しで見えません」
お互い見えてない。通じ合っちゃう場面なのに。とほほと思いつつも、その低い声に萌え。
玉木さんからはステージ上に置かれた照明やレフ版や、ピアノに映り込んだ照明光のために樹里嬢の顔が見えなかったらしいので、対策としてピアノ用の椅子を一旦よけて、機材の下駄やスタッフの踏み台として使われているらしい木箱に監督氏が自分の上着を被せたものに樹里嬢をすわらせて少しだけ顔の位置をずらして見えるようにする、ということをしていました。

撮影と撮影の合間にピアノ前に腰掛けた樹里嬢が観客席のエキストラ一同に質問。
「原作読んでる人〜」
観客席で一斉に挙手するエキストラ。
「ドラマ見てる人〜」
原作読んでる人よりも沢山挙がる腕。腕。腕。観客席でスタンバイ中の玉木さんも挙手。一同笑。
「どっちも手を挙げた人〜」
「どっちも手を挙げなかった人〜」
と続けて質問する樹里嬢。この質問の仕方だと「手を挙げられない人」がいないことになるんですよね。喋り方と言い気のまわし方と言い、幼稚園の先生志望ののだめと被って微笑ましい(*´ー`)。
更に続けてスタッフ氏「一昨日(テレビ放送された映画版)NANAを見た人〜」
この「NANA」が放送された枠というのが「のだめ」放送枠の丁度裏だったのですね。しかしそこで。
「あっ、いま玉木が手を挙げました!」
うれしそうにのだめ口調で指摘する樹里嬢。スタッフと役者が仲がよく、いい雰囲気で撮影が進められているのがよく判る一場面でした。

ステージ上で演奏するのだめ、その演奏を見ている観客とを概ね一緒に撮ってしまいます。ステージの奥からのだめ越しに観客席を見る位置にカメラが設置される画面なので観客のリアクションも概ねここで。ショパンが終わってぐったりしたままなかなか次の曲を弾きはじめないのだめを訝ってざわつく様子や、ぐだぐだショパンとは一変して名演奏となるドビュッシーに心地よく聴き入ってしまう様子などの芝居が要求されます。
忘れてはいけない、勘違いしてはいけないことは、前説でスタッフ氏も仰っていましたが、我々エキストラはその他大勢役ではありますが必要とされて役者として現場にいるのであって、撮影見学に来ているのではないということ。指示・指導をきちんと聞いて芝居を実践しなければなりません。
ざわつく内容などは即興です。具体的には提示されないのでエキストラ一人一人がその場で考えて口に出します。「ざわざわしてください」という指示は出ますが同時に「ざわざわって言わないでください」という注意もわざわざあります。

演奏中ののだめを捉えるステージ上からの視点を撮り終えると、今度は観客席にいるハリセン江藤と千秋センパイのそれぞれの表情を撮ります。先に撮った「ざわざわ」や「心地いい」の途中の場面なので、エキストラはそれぞれの場面に合わせてやはり同じ芝居を要求されます。ざわつく声の素材は既に撮り終えているので「口パクでざわざわしてください」という場合もあります。のだめが演奏を終えた後の拍手も「音を出さない拍手」が必要な場合もありました。
「ざわざわ」や「拍手」、それからのだめ演奏後の「喝采」は我々エキストラがそれぞれに出した声が素材になっているので、私が画面に映っている確率は著しく低いですが声はほぼ確実に入っているはずです。第一〇話エンドロールにクレジットされる「全国ののだめファンのみなさん」には私も含まれております。ハイ。

のだめが演奏を終えて拍手喝采を受けるまでの場面を撮り終えると、千秋センパイ役玉木さんは撮影終了。一旦控え室に戻るハリセン江藤役豊原さんと一緒に退場する際に観客席に手を振ってくださいました。私の近くの席にいたエキストラ女性は「玉ちゃんかっこい〜」と目がハートでした。
役者さんが一旦引き揚げて、最後に「のだめ腕」の撮影。ピアノを弾いている手先をピアノスタントのお姉さんが演じます。
樹里嬢もピアノを弾く腕の動きを充分に練習していますが、流石に「天才のだめ」の指の動きまではこなせません。そこで演奏の専門家が手先部分だけ代役をするのですが、その指の動きはまさに「鍵盤の魔術師」です。撮影中は集音能力が高いマイクを使用するため静かにしていないといけない(携帯電話のバイブレーション音まで拾ってしまうので電源オフの指示がありました)ので固唾を飲んで見守っていましたが、「はい、OK!」の声が掛かると同時に会場内一斉に拍手。何の指示もないのですが、思わず拍手してしまう指使いだったのです。

B日程、つまり一五時までに予定されていた撮影はこれでお終い。時刻は一四時四〇分、少し早めに終えられたようです。B日程参加のみなさんはここまでで解散し、A日程参加者は約三〇分間の休憩に入ります。ここでやっと昼食です。
この記録も後半へ続く。


エンピツユニオン


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