横浜市に行ってきました。横浜という街とぼくとの関係については明日付の記事に譲って、先ずは観艦式について。
海上自衛隊の観艦式は三年に一度行なわれます。観艦式とは、海上自衛隊の各種艦艇及びその他装備や自衛官の練度を、自衛隊最高指揮官である内閣総理大臣や国民に見て貰う式典です。主に装備品展示と訓練展示で構成されます。
装備品には兵装品だけでなく艦艇や航空機なども含まれます。「展示」と言っても置いてあるものを勝手に見てくださいというものではなく、自衛官が日頃の訓練の成果として実際に動かしてみせます。訓練の成果、つまり練度も展示するもののひとつです。訓練展示も同じことで、洋上航行や海中からの浮上のほか砲雷射撃や空中爆撃なども実演してみせます。
何故、三年に一度かと言うと、陸上自衛隊の観閲式と、航空自衛隊の観閲式と、一年に一度ずつ交替で行なうからです。海上自衛隊の場合だけ観閲式と言わないのは、主に艦と艦隊行動の練度をを観て貰う式典だからです。予行演習が二回と式典本番が一回行なわれ、それぞれの参加艦艇に民間人も乗艦することができます。但し民間人の乗艦は乗艦券配布の抽選で当選した者に限られます。
観艦式参加艦艇乗艦を希望する者には、葉書もしくはインターネット上からの申し込みをして抽選の結果当選すると、このような乗艦券が送付されます。
上図は艦艇が停泊する港構内に入る際に提示して、半券をもぎった後のものです。自衛隊が回収する半券には住所、氏名、年令、性別が明記されていて、記載の本人以外は乗艦拒否の対象となります。
乗艦券を提示した後は、空港に設置されているのと同じゲート型の金属探知器をくぐって、更に手荷物検査を受けます。軍事機密を盗まれたり爆破されたりしてはいけないので、厳しくチェックされます。
この日、ぼくが乗艦を許されたのは護衛艦「まつゆき」。艦番号130、全長130メートル、排水量3050トン、速力30ノット。兵装は62口径76ミリ速射砲1門、74式アスロック(対潜水艦ロケット砲)1機、20ミリ機関砲2門、68式3連装短魚雷発射管2門、対艦誘導弾(ハープーン)8門、短距離対空誘導弾(シースパロー)1機。
上の写真は「まつゆき」の上甲板から見た、前方(艦首側)に停泊中の護衛艦「さみだれ」(左)と試験艦「あすか」(右)。「あすか」へは「さみだれ」から桟橋が架けられていて、「あすか」に乗艦する人は「さみだれ」の甲板を通り抜けてそれを渡ることになります。
「まつゆき」も護衛艦「さわゆき」と並行して海側に停泊していて、「さわゆき」を通り抜けて乗艦しました。港から「さわゆき」へ、「さわゆき」から「まつゆき」へ、2回桟橋を渡ったということです。
この日は一日曇天との予報でしたが、時折雲間から陽が差し込んで「ヤコブの梯子」が見えました。
並んで停泊している2隻の間はこんな感じ。隙間なんてほとんどないくらいにぴったりくっついています。写真中程に見える2本ずつ並んだ筒はハープーン(対艦ミサイル)発射装置。左右両舷に装備されているもので、「さわゆき」の右舷のものと「まつゆき」の左舷のものとが並んで映っているのです(艦首側から艦尾側に向かって撮影)。
上図は「あすか」出港作業の様子。どのような秀れた艦艇もタグボート(曳航船…右側に写っている小さな船)の協力がないと入出港ができません。タグボートに引っぱって貰ったり押して貰ったりしてバース(港の岸壁)から離れたり寄ったりするのです。航空機を飛ばすのはパイロット一人の力ではないのと同じです。
観閲は各7隻からなる観閲部隊と観閲附属部隊が各一列縦隊で並行に航行している間を、対面から航行してくる8群23隻からなる受閲部隊、3隻からなる展示艦艇部隊、8群9機からなる受閲航空部隊が、それぞれ通り抜けるというかたちを取ります。ぼくが乗艦した「まつゆき」は観閲附属部隊の先頭から2番めを航行していて、その後ろには護衛艦「あぶくま」、潜水艦救難艦「ちはや」ほか3隻が続いてきます。
上図は「まつゆき」の艫(艦尾)に掲げられている艦旗越しに見える「あぶくま」と「ちはや」。航行する艦を艦首から見るのはめずらしい経験です。ぼくははじめてでした。
観閲部隊・観閲附属部隊と受閲部隊が擦れ違って観閲が行なわれるのだということを民間人のお子さんに説明している二尉殿。「二尉」とは「二等海尉」、旧海軍で言う中尉殿です。澄んだ黒色ネイビーブラックの常装第一種制服(冬服)の袖に光る階級章が恰好いいですね。水平線上にはこちらに向かってくる受閲部隊の艦影が見えます。
航海中は幹部(士官)も曹士(下士官・兵)も大抵作業服を着用するのですが、この日は観艦式という式典(の予行演習)なので正式な服装である常装を着用しています。
さて、これからが艦艇・訓練展示です。
観閲部隊旗艦(一番偉い人…今回の場合は内閣総理大臣が乗艦する艦)である護衛艦「くらま」の前方45度の位置を基準点として、先ず受閲部隊第1群3隻が祝砲として5インチ短装速射砲を撃ちます。砲が火花を吹いた数秒後にドン!と轟音が空気に響きます。
続いて後続の第2群がボフォース対潜ロケット弾発射、第3群艦載回転翼機(SH-60K哨戒ヘリコプター)発艦、第4群旗艦を除く潜水艦3隻によるドルフィン運動(急速潜行・浮上)、第5群補給艦「ときわ」による洋上補給、護衛艦「はるさめ」によるIRフレア(熱源追尾ミサイルを騙す燃焼剤)発射、護衛艦「やまゆき」による甲板散水(生物化学兵器を使用された際に艦体を洗浄する)、第6群ミサイル艇・LCAC(水陸両用ホバークラフト)高速航行、救難航空機US-1A離着水(US-!A機は超低速飛行と洋上に降りたり洋上から飛び立ったりができる)、対潜哨戒機P-3CによるIRフレア発射と対潜爆弾投下、等々が行なわれます。
何れもこういう機会にしか見られないめずらしい展示で、それが近接距離で見られるために非常に昂奮しました。特に潜水艦の、喫水線が明らかに見えるほどのアップトリム(仰角)での急浮上や、P-3Cから落とされた対潜弾が海中で爆発したときに上がる大きな水柱や自分が乗艦している艦体に響く爆圧は、写真や映像では体感できない迫力があって、何と表現しましょうか、一ト言で言うなら「たまらん!」
それなのに、訓練展示の写真が1枚もここにないのは、観艦式に参加できることで舞い上がったぼくが出港時から携帯電話のカメラ機能でばしばし写真を撮りまくって、訓練展示がはじまる頃には電池切れでカメラが使えなくなるという間抜けたことをしてしまったからです。
でも、観艦式の様子はきっと再来月号辺りの「
世界の艦船」に特集記事として掲載されるでしょうからそちらを御覧ください。まあ何てひどいオチ。
代わりと言ってはナニですが、雑誌等ではおそらく見られない写真を1枚。
「まつゆき」の艦内食堂から見る厨房です。ここで給養員(調理師や栄養士の資格を持った自衛官)が乗員180名分の食事を毎日つくるのです。