「ベージュ」と呼ばれる色を御存知でしょうか。和名を「白茶」という、こういう色です。
上に示した色はモニタの発色能力によって多少違ってくるので飽くまで近似色ですが、茶色の淡いやつでこんな感じの色、ということを判ってください。
この色が衣服等の身に着けるものに用いられたとき、ちょっとした罠になります。
一九八〇年代の半ば辺りから洋服にダウン素材が使われるようになりました。ダウンとはくたばることではなく、羽毛のことです。一九八〇年代半ばよりももっと以前から服飾の世界では使われていたのかもしれませんが、カジュアル衣料としてリーズナブルな価格で一般に普及したのはこの頃のことです。
先ずは
ダウンベストが流行しました。袖がない上着ですね。この少し後に袖が付いた
ダウンジャケットが普及しはじめました。
ダウンベストもダウンジャケットも、ダウン即ち羽毛が使用されているのでふわふわもこもこしていることがお判りになるかと思います。
さて、注目はダウンジャケットなのです。
或る冬の午後、しんと冷える街で友人と待ち合わせをしていたときのこと。少し離れたところにとても筋肉が発達した、ボディビルダーのような体格の男性が上半身裸で歩いています。あれほど鍛え上げられた体躯ならこれみよがしに剥き出して歩きたくもなるかな、とは思ったものの、幾ら何でも冬に上半身裸は寒すぎるだろう、とちょっと呆れながらもう一度見直すと、その人は筋肉隆々の半裸男性ではなく、ベージュ色のダウンジャケットを着た男性でした。
という、うそのようなほんとうの話を、私は複数の人から聞き及んでいます。
この話は「ダウンジャケットの罠」のようにも思われますが、問題点はベージュ色にあるのだと私は思っています。ほかにも、こんな話があります。
夏に向かい気温も高くなってきた或る日のこと。スポーツクラブのプールに通いはじめた或る女性は普段眼鏡を掛けていますが、プールの中では眼鏡をゴーグルに換えます。そのゴーグル越しに、何と全裸の男性がいるのが見えるではありませんか。全裸男性は何喰わぬ顔で水に入り、さっそうとクロールで泳ぎはじめます。
何て大胆な。いやしかし、スポーツクラブの規則では水着を着用しなくてはならないはず。見てはいけないと思いつつもどうしても見てしまうその眼が見たのは、ベージュ色の海水パンツをはいた男性だったそうです。ゴーグルのレンズにも眼鏡と同じように度が入っていればいいのに、と思ったとのこと。
更には、如何にも童顔の若者なのに頭がつるつるの人がいて、剃っているにしては毛根すら見えないきれいなスキンヘッドだ、と思っていたらベージュ色のバンダナを頭に巻いた人だったとかいう話もあり、ベージュ色の罠に引っ掛かった人の話は後を絶ちません。
このような見間違いどっきり体験は決してめずらしいことではない、ということですね。と、すると、全身ベージュ色でトータルコーディネートして街を歩けば、擬似ストリーキングや擬似ヌーディストになる、ということでもあるのでしょうか。
……ほんとうにどーでもよさげな話だなあ。
【今日の私だけでは】
劇団ひとり氏とグッチ裕三氏を時折見間違えます。