2003年10月20日(月)
酒蔵への道〜その10

稽古もあと数回を残すのみになった。土曜、日曜は有鄰館酒蔵での稽古だった。偶然が幸いして、思っても見なかった展開になった。

というのは、土曜日、舞台の設営をしている時だった。発泡スチロールの板を敷き詰め、その上に地がすりを敷いて舞台にする予定だったのだが、別の劇団が公演中で、発泡スチロールの板をかなりの数、観客席用に使用していたため、私たちの舞台が設営できない。これは困った。今作っておかないと、次に有鄰館に来られるのは本番前日しかない。前日を舞台設営に取られるとゲネプロができなくなってしまう。どうする、どうする!

打開策を探しに、倉庫へ行くと、平台(能舞台などに使う大きな雛壇のような板)が10枚ある。しかも、どこの劇団も使う予定はないと言う。採寸すると私たちの舞台にぴったりの大きさだ。すぐに敷き詰める。まるで酒蔵を四方舞台にするためにあるような平台だった。

しかし、問題発生。上を歩くと、至る所で不気味なきしみ音を発する。酒蔵のコンクリート打ち放しの床は真っ平らではない。高さ調整が必要だ。新聞紙や段ボール、ベニヤ板の切れ端を詰め込むが、それでも、いやなきしみ音は止まない。原因究明に時間を取られるが、何とか解決した。






かかとで踏みならすといい音がする。能や狂言で演者が立てるあのトンという音だ。始めのうち、役者は音を立てる快感に酔いしれ、台詞が聞き取れなくなる場面も!それにしても、木の音の力よ!

日曜日は顔をして稽古する。歌舞伎用の白粉を水で溶いて、刷毛で塗る。いい顔になる。ギリシア悲劇の仮面のようでもある。大駱駝鑑のようでもある。トイレに行く時、ひとりで外に出るのは恥ずかしいらしく、みんなで行く。みんなで行けば怖くない。いや、いや、それをたまたま見かけたひとが怖い思いをした!?

充実した稽古を終え、あとは大学の舞台で3日稽古していよいよプレビュー公演だ。台本を書き上げた時は、書くことに夢中で演出のことなどほとんど考える余裕がなかった。こんな劇になろうとは、夢にも思っていなかった。素晴らしい裏切りだ。観念と現実の決定的な違いだ。

あとは、張りつめた空気を、心地よく作り出すための稽古だ。本番が楽しみだ。

それにしても有鄰館のスタッフのひとたちは本当に気持のいいひとたちだ。宿を提供してくれたり、照明の仕込みを全部やってくれたり、当日の受付や、駐車場案内などもやってくれる。ありがたいことだ。頭の下がる思いがする。


 < 前へ  もくじへ  次へ >