すずキみるくのGooden 妄言
旧牛乳式形而上精神論理構造研究所日報

2007年08月24日(金) いいわけ

急にこわばった沙紀の背中を怪訝に感じた俺はよく目をこらしてみてすぐに自分が凍りつくことになった。俺のベッドの周辺を掃除していた沙紀の手の中には、少しきつめに脱色された長い髪の毛が一本からみついて光っている。ちなみに沙紀の髪はせいぜい肩に届くかとどかないかぐらいで脱色もそんなにきつくない。明らかに彼女の髪の毛ではない。バンドやってる長髪の男が友人にいるというカバーストーリーを以前に話したことはない。これはよくない、非常によくないことだ。

沙紀と付き合いはじめてそろそろ半年ぐらいになる。そうなると彼女が俺の部屋の掃除という一種の領土確保ないしはテリトリーのマーキング行為を実行に移すことも十分にありうる事態といえる。

「今度の休み信弘の部屋遊びにいってもいい?」

ある程度予想されていた事態だったし、別にやましいこともなかったので俺はすぐにその申し出を快諾した。

「いーよ。あ、土曜は仕事になっちゃったから、日曜日しかあいてないけどいい?」

「わかった。そんじゃ日曜日ね。」

このとき土曜は仕事といったが実際には仕事はない。なんでそんなウソをついたかと言えば、部屋の掃除をするためだ。独身男性の一人暮らしのご多聞にもれることなく、俺の部屋も少々散らかっている。・・・少々というか、大分。部屋のまんなかにおいてあるテーブルの上にはビールの空き缶が何本かそびえたちまるで新宿副都心のような様相を示しているし、3か月前に買った雑誌類がそのまま部屋のなかを散乱している。ゴミにかんしてはここ一カ月ほど出す機会をなくして、大きなビニール袋が二つそのまま玄関の入口に残っている。テーブルの上の副都心の真ん中ぐらいには吸いがらでいっぱいの灰皿が公園のように設置されている有様だ。みんなこんなもんだとは思っているが・・・それにしても少々ヒドイ。ありのままの自分を見せるというのも一つの方法かもしれないが、このレベルはさすがにヤバい。あきらかに引かれるレベルだ。

そんなわけで土曜日は部屋の掃除に一日をあてることになった。まともな掃除となるとほぼ半年分ぐらいになる。どこから手をつければいいのかわからなかった状態から格闘することほぼ一日。夕方の七時ぐらいになればさすがにある程度片付いた状態になってきた。なんとか風呂掃除もおわってあとはシンクのあたりをざっとふいて・・・大体終了になる。あした俺の部屋にくると同時に沙紀は、

「へー、結構かたづいてるじゃん。」

とつぶやくだろう。おれはそれを横で聞きながらニヤニヤしてやるのだ。そう思ったところでのどが渇いたので、ビールでも買いに行こうかとサンダルをつっかけたとき、玄関の掃除はまだやってないことに気付いた。玄関にも砂やピンクチラシが溜まっている。こういうのも面倒くさいからゴミをとって吐き出さなければと思った時だった。

よく、魔がさしたという言葉が使われるが、その時のおれは間違いなく魔がさしていた。さしまくっていた。ちなみにその時の自分への言い訳は、

「いやさ、掃除はしたけどさ、しっかり部屋がきれいになってるかどうか不安じゃん?そりゃあ、おいらでできるところはしっかりチェックしてるつもりだけどさ、所詮セルフチェックだからさどうしても甘くなっちゃうし。わざわざ友達よんで部屋の汚れをチェックしてもらうってのも鬱陶しいわな。だったら、実際に全く無関係な女の子に部屋に来てもらってもしなんか指摘されたらそこを気をつければいいんじゃないのかな?ほら、ああいうのってあまりに部屋が汚かったりシャワーがなかったりするとそのまま帰っちゃうっていうしさ。うん、あくまでもチェック目的チェック目的。べつにエロス方向に持ち込む必要はないんだからさ。まあ、もしもそういう流れになっちゃったってまあ、しょうがないって。」

そんなわけで、俺はピンクチラシに乗っていた電話番号にかけて二時間三万円でエッチな女の子をレンタルしてしたりしてしまったのだった。

そんなわけで、沙紀の右手にはしっかり脱色された茶髪のロングで、けっこう巨乳で黒い下着がセクシーだった美樹ちゃんの痕跡が握られている。なかなか性格もサバサバ系でフェラがかなりお上手なすんばらしいセックスマッスィーンであった。巨乳でありながら乳輪は平均並みないしは小さめ。そしておまんこの味はさわやかシトラス系だった。ちなみに俺は風俗では絶対にクンニを励行する。クンニしなければ風俗で遊んだ気がしない。西原先生もいっている。「何人のマンコなめたかで男の価値は決まるんだ。」と。

おっと、いけない、暴走してしまった。今問題なのは、昨日のデリヘル嬢の髪の毛が沙紀の手に握られてしまっていることだ。ドラマとかで散見されるこういうシチュエーションではほぼ100パーセント浮気を疑われ、またそれが実際にそうというパターンだ。いかん。はやく説明責任をはたさなくては。どっかの農林大臣みたいなひどいことになってしまう。こういうときにはヘタに嘘をつくと泥沼だ。事実をしっかりと、なおかつ上手にオブラートに包んで伝えねばならない。人間、正直が一番である。

「あ、その髪の毛はね。昨日うちに呼んだデリヘル嬢の髪の毛だから、大丈夫。いや、エッチが目的じゃなくて、部屋の清潔度のバロメータとしてね。ほら風俗嬢の住めない水質とかだとヤバいでしょ?そのチェックがメインでエッチなことがしたかったわけじゃないから。ま、まあ、そりゃやんなきゃ失礼だから、最低限のことはすることになったけど。でも大丈夫!ホントに体だけだから!心は沙紀一筋だから!あくまでもそういうことしただけで浮気でもなんでもないから!」

俺はこの一連のセリフを一気に口から放出して事態をおさめようとした。だが、そうしようと口を開きかけたとき頭の先っぽがジンジンするような違和感を感じた。・・・ヤバい。この感覚は久しぶりだ。小学六年のときに少年野球の地区大会決勝でホームラン打たれて負けたとき以来だ。

少年野球でピッチャーをやっていた時に、たまに投球しようとすると頭頂部がジンジンすることがあった。そういうときにそのまま投げた球は、まず間違いなくホームラン、ないしは長打になって、大量に得点をとられてしまう。それなら投げなければいいんだけど、キャッチャーのサインや監督のサインでどうしてもそれを投げなきゃいけなくなるときがあって、大抵、そんなときはそのまま長打、ないしはホームランになってしまうのだった。

俺が感じたのははそのときの感覚とほとんど同じものだった。やばい。このまま正直にいったら確実に満塁ホームラン打たれてゲーム終了になってしまう気がする。だめだ、この球は絶対なげれない。そういえば、風俗に行ったというと大抵の女はみごとに引いて俺のことをゴミかなにかとおなじものをみるような目でみるようになる。くそ、会社の同僚のOLどもめ。ちょっと一回風俗にいったのがばれたぐらいで一気に引きやがって。あのブスどもめ。もしもオメーラがデリヘルでおれの部屋にきたら速攻チェンジしてやるからおぼえてろよ。

とと、いかん。いまの問題はおれが社内のOLからゴミのように見られているということじゃなくて、沙紀にたいする言い訳をどうするかということだ。いくら、いろいろなところで通常の女のスペックを超越するところがある沙紀といえど、風俗行きを告白しても引かないという保証はない。いや、やはりさすがにアウトだろう。

そんなことを悩んでいるうちに状況はどんどん悪くなっていく。ぽかんとしていた沙紀の顔にだんだんと疑念が浮かび上がる。いけない、ここでうまくフォローしなけらばどんどん状況はわるくなる。だからといって、デリヘルよんだのをカミングアウトするわけにはいかない。どっちにしろ一種の気の迷いなんだ。心の浮気じゃないから大丈夫なんだ。とにかくそれだけは伝えなければいけない。

「あ、あのさあ、沙紀!」

むりやり声をひき絞ってだす。すこしおどろいた顔で沙紀がこっちを見る。

「お、おれ、お前を愛してるんだ!」

一瞬すっとボケた沙紀だが、すぐにうれしいのかはずかしいのか迷惑してんのかバカにしてるのかそのすべてを含んだような表情をしながら反応をかえしてきた。

「な、なにいいだすのよ?いきなり?」

「い、いや、だからつまりなんていうか、愛してるって言うかなんというか。」

すぐに自分の口に出した内容を後悔したい気分になる。確かに後悔したくなるが、しかし、たぶんそれは正しい。間違いを取り繕うことも大事だが、それよりもしなけらばならないことは、沙紀に愛情を持っていることを伝えることだ。マイナス要素を取り繕うのも重要だが、その前に愛情表現をしないとそれに付き合ってくれることもなくなる。今、俺が沙紀に話さなければならないのはそういうことだろう。それが、どんなにいびつで、かっこ悪くて、ばかばかしくて、ストレートすぎてでも。

「かんべんしてよー。あなた大人でしょー。一応。それなのにいきなりどうしちゃったっていうのよ。」

呆れた口調でぼやきながらも、俺の部屋を掃除する沙紀の手の動きはもとにもどりつつあった。あまりにもストレートで、なにもかんがえてなかったのでインパクトが大きかったのだろう。いつのまにか手の上の一筋の金髪はどこかに消え、掃除をする沙紀の背中だけがみえる。とにもかくにも、本日最大の危機をギリギリのところでおれは避けることに成功したようだ。

基本的に俺はバカだから、またどこかで似たような失敗をするだろう。今回のような奇跡的なラッキーは二度とおこらず、もっといくらでも面倒くさい事態に陥るかもしれない。だが、すくなくとも俺は沙紀を愛している。すくなくともそのことだけで、これからの馬鹿なことも無事ではすまないかもしれないが、それなりにやっていけるんじゃないか。そんな風におもえてきたあだ。

どんな馬鹿をやっても愛さえあればなんとかごまかせる。それは同時に愛がなけばなにをやっても無駄なのではないか?すくなくとも俺は沙紀への愛情にかけては誰にもまけない。それしかないけど、それだけでがんばるしかない。そんなことを思って覚悟にきめた初夏のとある一日だった」だった。


 <過去  index  >未来


みるく

My追加