美しい音楽はラジオからにわかに現れ、心をさらったかと思うとあっという間に日常の雑踏へ埋もれていく。日常の中で手を止めさせるほど力のある音楽との出会いは幸福であり、喜びである。このまま別れるのはまったく忍びない。そういうわけで、茶碗を洗いながら、537、537とつぶやいている。この数字さえ忘れなければ、あれにたどり着くことができる。モーツァルトの、ピアノ協奏曲第26番ニ長調《載冠式》に。神様、仏様、ケッヘル様である。