冷え込みの厳しい一日。
氷点下が続く厳冬期は、山で岩石崩壊がおきる。 さして風化もしていない岩塊がある日バーンと砕け、礫となって林道を塞ぐ。
巨大な岩塊を砕くものはただの水である。 わずかな隙間に入り込んで氷結膨張し、少しずつ岩塊の亀裂を深めてゆく。
ひとたび砕け散った礫は、もう決して岩塊になることはできないし、 重力の法則に従って流下するだけで、決してそこへ留まることはできない。
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ゆるぎない大きなものが崩壊する時、特別なものは何も現れないのだ。 日常の隙間に少しずつ、識別不可能な形でしみこんだものが、決定的な破壊を誘発する。
崩れ落ちて完結するものが自然ならば、 それは、もう仕方がないことなのかもしれないとも思う。
ただし、日本の場合、山というのは岩塊が露出している場所だけではない。 ほとんどの場所においてその上は森林であり、 ヒューマンスケールを越えた緩やかな速度で、変化するものでもある。
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