初雪が残る木曽谷へ。道行にメンデルスゾーンの無言歌集。
所用を済ませた後に、小さな茶店に寄ると、 女主人が顔を見るなり久しぶりと言った。 夏の1日、気まぐれに訪れた客の顔を覚えていて、 人なつこく話しかけてくる。
中途で初老の男性が饅頭を買いに。 「饅頭4つね。お使い物だから簡単でいいよ。」 「はいはい。今日も寒いね。」 「寒いね。もうこれから四ヶ月は駄目だね」 「駄目って何さあ」 「年よりにゃここの冬はしんどいってことさ」 「駄目ってことないでしょう」 「どっか暖かいとこで暮らしたいね」 「またまた。」
暖かいストーブの前で、たわいもない女主人の話を聞く。 正月のあいさつができる頃にはまた来ておくれよと言われながら、店を出る。
再び、メンデルスゾーン。 世界には、こんなにも穏やかな喜びや安心が存在するというのに、 何故Aは、あんな混沌と不安の中にいなければならないのか。
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